第18話

 最近、ソフィアの様子がおかしい。

突然大声出すのでびっくりするし。

なんか度々鏡に話しかけるし。

大丈夫だろうかと心配になる。


 それから数日。

僕達は久しぶりに2人で外に出かけることになった。

目的地は水族館。

元気のないソフィアに少しでも元気なってもらいたいという少し身勝手な感じだけれど。

それでも元気に笑ってる彼女が僕は好きだ。

 熱帯の森を抜け。

 大海原の断片を覗き込み。

 南北の雪景色を見て。

それでも何かに怯えるように僕の側を半歩下がってついて行く。

見守るように。


 クラゲの住まう柱の水槽。

極点のスポットライトが程よく幻想を創り出す。

 「ソフィア……。」

 「なんですか……?。」

 「最近元気なさそうだけれど。大丈夫?。」

 「……。」

 返答は保留。

光に照らされた曇り顔はどこを見ているのだろうか……。

 「っ……!?。」

 「落ち着いて。」

 僕はソフィアの手を優しく握る。

震えている感覚が伝わってくる。

僕はソフィアの手を包み込んだ。

 「ユイ……。何をしているのですか……?。」

 「ん……。おまじない。」

 「おまじない……。」

 「ソフィアが元気にいられますようにって。」

 「っ……。」

 何を僕に見出したのだろうか。

その眼差しは嬉しくも、悲しくも、縋るよに僕を見ていた。


 家への帰り道。

ゆらゆらと電車に揺られながら僕は傍らで黄昏れるソフィアを見守る。

窓からの夕陽の光が車内を幻想へと誘い込む。

 「ユイ……。突然なんで―。」

 「こうさせて。お願い。」

 「仕方ないですね。いいですよ。」

 ソフィアを腕を僕の小さな身体で包み込む。

その拍子にもたれ掛かり。

肩を枕のように頭を置いた。

 「ありがとうございます……。今日、私を連れ出してくれて。」

 「いいよ。僕が行きたかっただけだから。」

 嬉しそうに微笑むその眼差しがあるだけでも今回のデートには意味はあった。

僕はただそう思いたい。





―――――――




 ユイを心配させてしまった。

水族館へと私を連れ出したユイ。

 スクリーンのように大きな水槽。

 ペンギンの行き交う水のトンネル。

 優秀な演者の織り成すイルカショー。

どれもこれもよかった。よかったけれど。

それもユイが楽しそうにしていたからで、私自身はそうでもないように思う。

一緒にいるのに一緒に楽しめない。

あぁ……。あの頃のユイこんな感じだったのだろうか……。

私は……。


 あれか家に帰った。

今日の夕飯は出前にしてある。

別にやる気がないわけではない。

ユイが察してそうなった。

 (「ちょっと心配させすぎなんじゃない?。」)

 そうかもしれない。

余計な心配をかけたのかも。

 (「はぁ……。そんなでどうするの?。これから。」)

 どうしようか。

私はこのまま……。

 ガチャっと扉が開く。

 「ちょっといいですか?。」

 ユイが私の部屋に顔をのぞかせる。

ちょっとしゅんとしているのが可愛らしい。

 「いいですよ。」

 「よかった。」

 何か包みを隠すように忍ばせている。

なんだろうか……?。

 「少しお隣を。」

 ユイが私の隣に座る。

少し不思議な感覚。

 「はい。」

 1つの。小さな紙包みを渡す。

 「これは……。」

 「ふふ。」

 笑って誤魔化してる。

 「開けてみて。」

 「……。っ!?。これは……?。」

 手のひらサイズの小さなびんに蒼く着色された砂と三日月と星を模した石が入っている。

これは水族館のお土産売り場であったものだ。

でもどうして……。

 「なんか物欲しそうにしてたから。」

 「そう見えましたか……?。」

 「うん。」

 ハッキリ肯定された。

どうやらユイは私の仕草や表情でそう読み取ったらしい。

 「それに元気になって欲しいし。」

 「すみません……。」

 「そういうのは無し。少なくとも僕の同居人である以上、しっかり向き合ってほしい。」

 ユイが私の顔を両手でこねる。

硬い表情を崩すように。

それがなんか嬉しかった。

 「うん。やっぱりその表情が僕は一番好きだな。」

 机に置いてある鏡を見ると柔らかく微笑む私の顔。

ユイの好きな私の顔。

 (「私もその顔が好きよ。」)

 少し恥ずかしい。

身体が温まっていく。

ユイはまだ私のことを見てくれている。

だからこそ私は……。

 「っ―。」

 ピンポーンとと遮られた。

どうやら時間のようだ。

急いで出ていくユイを見守りながら私は……。

私は……。

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