第6章

第15話 兄さんばっかり…

 〜晶人視点〜


 わかってるよ。兄貴が香菜のこと好きなことなんて。なんだったら、俺よりずっと前から好きなことなんて弟の俺がずっと知っている。

 俺らが香菜の家に来た時、兄貴は照れ隠ししてた。当初はあんなに冷たいこと言ってたけど、あれは兄貴なりの照れ隠しだ。一つの愛?


 香菜の家に来ることは兄貴が一番楽しみにしていた。


 ”香菜の義兄になれる。”


 仲間はずれにされてるのはこの俺。俺は全部お見通しさ。香菜と兄貴は、両片想い。

 俺らが香菜に迫ったときのあの香菜の表情。香菜は兄貴のことが好きだ。俺のことなんてこれっぽちも眼中にない。


 この前、俺にプレゼントをくれたときの帰り、青杜も同時に店から出てきたところを目撃してしまった。だから俺は、駅だろうと、人がたくさんいるだろうと、兄貴に見せつけるために香菜にキスをした。香菜のことが好きな兄貴にはかなり刺激的だっただろう。香菜は俺のことが好きではないけど、俺の香菜への気持ちは本当。俺は香菜が好き。俺に関してはただの片思い。一方的な恋心。叶うことのない恋。それでもいい。俺は今、香菜の彼氏という優位な立場にいる。それを利用する。どんな手を使ってでも、香菜を俺の方に振り向かせる。


 なんてったって、香菜が、あんな冷たい男を好きな意味がわからない。俺みたいな奴に普通は恋に落ちるもんだろ?俺の解釈が間違ってんのかな?まあ、間違ってても俺はそれを貫き通す。


 多分、この前の迫ったやつは一気に行き過ぎたような気もする。だって、兄貴がヒートアップして、告白しちゃったもんな。兄貴は何もわかってないんだよ、俺のこと。


 兄貴はいろんな女子にモテる。俺はそこそこモテる(らしい)。

 俺は香菜との関わりはあんまりなかったけど、俺はこんな事も知ってるぜ?

 毎年、バレンタインに兄貴の下駄箱にショコラを入れてる。あっちは俺のことなんか知らないから気づかなかっただろうが、俺は見えちゃってたよ。


 絶対あの俺へのプレシャスのプレゼントは香菜の真の想いじゃないだろ。

 しかもあんな高級なの。あれは全部俺の演技だ…いや、プレシャスに驚いてたのは演技じゃない。プレシャスに関してはまじで驚いた。いや、香菜のことを貧乏人扱いするわけではないのだけど、その…そんなにお金持ちのようには見えないというかね?!


 もし、香菜と兄貴の二人がお互いの気持ち知っちゃったら、俺、どうすりゃいいのかな。彼氏という立場にいたけど、フラれたという形で別れるんだろうな。それが一般的だけどね。いっそのこと、俺がバラしちゃう?二人を楽にしちゃう?でもまあ、どっちみち、二人はお互いの気持ち、理解しちゃうんだろうな。だって、最近兄貴、俺が言ったこと真に受けて、真剣に香菜のことを奪いに行くんだもん。こっちもその気になってやらあ。でも、恋伝説の『観覧車に乗って頂上まで行ったときにキスをすればその恋は成就する』ってやつ、兄貴はもう達成させただろうな。だって、強引に香菜を連れ回して、観覧車に行くってことは、もうじゃん。やっぱり、俺は兄貴に逆らえないのかな。俺は兄貴に勝てないのかな。


 っだー!もう。こんなことばかり頭で考えてたら、頭痛くなってきた。もう寝よ。

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