第7話

「それじゃあみんなやりたい楽器が何か教えてもらってもいいかな?」


佐伯先輩が腰に手を当てて元気に仕切る。こういう大人数をまとめるのが上手いのはさすが部長といったところだろうか。

咲桜が連れてきた一年生七人は男子が二人、女子が五人と女子が多かった。そして各々の希望楽器はギターが二人、ベースが一人、ボーカルが二人、ドラムが二人といい感じに分かれており、咲桜、俺、紫苑を入れても二バンドは綺麗に作れる構成になっていた。


「とりあえず今日は私たちのバンドが教えるからそれぞれ分かれて色々教えて貰って!何か困ったことが有ったら遠慮せずに言ってね!」


そういって佐伯先輩は他のギター希望の人の元に行った。

俺はこの部活に決めたし、今日は結構ギターに触ったので隅で休憩をしようと座ると、両隣に咲桜と紫苑が座りに来た。


「それで?葉月は軽音部入ることにしたの?」


隣の咲桜が


「入るよ。音を出すって楽しいんだね。」


「お!この短時間でそれを分かったのは才能があるよ!音楽は楽しんだもん勝ちなんだから!」


「先輩もそれ言ってたよ。やっぱりそうなんだね。」


俺はさっき先輩が言っていた言葉を思い出して少し笑ってしまった。咲桜や先輩みたいに音楽が好きな人はやっぱり皆同じ結論にたどり着くんだろうな・・・


「まあ葉月が入ると決めたし本格的にバンドメンバーを集めるか!咲桜はもう誰をいれるのかとか決めているのか?」


今度は紫苑が提案をする。確かに俺と咲桜はギターで紫苑はベースだ。これだとバンドとは呼べないためボーカルとドラムが必要になる。


「それに関しては二人にお任せかな。私が決めるのもいいんだけどこれはバンドに関わることだから二人にしっかり決めて貰いたい。あ、でも安心してね。私が連れてきた人全員悪い人じゃないって事は保証するよ。」


俺はてっきり咲桜が決めるものだと思っていたため驚いたが、少なくともこれから三年間は一緒に部活をするため気が合う人じゃなきゃ、部活をするのもつらくなってしまうだろう。咲桜はそういうこともしっかりと考えて今の提案をしてくれたのだと思うと咲桜を見る目も変わる。彼女は案外人の事をしっかりと見ているのだ


そして俺が飲み物を買おうと外に出ようとしたときに一人の女子に声を掛けられる。


「ねえねえ、君ってギター志望の人?」


「そうだけど・・・」


黒いショートカットの髪、吸い寄せられるような不思議な魅力を持っている猫のような鋭い目を持っている。彼女に見つめられたら逃げられなくなりそうな、そんな目をしている。


「それならさ、私のバンドに入らない?今ギターの人を探してるんだ」


「いや、俺は・・・」


急に声を掛けられて急に誘われたため歯切れ悪く断ろうとしていると、咲桜が急いで俺達のもとに駆け寄ってくる。


「ちょっとちょっと!寧々!駄目だよ!葉月は私の物なんだから!」


「咲桜?この人は?」


「あーごめんね。この子は橋本寧々(はしもと ねね)小学校からの幼馴染なの。」


「自己紹介してなかったね。改めまして橋本寧々です。ベースをやってます。葉月君だっけ?さっきギターをやってたでしょ?丁度今ギターの人を探しててさ、私のバンドに入らない?」


「だから葉月は私の物だから駄目なの!寧々は他のギターの人誘って!」


「なんでよ、私は葉月君が良くて誘ってるんだよ咲桜こそ他の人を誘いなさいよ。どうせ紫苑君はもう咲桜と組むことは確定してるんでしょ?それなら私は葉月君を貰おうと思ったんだけど駄目?」


「んーーー!!!だから駄目!絶対に寧々には葉月は譲らない!これは親友の頼みでも絶対に譲らないんだからね!」


「だからなんでよ。咲桜がそんなに一人に固執するなんて珍しいけど何があんたをそんなに駆り立てるのよ。」


「分かんないよ。でも駄目なの!葉月となら絶対に上目指せるの!だから駄目!寧々には渡さない。」


咲桜は俺の腕をつかみながら猫のように寧々を威嚇しながらそう言う。この状況は中々に不味い。傍から見たら只の修羅場だ。入部前にそんなに目立つことはしたくないのだが・・・


「何?咲桜はそんなに葉月君と組みたいの」


「そう組みたいの。絶対に渡さない」


「はー・・・分かったわよ、葉月君はあげるわ。でも他のメンバーは私が選ばせてもらうわね。咲桜たちは先にメンバーを誘う事は駄目。これでどう?」


咲桜の強い意思を崩すことができないと分かったのか今度は交換条件として他のメンバーは自分が先に選ぶことを条件にしてきた。


「分かった。それならいいよ。でも他の人にはこの条件は内緒ね。後で問題になっても困るから。」


「そうね。それは私も分かってるから大丈夫よ。葉月君ごめんね。私たち二人のごたごたに巻き込んじゃって。」


「まあ大丈夫だよ。俺こそごめんね?せっかく誘ってくれたのに。」


「あら、葉月君が謝ることじゃないわ。私が口説き落とせなかった結果なんだから。良かったら今度一緒にご飯でも食べに行きましょう。」


そういって彼女は手を振りながら、佐伯先輩に教えて貰っている二人の一年生のもとに行った。

俺と咲桜以外のギターはあの二人のため自動的に余っている二人が寧々のバンドメンバーになるだろう。


「大分災難だったな」


一部始終を見ていた紫苑が気の毒そうな顔をして声を掛けてきた。


「ほんとにね」


「でも傍から見たら凄いモテてる奴みたいな感じだったな。羨ましい事で」


「茶化さないでよ・・・咲桜はなんで俺なんかをあんな必死に取ろうとしてたんだろ」


「それだけ葉月の事を気に入ったんだろ。咲桜は昔から自分の勘を信じて生きてきてるんだよ。しかもその勘は大体当たってるから今回もその勘を信じてるんだと思う。もしかしたら本当に俺たちのバンドは上を目指せるのかもな」


紫苑は笑顔でそういって飲み物を買うために外に出ていった。

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