第2章
第4話 【彼氏】を連れて行く
彼氏を連れて行く、当日。
「(ふぅ…。)」
私は少し緊張していた。だって、今日連れて行く彼氏は、昨日私の義兄になった、あの冷酷男、『渡辺青杜』である。でもなんか、今思うと、青杜って、かっこいいんだな…。青杜は人と歩いているときでも、ヘッドホンをして音楽を聞いている。多分これは、話しかけんなってことだろうな。話しかけるのは外では学校のみ。今までの様子からして、私が馴れ馴れしく青杜に話しかけるのはあまりにも不自然だ。
「なあ、ださくら。」
「はひ?!」
急に名前を呼ばれたので、変な声が出てしまった。
「はひってなんだよ。やっぱだせえな。」
「う、うるさいな。で、なによ。なにか用があって呼んだんじゃないの?」
「俺、今日彼氏役だろ?誰の元へ俺は運ばれるんだ。」
「あ、ああ、えっとね、同じクラスの穂波と柚葉だよ。」
「穂波…?柚葉…?そいつらの名字は何だ。」
「
青杜はしばらく考えると、あー、と言った。
「まっつーと仙人か。」
ま、まっつー?穂波って男子にそんな言われ方されてるの?でも、松本といえば
まっつーってあだ名は普通なのかも。でも、なんで柚葉は仙人?
「なんで柚葉は仙人なの?」
「仙藤だろ?仙人の仙の字入ってんじゃん。藤って漢字はむずいから仙人。誰でも
仙人なら知ってんだろ。」
「柚葉には許可もらってるの?」
「俺は知らんが、村上が言うには許可もらってるらしいけどな。」
「ふ〜ん…?」
なんか、ほんとに男子の事情ってわかんないもんだね。今日の私のミッションは、
穂波と柚葉に、義理の彼氏だということをバレずに会わせること。そのためには、本当に青杜の協力が必要になってくる。
「青杜。ちゃんと…私の彼氏…演じてね。」
「ああ。だがな、そもそもの話、ださくらが彼氏連れてくる〜!とか言わなけりゃこんなことなってねえんだよ。昨日はびっくりしたぜ。どっちか付き合ってくんねえかとかさ。お前、頭イカれすぎ。これだから底辺は。」
私の体に棘が刺さってくる。た、確かにそうなんだよな。言い方が少し青杜寄りになっているだけで、本当のこと言ってるんだよなぁ…。そこに関しては、マジでごめんなさい。
「ごめん、青杜…。だ、だけど、今日だけだしさ!今日が終われば私は青杜の奴隷なわけだから、何でも従わなくちゃいけないから、今回だけは大目に見て…くだ…さい…」
青杜は、大きなため息をついて、再びヘッドホンを付けて、青杜の世界に入ってしまった。これは…?怒っている…?それとも、呆れる通り越して、納得してる?いや、この感じの顔は呆れてますね。はい、すみませんでした。
私が少しよそ見していると、私はいつの間にか赤信号の横断歩道を渡っていて、横から車が近づいてきた。
あ…やばい。私…死んじゃう…?
「香菜!!!」
青杜が私を大きな声で呼び、腕を強く引っ張った。
私はその衝撃で、後ろに転んでしまった。
「あたたたた…」
青杜が、カバンを置いて私の元へ来てくれた。
「おい、大丈夫だったか!お前…あぶねえぞまじで!!!!!
気をつけろよ!俺ビクッたぞ!お前が、いきなり俺抜かしてとことこ横断歩道に向かって赤信号なのにズンズンズンズン進みやがって!!ったく。はあ…。怪我、ねえか?」
私は聞き逃さなかった。というか、聞き逃がせなかった。青杜が、ださくらではなく、『香菜』と呼んだ。私は腕を引っ張られた衝撃よりも、青杜の言葉に驚いてしまって、数秒前のあの出来事を、殆ど覚えていない。そのくらい、衝撃だった。
「ださくら?聞こえてんのか?頭打ったとかねえだろうな…?」
「だ、大丈夫だよ。ごめんね。やっぱり、私ってダサいね・・・(笑)青杜が私のことをださくらって呼ぶ理由、私もわかったよ。ごめんね。こんなダサい私が青杜の義妹になんてなっちゃって…(笑)」
青杜は、呆れたような顔をして、私に手を伸ばしてきた。
「え?」
「…俺の手掴んで立てよ。歩けねえとか言ったら置いてく。」
「わ、わかったわかった。ありがとう。」
私が青杜の手を掴むと、青杜の手は、とても男らしく、かといってゴツゴツしておらず、女の子を守ってくれそうな、そんな手で、少し温もりを感じた。
「ほら、行くぞ。」
「う、うん。」
私は、黙っていた。青杜は気づいていないだろうと思っていたから。青杜は、さっき私に手を伸ばしてきたときから、ずっと私の手を握っている。これは、多分無意識なのかな。この時間が続けばいいのになあとか思ってしまうのであった。
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