08 学校の事件

 事務室に戻り、私はアダムが昨日の事件の報告書を書くのを手伝った。ゴールデンが起こした事件については、こうして記録を蓄積し、今後の参考にしたり、予防に努めたりせねばならない。渚と音緒も、事務仕事をしているようで、部屋はとても静かだった。

 そうして、しばらく作業をしていると、隊長のデスクの電話が鳴った。隊長がそれに出た。


「はい。はい。承知しました。データはいつも通り送って下さい」


 電話を切った隊長は、事務室内によく響く声で言った。


「お前ら、出動だ! 高校でゴールデンの立てこもり事件が起きた。詳細は車の中で伝える」


 私たちは一斉に席を立った。そのまま全員で駐車場に向かった。車には、運転士としての役目も与えられている徹也が、もう運転席に座っていた。助手席には隊長が乗り込み、実働部隊の四人は後部座席だ。隊長が言った。


「徹也。俺がナビ入れる」

「お願いします」


 隊長はタブレットを見ながら、カーナビに目的地を設定した。すぐさま車が発進した。車内で私たちは事の起こりを聞いた。

 事件の現場は都立高校。ゴーレムを操るゴールデンが人質を取って立てこもり、ケガ人も出ているという。犯人の身元は割れていた。真星紘一まぼしこういち。この都立高校に通う二年生らしい。アダムが聞いた。


「なんでまた、立てこもりなんか……。犯人の要求は?」

「何も無いらしい。ゴーレムたちに塞がれて、意思の疎通ができないみたいんだ」


 今度は音緒が聞いた。


「人質の数は分かっているんですか?」

「いや、正確には分からん。おそらく十名ほどだということだ。お前さんたちには、ゴーレムを撃破してもらって、アダムと音緒のどちらかが犯人を視認してもらう必要があるな」


 少し間を置いてから、隊長は告げた。


「人質の安全が最優先だ。ゴーレムを倒しながら、先に犯人に辿り着いた方が不活性化してくれ。くれぐれも無茶はするなよ」


 それから全員のスマートフォンに、高校の地図のデータが送られてきた。私は学校に通った記憶が無いから、高校とはこんなにも部屋が多いのかと驚いた。犯人が立てこもっている場所もハッキリとは分からないらしい。渚が呟いた。


「まだ高校生か。ユキ、気をつけな」


 ゴールデンの能力は、思春期頃に芽生えるらしい。最初は上手く制御できず、暴走させてしまうことも少なくないとか。今回の事件は、その暴走によるのか。それとも意図して起こしたものなのか。今はまだ分からない。渚は続けた。


「特にあんた、ケガしたばっかりなんだから。今回は人質もいるし、慎重にやるんだよ」

「分かってるって」


 十分ほどして、車は現場についた。既に何台ものパトカーと救急車が、高校の周りを取り囲んでいた。搬送される生徒の姿も見えた。轟音が鳴り響いていた。きっとゴーレムの足音だろう。

 ゴーレムを操ることのできる能力は、過去に何件か事例があった。しかし、実際に対戦したことは無い。それは渚も一緒だ。果たして私たちの能力で対処できるのか。隊長が叫んだ。


「よし、ユキとアダムはひとまず三階を目指せ! 渚と音緒は一階から順にゴーレムを倒すんだ!」


 四人揃って了解、と声をあげ、車から飛び出した。

 エントランスに走って行くと、早速一体のゴーレムが現れた。高さは二メートルほどだろうか。岩でできているようで、ゴツゴツとした胴体に、脚が二本、腕が二本生えていた。顔もあった。一つ目だ。それが赤くギロリと光ると、腕を振り下ろしてきた。音緒が叫んだ。


「こいつはアタシと渚に任せな! 早く上の階へ!」


 私とアダムは階段めがけ、駆け出した。二階に着くと、さっきと似たような形のゴーレムに出くわした。そいつが階段の先を塞いでいた。撃破するしかない。私はすうっと息を吸い込んだ。


「たあっ!」


 硬化した拳でゴーレムの胴体を殴りつけた。少し身体が崩れたようで、石が飛び散った。だが、よろけた程度だ。ゴーレムは脚を一歩踏み出し、腕を振るってきた。

 ブンッ!

 瞬時に避ける。のろい。渚との訓練に比べれば、こいつの攻撃をかわすくらいはどうということは無い。私は跳躍し、ゴーレムの顔面にアッパーを繰り出した。

 ゴオオオオン……。

 すると、ゴーレムの身体は黄金色の光に包まれ、消えていった。後に残ったのは、手に収まるくらいの小石だった。アダムが言った。


「これが本体のようですね。犯人は小石を巨大化させ、ゴーレムを作っている」


 私は頷いた。あと何体居るのだろう。確か、同時に動かせるゴーレムの数には限りがあったはずだ。それは、ゴールデン自身の能力に左右される。私たちは三階を目指し、階段を駆け上った。

 三階の廊下には、五体ものゴーレムが居た。奴らは私たちを一つ目で確認すると、たちまち襲ってきた。アダムが叫んだ。


「おそらく、この階に犯人が居るはずです!」

「分かった!」


 全部この私が倒してやる。さらに大きく、息を吸い込んだ。

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