第4話

部室の中は思ったよりも広く、まずは玄関のように靴を脱ぐ場所があり、既に先輩の物と思われる靴が置いてあった。そして一枚のドアがある。重そうな扉のためきっと防音の役割をはたしている扉だろう。


「失礼しまーす!!!見学にきました!」


咲桜が元気に挨拶をしてドアを開け、練習をしている場所に入る。そこは自分にとっては異世界も同然だった。真正面には立派なドラムがあり、その左右には大きな黒い機材があった。先輩が持っているギターから一本のコードでその機材につながっているためおそらくギターやベースの音を出す物だろう。そして隅にはキーボードがおいてある。部屋にいる先輩五人とも誰も触っていないため、おそらくこのバンドでは使わないのだろう。


「咲桜ちゃんと紫苑君!今日も来てくれたんだ!しっかりと新しい子も連れてきたようね!」


俺達三人が部屋に入ると女子の先輩の一人が声を掛けてくる。咲桜と紫苑はもう何度か来ているようで既に先輩から名前まで覚えて貰っているようだ。どうしたらそんなに年上の人と仲良くなれるのかをぜひご教授願いたい。


「お疲れ様です!今日は楽器未経験の子を連れてきました。葉月、この人は部長の佐伯先輩。楽器はギターだからとりあえずこの人に色々教えて貰って。紫苑はこの前と同じように色々話聞けばいいから。じゃ、私は少し行くところがあるからがんば!」


そう言って咲桜は部室から足早に去って行ってしまった。本当に彼女は嵐か何かなのか・・・

しかしまあ、この部活に入るかどうかはまず話を聞いてみてからだ。そう思い俺は咲桜に言われた通りに部長である佐伯先輩に話を聞くことにした。


「小野葉月です。よろしくお願いします。あの・・・自分今までまともに楽器とかを触った事とかないんですけど、大丈夫ですか?」


「全然大丈夫だよ!私も楽器未経験で入ったし、ていうか私たちのバンドは全員未経験の状態で入部してるから何も気負うことはないよ。」


「え?そうなんですか?!自分はてっきり全員何かしらの経験者だと思ってたんですけど。」


「まさかまさか、そんなわけないよ。ピアノはともかくギターやベースを小さい頃からやっている人なんて少数だし、もしピアノをやっていたとしてもバンドのキーボードとでは全くの別物だから殆ど初心者みたいな物だよ。いまウチに入部している人のほとんどは未経験者だったから安心していいよ。」


「全員未経験の方が安心するからって安易な理由で組んじゃったもんね~」


名前が分からないが、横で話を聞いていたベースを担いでいる先輩が笑いながら言う。

意外だった。軽音部に入る人は全員何かしらの楽器をやっていて、その楽器をやるために入部するものだと思っていたからだ。しかし同時に安心した。未経験者がいるなら自分も肩身が狭い思いをしないで済みそうだ。


「小野君はなんの楽器をやりたいの?」


「それが全く決まってないんですよね。今日は急に連れて来られたし、邦ロックとかも聞かないので特にやりたい楽器とかは決まってないですね。なので色々教えて貰えると嬉しいです。」


「おっけおっけ!そういうことなら任せなさい!まずだけどギターとベースの違いって分かる?」


「えっと弦の本数?」


俺は曖昧に答えた。本当にそのくらいの知識しかないのだからしょうがない。


「まあそうだね。厳密に言えばベースでも6弦の物もあるけどそこは追々でいいかな。大まかに言うとベースは曲の土台、名前の通りだね。ギターは主役!大体の曲はギターがメロディを奏でて、ベースとドラムのリズム隊で成り立ってるの。だから小野君はリズム隊かメロディどっちをやりたいかだね。」


先輩に言われ俺は顎に手を添えて考える。そして思う。よく考えたら俺の選択肢って殆ど無くね?ということに。

もし本当に咲桜、紫苑とバンドを組むなら自動的にギター、ドラム、ボーカルの三択になってしまう。ドラムは難しそうだし、自分は不器用なために手足が一緒に動いてしまう。歌はそんなに苦手なわけではないが人様に聞かせるような物ではないことは分かっている。

それなら・・・


「俺は・・・ギターをやりたいです。」

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