Case3-35 少女

 おしまいだ。頭が真っ白になり、足が固まって動かない。このままでは、見つかるのは時間の問題……


 ……の、はずだった。

 光は確かに少女を追い詰めていた。だがしかし、その光が逆に少女を救うこととなる。


 行き止まりに届くほどの反射光だ。その明かりは影を生み出し、踊り場全体の輪郭をあらわにしていた。それが幸運に転じた。

 少女は見つけることができたのだ。ようやく姿を見せた、唯一の隠れ場所を。

 咄嗟だった。転がるようにその空間へと逃げ込む。鉄扉から死角となっている階段の裏側、ステップの丁度真下に位置するくぼんだ空間へと。

 そうして少女は、その場所の角端かどはしに吸い付くように身を寄せて、かくれんぼのときなんかよりもずっとずっと堅く身を縮み込ませ、じっと息を潜めた。心臓の音だけが、奴らに聞こえてしまうか心配なほど、少女の胸の中で脈打っていた。その音が少しでも漏れ出さないようにと、口をぎゅっと閉める。


 やがて足音達は踊り場に踏みったのか、その鳴りを潜める。

 行き止まりの壁に、複数の微光びこうが揺らめいて映っているのが、少女の場所からも見えた。


「あ~…。ダメだ。完全に落ちちゃってるわこれ」

「電源すか?」

「なんも反応しないもん」


 と、男声の会話が聞こえてくる。それと一緒に、なにやら物音まで。パネルを触っているのだろうか。

 いずれにせよ、少女は心の中で男達がこちらに来ないことをただひたすらに祈り続けていた。

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