第23話 スーパー銭湯でひとっ風呂

 部屋に戻ると、家に帰ってきた感がある。


「ここはどこでしゅか?」


 ああ、キュウ!

 一日の初めと終わりで、ここまで劇的に違うとは。


「ここは今日からキュウのお家ですよー」

「キュウのお家?」

「そう」

「よしつねと一緒のお家でしゅか?」

「そう!」


 キュウは何にもない部屋なのに気に入ったらしく、子どもが駆けずり回るみたいに、ぴょんぴょんと飛び跳ねて回った。




 なんだかんだ言っても、まだ異世界生活三日目だよね。

 ――なのに俺、この世界に馴染み過ぎじゃない?


 ああ今日は、めっちゃ濃い一日だった。もうクタクタ。




 おっと。そんなことよりも、まずは風呂。何をおいても風呂! 風呂! 風呂だー!

 男は清潔感が一番大事なんだぞ。



「ステータスオープン」


 うーん。なんて検索すればいいんだ? 普通に「銭湯」かな? でも個人商店みたいな銭湯がアプリなんか作るかな? 



 たはーっ! やっぱり「銭湯」だと、銭湯マップになっちゃう。

 場所を知りたいんじゃないんだよね。


 おっと。じゃ、あれか。スーパー銭湯か。そっちならあるかも。



 うーんと、あった!


 元の世界じゃ住所縛りがあったけど、こっちの世界で使う分にはそれがないのがいいよね。

 なんたって、機能だけを使いたい放題なんだから。ふっふっふー。


 もう設備がどうこうなんて、どうでもいい。風呂に入れればいい。



 最初に目に留まった「武将の湯」っていうのをポチッとダウンロード。たったの800だ。

 余裕。余裕。



 よっし!


 きたきたきたきたー!! アイコンが追加された!

 ああ、この「湯」って書かれたアイコン。ほんと嬉しい!



「よしつねー。何してるでしゅか?」

「ん? ああ、ちょっとね。人間は定期的に汚れを落とさないといけないんだ。これからちょっと行ってくるから、キュウはここで待っててね」


「キュウも一緒に行くでしゅ」

「え? うーん。行ってもいいけど。行けるのかな?」


「行くでしゅ」

「そうか? じゃあ、一緒に行くか」


 どうすればキュウと一緒に行けるのか分かんないけど、とりあえず、キュウを抱えたままアイコンをタップしてみよう。


 それじゃあ、早速いくぞー。えいっ! うおおおおっ





 なるほど。施設系のアプリって、タップすると、エントランス入ったところにジャンプする訳ね。へえ。


「よしつねー」

「おおキュウ! 一緒に来られたんだね!」


 キュウは俺の手から、ぷにょんと飛び降りて、一人で先へ行ってしまった。

 まあ、迷子になることはないから大丈夫か。



 それにしても、こんだけ広いのに人っ子一人いない。俺の貸し切り。

 じゃ、遠慮なく。



 初めて来たところだけど、スーパー銭湯ってだいたい似たような作りだね。

 館内着もタオルもすぐに分かった。



 そして、案内に従っていくと、出た! 青色の「男湯」の暖簾!

 えっと、隣に赤色の「女湯」ってあるけど、誰も入ってないよね……。いや、何を考えてんだ。ダメだろ。普通に。

 

 一人でバカみたいに慌てた勢いそのままに、男湯のドアを開ける。


 うわあー! 脱衣場から湯船が見える! くぅー。

 

 

 こら。落ち着け。とりあえず落ち着け。

 まずはアメニティチェックだ。


 歯ブラシに髭剃りに、くし、化粧水、綿棒。

 フルラインナップだ。なかなかいいところじゃないか。

 よっし。これ、帰る時に持って帰れるかな?




 じゃあ今度こそ。いざ入浴。


 たはーっ! しまった。バカか俺は。防具くらい部屋に脱いできたらよかった。

 何も考えずに興奮して来ちゃったからー。もうー。



 服を脱いで脱衣カゴに入れる。カゴは使いたい放題なので、使用人の制服、防具、下着と三つ使った。


 ……それにしても。

 今日のところは、止むに止まれず、脱いだ下着をそのままゴミ箱に入れたけど、この先もずっとそうするつもりはない。さすがに抵抗感がある。

 SDGsなんて無縁の異世界なんだけど。



 お! ここなら洗濯できるじゃん。あれだ。洗剤がいるな。

 100均のアプリってあるんだっけ? 後で見てみよう。


 本当はコインランドリーとかを使いたいんだけど、どうせ検索してもマップだろうしね。

 そもそも、昔、コインランドリーを使っていた時に、ペットの服を大量に洗濯している人を見て、利用するのをやめたんだよね。

 それきっかけで乾燥機能付きの洗濯機を買ったんだった。


 でも今なら、ありがたく使わせていただくんだけど。



 もー。ほらー。余計なことをあれこれ考えちゃうのは、本当に俺の悪い癖。

 まずは入浴。体を洗ってから考える!!




 という訳でいざっ!




 シャワー! ああ、シャワー!!

 この水飛沫の感触。久しぶり。生き返るー。


 シャンプーの泡立ちも、何かの発明みたいだ。


「うおー! 気持ちいい! 最高!」 


 全身をくまなく洗って、溜まった汚れを落とし、大浴場に入った。

 チャプンと片足を階段上になっているところに入れる。


 はぁー。たまらん。

 そのままジャブジャブと真ん中までいって座る。


 染みるー。めっちゃ染みるー。ちょっと熱めなのも染みるー。



「極楽。極楽。くぅー」



 しばらく浸かっていたら、動きたくなった。

 

 ムフフフ。誰もいないと、やっぱ、泳ぎたくなるよね。



「ウエーイ!」


 ジャボンジャボンと湯船を平泳で突っ切る。ふっふっふっ。


「ウエーイ!」


 ジャバジャバとめっちゃ水飛沫をあげてふざけているのに、叱られることはない。

 それに多分、異世界のお風呂だから、マナー違反でもないよねー。


「ウエーイ!」


 ああ俺、ウエイウエイ言ってるよ。信じらんない。



 あれだな。誰からも叱れなくなって、世間の目もなくなると、人はダメになっちゃうんだな。今までは恥と外聞が、俺をまともな人間にしてたんだな。




 せっかくだから、岩盤浴やサウナにも入ってみる。

 普通に休日に遊びに来たみたいな気がしてきた。




 施設を満喫して上がると、館内着に着替えて髪の毛を乾かした。


 ドライヤーすごーい。っていうか、電気ってすごーい!

 ああ文明って最高!


 喉が渇いたので、ウオーターサーバーの水を飲みながら、なんとなく鏡を覗き込む。


 特にやつれてはいない。まあちゃんと食べてるし。重労働をさせられた訳じゃないし――肝は冷やしたけど。

 


 さっぱりしたら腹が減った。休憩所へ移動するか。


 その前に、ユニークで下着を追加購入して、さっきまで着ていたやつと一緒に、ボディソープで洗っておこう。



<俺のステータス>

Lv:16

魔力:12,550/14,800

体力:4,800/4,800

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、武将の湯、魔力ポーション(2)、体力ポーション(2)、72,102ギッフェ

装備品:短剣

契約魔獣:スライム

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