第17話
翌日になり、僕とあおいは撮影スタジオに来ている。
今日はスタジオと近くの公園で撮影するらしい。
衣装はゴシックロリータのドレス。
これを着るのか……。
あんまり乗り気じゃないし、僕には似合わないだろう……。
「どうですか?。」
「アカネ……。」
アカネがひょっこりと僕の顔を覗かせる。
興味ありありの表情。
「僕には似合わないと思うけど……。」
「あら。そうかしら?。」
いや似合わないって。
このかわいい服。
アカネが手に服を持って僕に合わせてるけど……。
どうだろうか……?。
「うん。似合う。」
「本当?。」
「えぇ。自信持ちなさい。」
「そうですか……。えへへ。」
我ながらちょろいな。全く。
それはそれとして着替えの控え室に案内された。
「あとよろしくお願いします。」
僕を衣装担当者に委託したあとにアカネは退室していった。
いろいろあるのだろう。
「今日あなたの衣装を担当することになりました《ミーファ》です。よろしくお願いします。ペンネームですけど。」
「うん。よろしく。」
ミーファ。髪を染めてるとはいえ容姿は日本人なのでまあわかるよ。
「まさかあの子の娘さんを担当できるなんてね。」
ん?……。
「ごめんなさい。早速着替えましょう。」
少し気になるところがあったけどいこう。
着替えた僕は待機席で座っている。
思ったよりもごわごわ、ふわふわしてて違和感が凄い……。
「あらお似合いじゃないかしら。あおい。」
「そっちこそまさかに魔王って風格ですね。アカネ。」
相変わらず言い争ってる。
「っ!。」
2人揃って僕に駆け寄ってくる。
「おまたせしました。ユイさん。」
「ユイ〜。ごめんね~。」
2人とも可愛らしい衣装で普段との差が凄い。
アカネは魔王って感じのカリスマがある感じだけれど、それでいて少女のあどけなさの残る可愛らしいドレス衣装。
あおいは姫騎士のような凛々しいしくも優しい感じで、それでも年齢相応の可愛らしさが残ってる騎士風ドレス衣装。
そして僕は何故か2人の取り合いになってるお姫様のような衣装。
ティアラを模したゆるふわなカチューシャを頭に乗せている。
こんなかわいいの絶対僕じゃないでしょ。
「うぅ~……。」
「かわいいですよ。ユイさん。」
「そうかな~……。」
「そうです。私が連れ去りたいくらいに。」
あれ?。なんかスイッチ入っちゃった?。
「そこまでにしてもらいますか。アカネ。私の姫にこれ以上触らないでもらいます?。」
あおいも役に入り始めました?。
「あら。こんなかわいいお姫様ですもの。それこそ城に幽閉して一生過ごしたいくらいに。」
「アカネ……。君ねぇ。」
これあれだ。乙女ゲームでたまにある姫の取り合い。
全員女の子だけどね。
「ほらそこ。肝心のお姫様が困ってるじゃないの。」
おネエ口調の美青年の男性カメラマン……。
男性……。パンツスタイルだけれど、女装の似合う男性のカメラマンが2人を制した。
個性が強い。
「ありがとうございます。」
「いいのよ。それにしてもあの子の娘さんだけあってよく似合ってるわね。」
「あのもしかして……。」
「あぁいいのいいの。こっちの話。」
はぐらかしてるけどレイのことだよね。
お母さんの人脈広いなー……。
そんなこんなで撮影開始。
剣をお互いに交わす姫騎士と魔王。
玉座を背景に姫を取り合う2人。
鳥籠に幽閉される姫。
2人それぞれと踊る姫。
最後に姫に忠誠を誓う姫騎士と魔王。
少し休憩を挟んで近場の公園へ。
ここでは撮影の合間や終わった後の僕達を撮ってる風のやつをやるみたい。
意外と暑いなこの衣装……。
適度に水分補給しておこう。
ポツン……。ポツン……。ポツン……。
あぁ。雨だ。
ザーッと降った傍ら、雨に濡れた僕をどうやら撮った見たい。
なんというか。たぶん反射的にだろう。
表情と行動が合ってなかった。
シャワーを借りていろいろと洗い流して、撮影は終わった。
「衣装濡らしてしまってごめんなさい。」
「大丈夫よ。おかげでいい絵が撮れたからこれでトントン。」
「ありがとうございます。」
そんなやり取りを終えて僕とあおいは衣装を作った会社の商品をもらって帰る。
現物支給なのは……まあいろいろあるのだろう……いろいろ。
「楽しかったですか?。ユイちゃん。」
「うん。貴重な体験だった。」
「それは良かった。」
しばらく2人で談笑しながら僕達は家に帰って行った。
――――――
私。初霜アカネはあの日からずっと後悔している。
友達を。親友を。ずっと一緒にやっていくと誓ったあおいを私は……。
あおいがあれから立ち直ったと聞いた時は嬉しかった。
マネージャーから会うのは控えるように言われてたけれど、私はそれでも会いたかった。謝りたかった。
けれど……。
もうそこに。
あおいの隣に私の居場所はなかった。
それはそうよね。
ずっと会ってなかったのも。
高校で天使様にあった。
ユイという女の子。
あおいの傍らにずっといる子。
おそらく彼女が……。
それから私は少しづつ彼女に接触していった。
そのついでで。その過程であおいとも言い合えるくらいには一緒にいられるようになっていった。
そして撮影の日。
ユイを着替えに行かせた後。
「あなたも来たですね。あおい。」
「そりゃあそうでしょ。何されるかわかったものじゃありませんからね。アカネ。」
「それはどうも。」
いつもの言い争い。
けれどこれが心地いい。
そして撮影が終わって身支度している。
それから私は……。
「あおい……。」
「なんですか。アカネ。」
「ごめんなさい……。」
やっと言えた。
ずっと言いたかった。
「はあ。何かと思えばそれですか。いいですよ。許しますよ。」
「あおい……。」
「私はユイがいてくれるから。今更謝ったところで私にはどうでもいいです。」
「本当にごめんなさい……。」
「はぁ……。」
呆れるあおい。
そうよね。
私はいつまでも過去に囚われる。
これまでも。これからも。
「まあ。ユイちゃんは君に渡さないけどね。」
「へぇー……。へぇー……。よし後でどっちがユイさんにふさわしいか勝負しようか。」
「いいよ。全敗のアカネが一生私に勝てることないでしょうけどね。」
「あぁそう。じゃあ夜にゲーム対決といこうじゃないか。」
「臨むところよ。」
2人で笑いあった。
私は今環境が好きだ。
だから私はユイさんに感謝している。
私があおいと一緒にいられる居場所を作ってくれたことを。
―――――――
私は寂しい。
(「ユイと一緒にいられないことが?。」)
アリス。
最近は見なくなったけれど。
(「久しぶりねソフィア。子供時以来かしら。」)
子供頃一緒に遊んでた私に瓜二つの赤目の女の子。
(「もっと素直になりなさいよ。『私はユイが欲しい』って。」)
断る。
私はまだそこまで言う資格も自信もない。
私はまだそこまでに行けない。
(「相変わらず弱虫ね。姉さんがいないと何も出来なかったあのころと同じじゃない。」)
うるさい。
(「なんだったら私がユイを貰ってもいいのだけれど。」)
うるさい。
(「私はあなたで。あなたは私なのだから。さして問題ないでしょ。」)
うるさい。パリン……。
(「そんなんだから私があなたに会ってしまうのよ……。臆病で泣き虫で弱い私。」)
それは私が一番わかってる。
拾い上がる鏡破片越しにアリスは鏡の中の霧に消えた。
私はユイの側にいたい。
ずっとこれからも。
もう夏も近い。
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