第9話 学校生活は、切なさと共に……

「レムリア様! 街の中を、まるで風のように走ったというのは本当ですか!?」


「えっと……どうだったかしらね……」


 あ……そうですね。


 今回の高速移動は、エミルを驚かせないように、アポカリプスの重力操作で体重0にして、シンプルに風に乗りながら走ったので、そう見えると思います。


「クイックの魔法だけでは、そんなことできないですよね……もしかしてレムリア様は、あの飛翔魔法を習得されているんですか!?」


「ご、ご想像にお任せするわ」


 あ、飛翔魔法とかあるんですか。


 アポカリプス以外は、なんか身体強化の魔法を使えているらしいです。


 ただ、ありないぐらい強化されるときもあれば、全然強化されないときもあったり、効果が安定しないので、よく分からない魔法だそうです。


「記録しか残っていない古代魔法を操るなんて、さすがレムリア様ですわ!」


「え? そ、そんな大層なものではないわ」


 あ、飛翔魔法って、古代魔法だったんですか。


 古代魔法を使えるのは、うちの執事様です。


 書物で存在を知っていたらしくて、もし魔力でこの現象を発生させるならって計算式を出して使うという、もうファンタジーというより、現代物ラノベみたいな感じで使ってます。


 こんな感じで、心の中で本音を語りながら、集まってくるクラスメイトの質問にレムリアとして答えていくのだが……


(うーん、困った……)


 正直な感想はこれだ。


 思った以上に、『お姫様抱っこをしながら飛ぶように走り抜ける女子学生たち』は事件になっていたらしく、この世界の、いわゆる新聞の一面になったそうだ。


 周囲も大騒ぎとなり、私(レムリア)を娘と見ていない父すら、『公爵家の令嬢として振る舞え』と手紙を出してくるくらいだ。


 まあその辺は、私の功績(アオイさんがやっている、地球の技術による領土経営の改善とか、道具開発とか、とにかく沢山)を盾に取って、アオイさんが上手く取りなしてくれたらしいが。


(とりあえず、どうしたものかな……)


 周りから見たら、モテ期到来! に見えるだろうが、親が有名人のせいで、こういうことが何回かあったので分かる。


 これは、既に存在している友達グループの話題作りになっているだけで、距離を置きつつ接するのは面白い、でも、友達とは違うかな~という状態なのだ。


(……だけど、今の私はここでは折れない! せっかく異世界まで来たんだし、楽しい学校生活デビューをしてみせる!) 


 話のネタだろうが、話しかけてくれているということには変わらない……つまり、友達になるチャンスという事なのだ!


 とりあえず、レムリアとしてボロが出ない程度に接しながら、様子を探っていると……


「レムリア。こっちの学級だったんですね」


 エミルが会いにきてくれる。

 

 こうやってみると、本当にエミルって美少女だ。


「あらエミル。ごきげんよう」


「……? ごきげんようです」


 レムリアモードの私に困惑しているエミル。


……そして、離れていくクラスメイトたち。


 ですよね……私と話すより、話題の2人がどんな話するのかとか、どんな関係なのかとかの方が、気になりますよね……


「その腕章……エミルは、隣の学級なのね」


「はい。レムリアとは離れてしまいましたね」


「ひとつの学級に編入生が二人も入るなんて滅多にないでしょうし、仕方がないわ」


「……そうですね」


 少し残念そうにしてくれるエミル。


 ありがとう……その調子で私に心を開いて、友達になってくれると嬉しい。


「あ、忘れるところでした。これを渡そうと思って捜していたんです」


 心の中で感動の涙を流していると、エミルが手提げ袋を渡してくる。


「これは?」


「お借りしていた下着です」


「……っっ!」


 驚きのあまり、噴き出しそうになるのを、なんとかこらえる。


「え、どういうことだ!?」


「下着を貸す仲……あのふたりって、もしかして!」


 まずい!


 このままでは初日から、あまりにもホットな話題をクラスメイトに提供してしまう!


 なんとかフォローを入れなくては!


 え~っと……あっ! そうだ!


「予備の着替え用のものだし、返さなくてもよかったのに。それにしても、木の枝に引っかかって下着が破れるだなんて、災難だったわね」


 よし、なんとかなった!


 自分の履いていたものを渡したとかではなく、あくまで予備!


 人前で下着が破れたと言ってしまうのは、エミルにとってちょっと恥ずかしいかもしれないが、フォローも上手くできたのではないだろうか!


 周りのクラスメイトたちも、これで納得を……いやそんな、「ちぇっ、つまんないの」みたいな顔されても、こっちが困るんですけど。


「下着が破れた? 私は、元から履いてな……」


「届けてくれてありがとう! 次からは、気をつけなさい!」


 追撃にも対応……これはもう、エミル天然への特効というパッシブスキルを手に入れたと言っても過言ではない。


「良い友達って感じだね~」


「なんだか尊いですわ……♪」


 え……さっき離れていったクラスメイトたちが反応している。


 しかも、徐々に近づいてきてる!


 よし、この調子で友達になり、楽しい学校生活を……!


「あ、そういえば、うちの孤児院の院長から伝言です。うちの馬鹿娘に、大事なことを教えてくれてありがとうございます、だそうです」


「大切なこと? 私、何か教えたかしら?」


「たぶん、これのことじゃないでしょうか」


「……ぶふっ!」


 自分からスカートをたくし上げるエミルを前に、もはや我慢できず、盛大に噴き出す。


 え、何!? この前もやってたけど、スカートたくし上げは、エミルが暮らしている修道院の儀式みたいなものなの!?


「本当は、体が締め付けられるのは上も下も嫌いなのですが、レムリアまで言うならしょうがな……」


「スカートは! 捲っちゃダメ!」


エミルの言葉を遮りつつ、手を握りながら強制的にスカートを下ろす。


スポーツ系のレギンスみたいだったけど、さすがに色々と刺激が強すぎる!


「……? でも、捲った方がレムリアに見せやすいでしょう?」


「……ぶふっ!!」


 な、なんて言葉をチョイスするのこの子は!


 それだと、私がいつもエミルの下着を確認しているみたいになっちゃうから!


「いやあの、これはそういう意味じゃなくて……!」


 エミルへのフォローとかそういう次元の話ではない!


 まずは、周りのクラスメイトたちに事情というか、言い訳をしようとするが……


「そ、そろそろ、次の授業の準備をしなくちゃな~」


「あの、レムリア様……私は、その……お、お邪魔しました~!」


 ああ~~待ってぇ~~……


 完全に自分の席なり、友達グループの定位置へと帰るクラスメイトたち。


 うう、さようなら楽しい学校生活……


「……みなさん、急にどっか行っちゃいましたが、どうしたのでしょうか。特に女の貴族さまはスカート抑えて、顔が赤かったですが」


 絶望のあまり机に突っ伏している私に目線を合わせるために、少し屈みながらエミルが話しかけてくる。


上目遣いになり、ちょっと可愛い。


「……エミル? 空気を読むって知ってる?」


「空気は吸うものですよ、レムリア」


 呼吸の概念ぐらい知っていますとばかりに、ちょっと胸を張るエミル。


 やっぱり可愛い。


 うちの執事様の次に可愛い。


「そうだね、エミルはかしこいね」


 そう言いながら、手を伸ばしてエミルの頭を撫でる。


「……はい」


 ちょっと嬉しそうにしてくれるエミル。


 向こうから……


「きゃー!」


「やっぱり、あのふたりって……」


 という歓声が聞こえるが、もうフォローとか言い訳とかどうでもいい。


 とりあえず今はすべてを忘れて、エミルのさらさらな髪と、可愛い顔を堪能することにしよう。

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