Case3-36 少女

「やっぱ予備電源機能してないよねこれ。笹間ささまとミツ、」

「「はい!」」

「二人で電気室行け。予備電源盤、確認して。場合によっては復旧。急いで」

「「了解!」」


 くだけた調子で話しかける男声だんせいに、ほぼ同時で規律の整った返事をする二人……彼らの会話の後、二人分の足音がせわしなく聞こえてきたかと思うと、少女の頭上を越えて、やがて消えていった。


「こちらA斑。こちらA斑。B斑応答求む。B斑応答求む。オーバー」くだけた口調の男声が今度は別の誰かに連絡を飛ばしているようだ。


 しばしの沈黙が場にただよう。すると、男声は再び「こちらA斑。こちらA斑――」とつい今しがた発した文言と全く同じ言葉を口にする。

 またしばしの沈黙が漂ったかと思うと、今度は別の男の声が一際けわしい語気で「こないっすね…」と呟いた。どうやら、彼らにとってはかんばしくない事態が起きているようだった。


 少なくとも男達は、少女がここに隠れているなどとは夢にも思っておらず、更に言えば少女のことを探してすらいない様子だった。

 そのことにぼんやりと気づくと、少女の心臓は少しばかり休まり、体の緊張もかくれんぼ程にはゆるんでいったのだった。


 それも露知つゆしらずと、男達の、主にくだけた調子の男声の話は続いていった。

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