第5話

「俺は・・・ギターをやりたいです。」


「ほおー!ギターか!いいねいいね。これは私も教え甲斐がありそうだよ!それじゃあまずは弾いてみようか!これを首から下げてみて!」


そういって先輩は俺に綺麗な緑色のギターを渡してきた。一番上には6つのペグ、そこから流れるように長いメイプル色のネックに、ボディには2つのつまみのようなものがついていた。そしてペグから一番下までつなぐ6本の線。俺は何も考えずにそれに触ってみる。思ったよりも固く、張りがある。これは指ではじくのはさぞ大変だろう。

先ほど先輩がしていたように、俺も首からギターを下げると不思議な気持ちになった。やはり形から入るのは大事なのか、内心すごくウキウキしている。


「うん!やっぱり男の子がギターを持つのは様になるな~」


先輩が羨ましそうにこちらを見てくる。俺から見たら先輩も十分様になっていたし似合っていたのだが何か思うところでもあるのだろうか。


「それじゃあまずは音を出すところからだね。バンドでも弾くロック曲はパワーコードっていう物を使うことが多いんだ。だから今日はその練習をしようか。」


先輩が言うパワーコードというのは押さえている弦以外はミュートをする技術の事で、簡単に言えば押さえている弦以外の音を出してはいけないという奏法らしい。これが意外と難しく、最初はまともに音も出ずに、出たとしても他の弦の音が出てしまったり、その逆もあった。しっかりと押さえないといけないらしく、今までこの類の楽器に触ってこなかったので要領が分からなかったが、10分程先輩に教わりながら練習をするとそれなりに音が出るようになった。そのため今度は楽譜の読み方を学ぶと同時に、初心者向けの曲のワンフレーズをやることになった。その曲というのは、沖縄出身のバンドの曲であるあの有名なラブソングである。


「この楽譜・・・というかこれって楽譜なんですか?数字が並んでるだけなんですけど。」


俺が見ているスマホの画面には楽譜のような物は写っているが、そこには6本の線の上に数字が並んでいるだけだった。


「これも立派な楽譜だよ。TAB譜って言ってね、一番上の線が一弦つまりギターの一番下の弦のこと。楽譜の一番下の線がギターでは六弦をあらわしているの。」


「ギターと楽譜では弦の並びが逆なんですね。」


「そうだね。だからこんがらないように注意してね。それでこの数字が弾くフレットの場所だね。上から1フレット、2フレットって区切られてるのが分かる?楽譜の数字の対応する場所を押さえて弾くのがTAB譜の読み方なの。」


フレットというのはギターでの鍵盤のようなもので、音階を視覚的に分かりやすくしたものだ。確かに押さえる場所で音が違うのが分かる。


「このフレーズではさっきのパワーコードを使うの。TAB譜には一回のストロークで2つの弦を押さえるって書いてあるでしょ?六弦は5フレット、五弦は7フレットを押さえるの。やってみて。」


先輩にそう言われ俺はたどたどしく、左から一つづつフレット数を数えて左手人差し指を5フレット、中指を7フレットに置いた。一回ストロークをしてみると確かに聞いたことある曲の、聞いたことがある音が出たことが分かった。


音が出た瞬間に俺は感動をした。今まではまともに音楽をしてこなかったというのもあるが、自分で出したい音が出せたというだけで、それだけで感動をするのだ。一曲弾ききることができたらどんなに楽しいか・・・それはまだ今は想像することもできないだろう。そしてその練習期間もきっと楽しいことに違いない。それは確信することができた。

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