第20話

 あれから練習の日々が続く。

体育祭の幕間にある応援合戦、そのセンターを任せれた以上は全力でやる。

 「お疲れ様です。ユイ。」

 あおいにスポーツドリンクのペットボトルを渡される。

程よく冷えた感覚が心地よい。

 「だいぶ良くなってますね。ユイさん。」

 アカネにも練習に付き合ってもらってる。

まあ、2人が僕のサポートであるのもあるけど。


 ここはあおいの家の中にある練習場。

アイドルやってた時にここでダンスの練習もしていたという。

鏡の前に特定の箇所がすり減っているのはその証左だ。

 「ここに来るのも久しぶりですね。」

 「だね。もう二度と来ないと思っていたのに……。」

 並んで立つ2人の姿が記憶の片隅にあったアイドルだった時の景色を思い出す。

あれはまだ療養生活をしていたころ。

退屈そうにしていた私を元気づけようと兄がライブ映像を見せてくれた時だった。

もしあの光景をもう一度この目で見れるのなら……。

 「2人のアイドル姿見てみたいな……。」

 「なんですか?。」

 「いやなんでも。」

 思わず心の声が漏れていた。

ただでさえ練習に付き合ってもらってるのに、ここまで求めるのは流石にわがままよね……。

 「さぁ。練習頑張ろう。」

 気を取り直して練習を再開することにした。

やけくそ気味だけれど。


 翌日。

今回は衣装合わせで学校に来ている。

体育祭で着るチアの衣装である。

僕の衣装だけはなぜかコンペが始まって、しかも裁縫部直々のオーダーメイド。

裁縫部も衣装関係の令嬢が多いからそうだけれども、財力ぅ……。


 そんなこんなで女の子だけの着せ替え大会が始まった。

これが体育祭の前夜祭でいいのでは……。

 第1案。

ワンピースチア。

ノースリーブのワンピースで、ピンクと白の配色の衣装。

動きの干渉も少なく、結構動きやすなこれ。

僕としてはこれでいいのだけれど、次行ってみよう。

 第2案。

上下に別れてて、お腹部分が空いているやつ。

一応中にインナーは着ているのだが、それ前提で色々と短い。

特にスカート。スパッツ前提だからって攻めすぎです。

恥ずかしさで思わずポンポンで顔を隠してしまった。

 第3案。

アイドル風セーラーチア。

白と青をメインカラーにした配色で、スカートはベルト止め。フリルも多めという。

中に着るインナーワンピースとインナースカートでスカートのふわふわ感を演出って、一番気合い入ってないかこれ……。

 それぞれで一通り踊ってから、あおい、アカネ、裁縫部部長、大手衣装企業のご令嬢の厳正なる審査の元、第3案に決定した。

えっ……嘘……。これで踊るの?……。






――――――




 今日は体育祭のリハーサル。

主に進行の確認と実際に動かした時にどこに支障が出るかの確認。

なので特に走ったりだとかそういうのはない。


 ただ例外があるとすれば幕間にある応援合戦。

そこにユイちゃんが出てくる。

気分転換と癒しを目的に始まったリハーサルの応援合戦。

毎年どの衣装になるのか先行でお披露目されることも多い。

 そして今日。ユイちゃんの応援チア衣装の先行お披露目である。

正直興奮している。

どの衣装で来るのか事前に聞いても恥ずかがってなかなか話してくれなかったが、今日はそれが見れる。

 《『それでは皆さんお待ちかねの先行応援合戦です。今年はかわいい応援合戦になりそうで正直、私も興奮しております。』》

 そんなアナウンスを合図にそれぞれの応援団がグラウンド中央に集まる。


 青と白の配色で統一されたチア応援団。

そこに一際目立つ少女が一人。

ユイちゃんだ。

ユイちゃんは私を見つけるなり、片手のポンポンで隠す。かわいい。

それから音楽とともに踊る。

舞う。フリルのスカートが広がる。

ユイちゃんを中心に花ように広がる演舞。

美しく。かっこよく。そして愛らしい。


 リハーサルも終わって帰る頃。

明日に向けて必要な配置と調整を終えると、綺麗な夕焼けから夜空への紫色のグラデーションが空を飾っている。

明日が楽しみで仕方ない。

興奮冷め止む中、私はユイちゃんと一緒に家に帰った。

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