06 【飢餓のテクセリア】(後半)
【飢餓】暴発対策の日常的な身体強化の使用と共に、魔力を絞って扱う訓練も始めましたわ。
お庭でブリジットと一緒に、特訓の日々ですの。……前途多難ではございますけれど。
たとえば。
「"
「レオお嬢様、花壇に向かって大雨のごとく散水するのはおやめくださいませ。庭師が青い顔をしておりますので」
あるいは。
「"
「レオお嬢様、口調が乱れていらっしゃいますよ。……土属性の適性もあるようですね。旦那様譲りでしょうか」
などなど。
いちばんヤバかったのは、空属性ですわね。わたくしは聖女ですから、空属性が得意でございまして。
「"
人差し指の先端で、空間がぐにょりと歪み、ぎゅるぎゅる捻じれて回転したのでございます。端的に言っておキモいですわ。インフルのときに見る夢みたいですの。
「お嬢様、止めてくださいませ。……はい、強い『引っ張る力』が指先に発生していたようですね。空属性の上位、星属性にそういった魔法があったはずです」
……はて。空属性は念力のような不思議パワーだと解釈しておりましたけれど、『引力のような力』も含まれていると考えるべきでしょうか。ふぅむ。
世界でもっとも高い場所、"天上"を構成する属性……。もしかすると神様のいた塩湖みたいな場所だけでなく、文字通りの空――宇宙の星々が持つ、重力そのものも扱えるのかもしれません。
「奥が深いというか、よくわかんねぇですわね、空属性」
「口調。……空属性は、得意とする魔法使いが少ないこともあって、他の四属性ほど研究が進んでいないのです。かくいう私も、空属性はいくつかの基本の呪文を修めただけで」
「そういえば、ブリジットの得意な属性はなんですの? お父様は土、お母様は風だと聞いておりますけれど」
「私ですか? ええと、いちおう、すべての属性を平均的に扱える
「え? それ、すっごいんじゃありません?」
万能だなんて、いかにも選ばれた遣い手感がありますの。ですが、ブリジットは苦笑して、首を横に振りました。
「秀でたひとつがない、というのは、器用貧乏と同じです。教師として魔法の初歩を教える際は、生徒を選ばないので便利ではありますね」
そうかもしれませんけれど、でも、やはりブリジットはとてつもなく優秀です。学園では"赤毛の博学"なんてあだ名がついていたそうですし。そんな才児が、どうして辺境のラシュレー家なんかでメイドさんをやっているのでしょうか。不思議ですわねぇ。
さて、そんな生活を続けて一ヶ月ほど経った、ある日のことでございます。
今日も今日とて修行中、お父様がお庭にやって参られました。珍しく、ちゃらんぽらんな笑みではなく、しかつめらしい顔をしておられますの。
どうなさったのかしら?
「レオノル、今日の訓練は終わりだ。ブリジット、身支度を整えてやってくれ。一番いいドレスを頼む。いま、先触れの使者が到着して……、もうすぐ、面倒な客が来るらしい」
「面倒なお客様ですか? ……もうすぐ? いきなりすぎではありませんか」
「失礼だと断れるなら断りたいが、相手が相手でな」
「……格の高いお方でしょうか」
「ああ。レヴェイヨン王の八人いる子のうち、末の王子だ。妾腹のな」
妾腹。つまり、お妃様ではなく、お妾さんが産んだ王子様?
聖女認定の儀式の際、レヴェイヨン王にはお会いしました。立派な白髭をたくわえた老人で、お父様の倍くらいの年齢だったはず。……お盛んですの。
「で、お父様。その王子様はなにをしにいらっしゃるのかしら? 挨拶が終わったら、訓練に戻ってもいいですの?」
「いや、それがなぁ。なんか、同い年で聖女のレオノルを許嫁に指名したいらしい」
「……ほわァッ!?」
「お嬢様、驚くときもお上品になさってくださいませ」
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