Case3-37 少女

 それも露知らずと、男達の、主にくだけた調子の男声の話は続いていった。


「嫌な予感すんな。非常灯 予備電源に? 無線もダメって、タイミングできすぎてるよなー」

「……他班には聞こえてたんすかね?」

「よし――」


 そう言うと彼は先ほどと同じく「C、D班。こちらA班、」と、ここにいない者達に連絡を飛ばし始めた。ところが、


「今こちらが飛ばしたB班へ…の……」


 話半はなしなかば、自らそれを断った。


「どうしたん「しっ」


 他の者の問いかけを遮ってまで、沈黙を保とうとする。

 どきりっ…と、休まったはずの少女の心臓が再び跳ね上がる。もしや自分の存在に気がついたのかと、その可能性に焦りを浮かべた。

 だがそうではないということが、まもなくして少女にもわかった。


 が聞こえたのだ。

 小さな音だった。遠い遠い彼方かなたに落ちた雷のような、重く低くも弱々しい音。

 何の音なのかなど、少女には知るよしもなかったが、この粛々しゅくしゅくとした空気のもとで唯一聞こえてきたその音は、確かに彼女の鼓膜を鋭くさせた。いやおそらくは、この場にいる全員がそうであったに違いない。

 そして音は、まるで彼らの警戒きたいに応えるように変化を遂げていった。

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