第8話

部活見学の日の次の日。俺は学校に登校し、すぐに入部届に「軽音部」と書き担任に提出した。提出したら担任は驚いており、理由を聞いてみたら軽音部には例年男子の入部者がいなく毎年女子だけの部活になっていたらしい。意外にも思ったが、周りが女子だけで男が自分だけの環境というのは中々入りにくいのでその状況になったのも分かる。


昼休みに俺と紫苑が教室で喋っていると咲桜が俺たちのクラスに元気に走ってきた。


「葉月~?紫苑~?いる~?」


さすがは咲桜というべきか他クラスというのは中々に入りにくいものだと思うのだが、咲桜はお構いなしに俺達を探しに入って来た。あのコミュ力は見習いたい。

咲桜が入ってきたため教室内のクラスメイトは、咲桜の噂を聞いていた男子は咲桜の綺麗な顔に見とれており、一部の女子も彼女に見とれている。

紫苑もこれ以上彼女によって目立ちたくないのか俺と咲桜を連れて廊下に出て紫苑が一言。


「お前はもう少しお淑やかって言う言葉が似合う女の子になろうとは思わないのか?」


「そんなキャラじゃないでしょ私は。それより私たちのバンドメンバーが決まりました」


「え?早くない?昨日寧々さんが先に決めるとは言ってたけどもう決めたの?」


部室でひと悶着があり咲桜の親友でもある寧々さんに、自分のバンドメンバーを決めるまで俺たちは他の人を誘ってはいけないという条件を出されたのだが、彼女はもう自分のバンドメンバーを決めたのだろうか・・・


「寧々は人を見る目があるんだよ。才能がある人、自分に合いそうな人とかね。今回は才能とかじゃなくて自分と合いそうな人を選んだって言ってたよ。」


「まあ部活のバンドメンバーは才能云々で選ぶものじゃないからな」


と紫苑が言う。自分もその通りだと思う。いくら才能があり、どんなに楽器がうまい人でも自分と波長が合う人物でないとバンドなんてできないだろう。


「私たちに足りないのはあとドラムとボーカルだからその人たちに今から二人にも挨拶してもらおうと思って。」


「その二人って何組?」


「私と同じ一組!」


「なるほどねぇ~」


「あによ?」


「いや。何も」


咲桜は俺たちの態度に若干不満げだったが、ランランとスキップをしながら一組の教室に向かう。その後ろについていく俺達も注目を集めるためやめてほしい。咲桜は身長は小学生くらい小さいが、顔はとても綺麗で注目を集めるため、もう少し落ち着いて欲しい。


「青空!瑞黄!あなたたちのバンドメンバーを連れてきましたよ~」


自分は他クラスに入るということが無かったため、入ることに躊躇したが咲桜が無理やり手を引かれたため注目を浴びながらも、教室の窓際の席に着く。


「あ、初めましてかな?僕は佐久間青空(さくま そら)です。バンドのボーカルを担当することになりました。よろしく」


そう挨拶してきたのは、綺麗なブロンドの髪の毛に青い瞳、そして人形のように綺麗な顔。髪の毛が長ければ女子かと思うほど綺麗な男子だった。そしてなにより声が良い。これはどんな曲を歌わせても良い仕上がりになるだろうと思う声だった。神様が彼のステ振りをどんなふうにしたのか気になる。


「このクラスのビジュアルの平均値ずば抜けてね・・・?」


紫苑も俺と同じことを思ったのか青空に聞こえないように耳打ちをしてくる


「ほんとにね・・・俺は小野葉月です。よろしく。青空って呼んでもいい?」


「もちろん!これからよろしく!葉月」


彼はこれまたまぶしいくらい良い笑顔で挨拶して、手を差し出してくれたため、俺もその手を取って握手をした。


「青空ってどこかのハーフ?その綺麗な髪の毛にその青い瞳を見て思ったんだけど」


「そうだね。母親がイギリスで父親が日本のハーフだよ。自分は目立つからこの髪の毛の色はあんまり好きじゃないんだけどね。」


きっと目立っているのはその髪の毛のせいだけではないと思うのだが・・・彼にも彼なりの苦労があるのだろうか。


「私は白石瑞黄(しらいし みずき)です。ドラム担当になりました。本当に何も分からない状態で入った初心者ですがよろしくお願いします。」


次に挨拶してきた彼女は長くウェーブが掛かった黒髪に、これまた綺麗なエメラルドの瞳にとても品がある所作でぺこりと礼をしていた。


「俺も初心者だからお互い頑張ろうね。よろしくえーと・・・白石さん」


彼女の事をなんと呼ぶかは迷ったがさすがに許可なしで名前で呼ぶのは慣れ慣れしいと思ったため苗字で呼ぶことにした。


「瑞黄で大丈夫ですよ。私だけ苗字で呼ばれるというのもなんだかさみしいですしね。よろしくお願いします葉月君」


「それなら・・・改めてよろしく瑞黄」


「二人とも挨拶してみてどう?この二人と仲良くやっていけそう?葉月と紫苑はいい人だから大丈夫だと思うんだけど・・・」


咲桜が俺たちの挨拶を一通り見てから心配そうに聞いてきた。きっと彼女自身もこれからのバンド活動を心配しているのだろう。


「僕は仲良くなれる自信があるよ。葉月はシンプルにいい人そうだし、紫苑も仲良くなれそうだ。」


「私も大丈夫だと思います。」


「そっか・・・なら大丈夫だね。よしこれからこの五人で頑張っていこう!」


二人の返事を聞いて安心したのか彼女は、気合を入れて元気に手を上げて叫んだ。

これからこの五人で頑張ろう。俺もそう思えた。

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