第19話 今度こそ卵入れを買おう

 バシン!


 また老婆の枝がしなった。


「痛っ!」


 もう! それやめてったら! 本当に痛いんだから!


「お主。バカは治らんようじゃな。何しに防具屋に寄ったのか覚えておるのか?」


 はっ! そうだった!


 うわあ。でも、もうさっきの防具屋には行けないよー。


「あは。あははは」

「バカ者が。ほら、そこの道具屋でも売っておろう」


 へえ。じゃ、そこで調達しましょうかね。




「こんにちは」

「いらっしゃいませ」


 店主がニコニコと迎え入れてくれた。


 あれ? 道具屋の主人は普通にお客様扱いしてくれるんだ。さっきの防具屋が足元見る癖のあるやつだったのかな?



「あ、すみません。大きな卵を入れて身に付けておける袋ってありますか? できれば軽くて、ちょっとくらいぶつけても卵が割れない頑丈なものがいいんですけど」


 店主の顔色が変わった。


「お客様。まさか、既に卵をお持ちで……?」

「へ? い、いいえ!」


 そういう顔をするってことは、卵を持っているのは相当珍しいってことだよね。

 はい。持っていません。


 この布で包んでいるものは何でもないです。み、見ないで!


「さようで……。ええと、大きなものをご所望でしたね。少々お待ちください」



 こっちの店主も店の奥へと消えた。

 どうも俺が求める物は、店頭で気軽に選べる物ではないらしい。




「それでは、こちらなどいかがでしょうか」


 店主は、特大のサイズと、やや大きなサイズの二つを持ってきた。


「どちらも皮の内側に、綿と鉄が入っておりますので、頑丈で軽く、卵の持ち運びに最適でございます」


 手に取って確認すると、なるほど見た目よりも軽かった。特大サイズは明らかに大きすぎるので、普通の大きいサイズでよさそうだ。

 デザインは、斜めがけのショルダーバッグっぽいね。


 ……そういえば。鞄があった方が何かと便利なんじゃない?


「あの、こちらって、普通の鞄とかも売っているんですか?」

「ええ。もちろんございますよ。当店ではオーダーも承っておりますので、お好きな素材でお作りもできますが」


 なんと! オーダーか。いいなあ。作っちゃおうかな。


「リュックとかもありますか?」

「りゅっ――く? 申し訳ございません。当方の勉強不足で。それはどのような物なのでしょうか?」


 うへっ。やってしまった。異世界にリュックはないのね。


「ああ、いいえ。私も聞いたことがあるだけで、ご主人ならご存知かと思いまして。あは。あははは」

「さようでございましたか。ほほほほ」

「あはははは」

「ほほほほほ」


「痛っ」


 老婆の顔に、「また忘れておるぞ!」と書いてある。


 そうだった。完全に忘れてた。


「ええと。まずは、こちらの卵入れをください。それと、鞄のオーダーもお願いします」

「ありがとうございます! それではオーダーはこちらで伺いますので、どうぞ」


 老婆は、「今じゃなくてもよかろうに」と言いたげに、不満そうな顔で睨んでいるけど、それこそ俺って忘れっぽいから、今注文しておかないとね。




 結局、宮殿で聞いた体で、リュックに似た鞄をオーダーした。


 中身が飛び出さないように巾着みたいに縛れるようにした縦長の鞄に、肩紐をつけただけなんだけど。

 

「えっと。この下の両側にも紐を付けてもらえますか。こうして前にもってきて、腹の前辺りで結ぶとフィット――ええと、体に密着して離れないですよね」

「なるほど! これならば、谷から落ちても鞄が無くなったりしませんね」


 え? 何それ? いやいや。そんな危険なケースは想定していませんけど?


「と、とにかく、それで結構です。厚めの丈夫な布ならなんでもいいので」

「ふむ。これは面白い鞄ですな。職人が面白がるでしょう」


「そ、そうですか?」

「ええ。きっと他の注文を放ったらかして、すぐに取り掛かるのではないでしょうか」


「いや、そこまでしていただかなくても――」

「二、三日、いえ、明後日にはできていると思いますので、ご都合のよい時にお寄りください」

「はい。あ、ええと支払いは?」


 「あ!」と驚いた顔をしたということは、店主も代金のことはすっかり忘れていたんだね。道具類を扱っているだけあって、職人気質なのかな。


「そ、それでは、ええと。こちらの鞄でしたら、三十ギッフェでいかがでしょうか。前金として半額だけのお支払いでも大丈夫ですが」


「あ、全額前払いで大丈夫です。それと卵入れも」


「あ。そうでした。ほほほほほ。おほん。ええ、あちらは二十ギッフェになりますので、合わせて五十ギッフェいただきます」


 おじさん。俺が言うのもなんだけど――大丈夫?


「はい、ではこれで」


 金貨をチャリンと置くと、店主はニコニコしながら卵入れを持ってきてくれた。


 ああなんだか。お金を出すのが快感になってきた。




「ありがとうございました。オーダーの方は楽しみにお待ちください」


 店主は店の外まで見送りに出てきてくれた。いい人だな。今度からこの店を贔屓ひいきにしよう。




 少し歩いたところで、老婆に小道に引っ張り込まれた。


「ほれ。早く入れるのじゃ」

「はいはい」

「片時も離さず持っておるのじゃぞ」

「はいはい」


 老婆がギロリと睨んだ。「『はい』は一回!」って、ぶたれるのかと思った。ビビった。


 でも、肌身離さず持っていろと言われても。宮殿で持ち歩いて大丈夫なのかな。


「これ――人に聞かれたら、何て答えればいいんですか?」

「知らん」

「は?」

「そんなことは知らん」


「えええっ!? 何で? 諸々ここに至ったのはお婆さんのせい――って言うとちょっと違うけど、でも、いや、そんな――」

「ふん」


 ……はあ。仕方ないかー。

 いざという時は、「俺様ってば、召喚者なので」で通すか。


 これまではずっと、「いえいえ。私なんか、いや、そんな」って態度だったのにね。

 まあ、あくまでも、という時には、だからね。

 


<俺のステータス>

Lv:16

魔力:13,350/14,800

体力:4,800/4,800

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、魔力ポーション(2)、体力ポーション(2)、75,302ギッフェ

装備品:短剣

契約魔獣:スライム

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る