第3話
「お前は相変わらず声が大きいなぁ・・・同じクラスの小野君だよ。まだ部活が決まってないみたいだから軽音部の見学に誘ったの。」
紫苑が紹介をしてくれたので俺も急いで自己紹介をする。
「初めまして。小野葉月です。」
「葉月か~。綺麗な名前だなぁ。私は美月咲桜!咲桜って呼び捨てで呼んで!」
「咲桜さんって軽音部に入るの?」
俺は彼女の最後の言葉を無視して質問をした。
しかし彼女は俺の質問に答える事は無く、不満な顔をして頬を膨らませている。
「あの~?咲桜さん?」
「呼び捨て」
「いや、女の子のこと呼び捨てってなんか恥ずかしいじゃん」
「さ・く・ら」
「はい・・・咲桜は軽音部入るの?」
俺が諦めて彼女の事を呼び捨てで呼んで質問をすると、彼女はぱぁっと顔が明るくなり答えてくれた。
「もちろん入るよ!私はこの軽音部に入るためにこの学校に入学したといっても過言じゃないからね!」
彼女は堂々と胸を張り、そこに手をおいていた。
「でもしっかりと課題を出して授業には参加しような~?お前この前早々にお説教くらったんだろ?」
どや顔をしている彼女に対して紫苑が言う。
「お説教?なんで?俺達まだ入学して一か月も経ってないんだよ?」
普通に考えて今の時期に教師から叱られる事なんてないだろう。まだ入学して数週間で授業も優しく、課題もそれなりの量しか出されていないため叱られる方が難しいまである。
その疑問を紫苑に投げかけると彼は呆れているのか、目元を手で覆いながら答える
「こいつすでに問題児なんだよ。課題は出さない、授業は聞かないし寝てるしだからさ。この前怒られたのはなんでだっけ?」
「えーっとねぇ、授業中にペンを使ってドラムの練習してたから?」
「なんで疑問形なんだよ」
「だって心当たりがあり過ぎるんだもん!」
「威張るような事じゃないだろ」
紫苑は疲れたのかため息をついている。まあ彼女のペースに乱されているというのは傍から見てもよくわかる。クラスでも良く人の話を聞いている聞き上手なはずの紫苑がこんなにも困っている様子を見せるのは中々にレアだろう。そして確信を得た。教室で紫苑が遠い目をして言っていた人物は彼女の事だろう。そしてもう一つ、咲桜を狙わないほうがいいというのは彼女に振り回されるのが確定するからだろう。
「ドラムの練習してたっていう事は咲桜はドラムをやるために軽音部に入るの?」
「ううん?私はギターで入るつもりだよ。」
「え?じゃあなんでドラムの練習を?」
「最近叩きたい曲が出てきたからさ。そのために練習してるの。」
「あー、こいつ大体の楽器できるんだよ。ギター、ベース、ドラム果てにはキーボードもできるぞ。しかも全部プロ並みに上手い。」
俺はあんぐりと口を開けたままになってしまった。今の自分の顔はさぞ愉快なことになっているだろう。だって今自分の目の前には天才がいるのだ。自分は今まで楽器の類には触れてこなかったためどのくらいの難易度かは分からないが、バンドの楽器全てを極めるなんてことは容易なことではないことは分かる。それを高校生の時点でプロ並みに極めているというのは天才と言って差支えないだろう。
「あ!いいこと思いついた!紫苑!葉月!私と一緒にバンドをやろう!私と上!目指してみない?!」
彼女はキラキラとした目をして聞いてきた。身長が小さいため凄く背伸びをしている。ていうか足プルプルしてない?大丈夫?
「俺は元々咲桜と組む気だったけど・・・葉月はまだ部活に入るかも決めてないんだぞ?」
なんか知らない間に呼び捨てになってる。きっと俺が咲桜の事を呼び捨てにしたからだろう。名前の呼び方で距離が縮まるのはいいことだ。
「じゃあ早く部室に入ろう!葉月も見学をしたら絶対に入りたくなるから!ほら!行くよ!」
そう言い彼女は俺と紫苑の手を引き部室の中に引き込んだ。
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