第15話

 あれから数日がたった。

 あおいはまだしもアカネまで僕にベッタリである。

 「アカネ。そろそろ退いてくれませんか。」

 「つれないこと言わないでください。あなたこそそろそろ卒業した方がいいんじゃないかしら。」

 こんな感じで毎日、僕を挟んで論争してくる。

おいこら。挟まれてる僕のことも考えろ。

 「2人とも。」

 「ひっ。」

 「ひっ。」

 「ご覚悟を。」

 そして僕が制裁するまでが日常になっていた。

正直飽きない毎日で楽しいは楽しいが、大変疲れる。


 それはそうと僕は教室から教材を総合準備室に運ぶ途中である。

ここは3階。そして準備室は2階。

ここから視界不良になる荷物を持って降りなくてはならない。

あおいとアカネは相変わらず論争が過激に進行しているため、僕はほっといてやっている現状である。

 「oh......。」

怖いと言えば怖い。

まあでも。やらねばなるまい。

恐る恐る1歩を踏み出す。

 「ふぅ……。」

 1段目はクリア。

このまま行こう。

 「あっ……。」

 マズった。

こりゃ〜ヤバいな〜。

 「ユイ。」

 誰が僕を落下から引き上げてくれた。

 「ヤマト……。」

 一ノ瀬ヤマト。彼だった。 

 「お前は相変わらず危なっかしいだから。」

 「そう。ありがとう。」

 僕は素っ気なく返答して、散らばった教材を集める。

「ちっ。仕方ねぇ。」って雰囲気でヤマトも手伝う。

ただのお人好しか。それとも思春期特有のアレか。まあ、別に手伝わなくてもいいのだけれど。

 「これどこに運べばいい?。」

 「総合準備室。」

 「そうか。」

 どうしてもヤマトとの会話は実務的になってしまう。

過去のいたずもあるけど。それ以上に成績優秀、スポーツ万能というどこか創作に出てくるできた人で。

僕なんかでは釣り合わないから。

彼がよく関わってくるからそれと同時に厄災も度々来ていた。

それもあって僕なんかに関わって欲しくないのが正直なところ。


 総合準備室にものを運び終える。

 「ヤマト。ありがとう。」

 「別にいい。」

 頭をかきながら荒っぽい口調で返答している。

少し照れくさいのか頬が少し赤い。

こういうところはかわいいだよな。普段が普段だけに。

 「これで用事は済んだか?。」

 「うん。大丈夫。ありがとう。ヤマト。」

 「そういうのはいい。俺が勝手にやってるだけだから。」

 妙なところで律儀というか。好きな人にかっこよく見栄を張りたいというか。

そんな感じ。

もしかして僕に好意を向けてるじゃないだろうな。

 「そろそろ帰るぞ。」

 「そうね。」

 僕は準備室の奥で待機して、ヤマトが扉を開けようとする。

 「あ、あれ。」

 「どうしたの?。」

 扉をカタカタ揺らすけど、揺れるだけで一切動く気配はない。

鍵も下りてないのでこれは完全に。

 「ユイ。どうやら俺たち。閉じ込められたらしい。」

 「あら。そう。」

 「ユイ。お前……。」

 まあ呆れるよな。呆れるよね。

僕はまあまあ予想してたけどね。

学校の物置。そこに男女2人。当然何も起きないはずはなく。フラグかスチル回収しないと出れないやつ。

 「どうしてお前はそんなに冷静なんだ。」

 「まあ。こういうこともあるよねってだいたい予想してたから。」

 「ないよ。少なくともこういう現象にあったのはお前が初めてだ。」

 なんと。ヤマト程のイケメン美男子なら一つや二つ経験済みかと思ったら僕が初めてなのね。

ん。待てよ。

彼の性格なら度々こういう手伝う場面は何十回もあったはずだ。

それが今日までないって、もしかして僕にフラグが。

……。

ないない。昔はよくからかってきたし、普段から僕に口悪いし……。

まさかないよね?。

 「とりあえず誰かに連絡とって扉を開けてもらおう。」

 「もう先輩には連絡してあるから大丈夫。」 

 「相変わらず早いな。ユイ。」

 まあこの場合特定のフラグが回収されるまで開かないけどね。


 あれからどれくらいだろうか。

僕達は窓際の壁にもたれかかって座っている。

 「ふぅ……。」

 少し熱い。

春とはいえ、こんな狭い部屋で太陽の暖かさだけで結構暑くなる。

それともこのイベントの影響なのだろうか?。

 「熱い……。」

 「だったらブレザー脱いだらいいだろう。」

 「うん。そうする。」

 ブレザーを脱ぐ。

解放された感覚でなんか心地いい。

……。

何やら隣からの視線が熱い。

 「ヤマト……?。」

 「っ……。」

 あぁ……。これは。

想い人のちょっとしたビジュアルで興奮しちゃうやつ。

初々しいのがなんかわいい。

とはいえ熱いのは変わりないので、僕はリボンのフックを外してブラウスのボタンの上2つを解放する。

 「ちょ……ま……。」

 「どうしたの?。」

 「いや別に……。お前のそういう姿見てもなんともないし。」

 ヤマトよ。なにかある時の反応だぞそれ。

僕に好意を向けてるのはなんとなくわかるけど、だからって僕は。私はあなたを好きになるわけじゃない。

それはあなたが一番よくわかっているでしょ。

 「少し動く……。」

 「おい。」

 少し体勢が崩れて倒れかかろうとしたところをヤマトに助けられた。

 「お前は昔から。」

 「そこ退いてくれる?。」

 「えっ。」

 崩れた体勢のまま押し倒す形でヤマトと向き合っている。

それと手が右胸に置いてあって、ぎこちなくうごいている。

うん。ベタ。ベタだなー。

予期はしていたけど幼なじみの男の子とこうなるとはね。

 「退いてくれる?。」

 「えっ……。」

 「手。」

 ヤマトが視点を僕の胸に置いてある手に向けて、顔を見た後に再び手へ。

 「!?……あっ。あぁっ。ごめん。」

 「別にいいよ。」

 「そうか。」と少し残念そうに私の反応を伺う。

まあ思春期だしね。

いまはまだ大目に見よう。

 「あっ。そろそろか。」

 「そろそろって……?。」

 ガランと勢いよく扉が開く。

 「ユイ。大丈夫。」

 「こういうこと。」

 「あぁ。」

 ソフィアに助け出された僕達は何事もなく家に帰ることになった。

これ以降、ヤマトと会うと少し照れくさそうな反応で話しかけることが増えていった。




―――――



>総合準備室にヤマトと2人で閉じ込められた。

 私は急いでユイが閉じ込められた場所に向かった。

あそこは扉の立て付けが悪く、何故か中から開けられなくなっている。

それに、あんな狭いところで男女が2人。

絶対何かしら起こるでしょ。って危機感に危惧して私は急いで向かった。


 「ユイ。大丈夫。」

 現地に着いてみると、脱ぎ捨てられたユイのブレザー。外れているリボン。はだけたブラウス。ユイが起き上がってるとはいえ押し倒すような構図。

 「へぇ。へぇ。」

 「あのですね。先輩。これは。」

 「ヤマトくん?。」

 「は、はい。」

 「遺言は?。」

 「大変申し訳ございませんでした。」

 私はヤマトとかいう人に1発くらわせた。

妥当な制裁よね。

ユイはちょっと引いてたけど。


 それからは特に何も起こらなく帰ったけど。

これで警戒対象が増えた。

せめてユイと同年代だったら良かったのに。

私はこの時、年上であることを後悔した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る