第18話 下着と普段着を買いたい

 店の奥には、衝立で仕切られた空間があるだけで、試着室のような個室はなかった。


 まあ、他に客もいないし、いっか。

 さっさと着替えて出ていこう。




 宮殿の使用人の制服――ボタンダウンの白シャツにノーカラーの茶色いジャケットとピタッとしたカーキ色のパンツ――を脱ごうとして、服を置くところがないことに気がついた。


 卵は床に直においても平気だけど――もともと地面に埋まってたんだし――、さすがに服は抵抗がある。

 いくら異世界でもちょっとね。


 うーん。ん? そうだ。


「キュウ。いいか、声を出しちゃだめだぞ。そうっと出てきて、大きくなってくれるかな」


 そう言ってキュウをポケットから出すと、キュウは嬉しそうに、ぼよんと一回弾んでから大きくなった。


「キュウは変形できるのかな。俺のこの手みたいに、うにゅっと体から出てくるといいんだけど。まあそれは無理か。じゃ、悪いけど、脱いだ服を頭に乗せてくね」

「キュ」

「しいーーっ!」


 キュウはしまったと言うように口をへこませて、クルッと回った。



 ジャケットから順番に脱いで、キュウの上に乗せようとしたら、出た!

 キュウが体の両脇から、手らしきものを、うにゅって出してきた!

 うわー。キュウのぷにゅっと出した手が可愛い。


「キュウ! できるんだね! すごいぞ! じゃ、そのまま両手を前に出して。そうそう。そこに乗せていくからね」


 キュウはお利口さんだから、ここで「キュウ」と声を出して返事したりしない。

 俺とは大違いだ。

 口を可愛くすぼめて、「了解っ」と伝えてきた。




 それにしても、使用人にしては、まあまあ整った格好をさせられているよな。

 やっぱり、宮殿内をうろつくから、身分の高い人に見られても見苦しくないように、ってことかな。



 脱いだ服でキュウが隠れてしまった。ごめん。


 あれ? この服、結構ヨレヨレ……。



 うわあっ!!



 ちょっと!!



 お、俺、俺、俺って――汚くない?



 もうずっと風呂に入ってないじゃん!

 着替えてもないし!


 今日なんて、死ぬほど走った上に、恐怖で汗びっちょりになったし。

 ヤバい。臭ってたらどうしよう!


 宮殿って風呂場があるのかな?

 いや、あったとしても使用人に使わせる訳ないか。


 そもそも宮殿に住んでいる使用人なんていないんだし。

 俺は扱いされているにすぎない。


 えー! えー! どうすりゃあいいの!?


 ああ水道がないって超不便だなー。温水なんて贅沢は言わないから、シャワーを使いたい!



 あ、キュウ。

 キュウに水をかけてもらって――いやいやいやいやいや。


 バカか俺は。

 キュウは見た目と違うんだって。

 チャプチャプっと水遊びをして、あははは、っていうイメージは捨てなきゃ。


 キュウに水をかけられた途端に、ジュッて溶けていく光景しか目に浮かばない。



「キュッ?」


 いや! キュウ、違う。違うんだ。

 何にもしなくていいからね。

 あっぶなっ!



 とりあえず、風呂問題は今夜考えるとして、この最高級防具を身に付ける前に、とにかく下着だけでも変えたい。


 あとTシャツと短パン、スエットくらいは欲しいな。

 いやいや、裸のまま考えることじゃない。


 とりあえず下着だ。

 まずは下着を買えるアプリをダウンロードしよう。

 


「ステータスオープン」



 ――となると、何がいいかなあ。


 最初に頭に浮かんだのは、えんじ色のロゴの「無地」だ。

 俺は別に無地派って訳じゃないけど、帰り道にあったから寄りやすくて、ちょくちょく買ってたんだよな。



 「無地」を検索してみたら、なんと、魔力50,000!

 え? 何で?!


 いったい何に比例して魔力数が上がるの? 品数じゃないはず。それならコミックの方が多いから。

 デリバリー館やコミックの魔力数から考えて、扱う商品の平均価格のだいたい十分の一くらいだと思ったんだけどな。違うのかな。



 うおおっ! そういえば、無地って家具だけじゃなくて家もあった。

 うっそーん。



 落ち着け。

 じゃあ、やっぱ赤に白字のアレだな。


 「ユニーク」で検索すると、1,200。

 そうそう。そうこなっくっちゃ。


 でも思ったよりするな。

 やっぱり商品の平均価格じゃなくて、一人当たりの購買単価?

 あ、物価の高い海外の分まで反映されてるとか?



 うーん。分からん。



 おっと! 待てよ。慌てるな。

 最近よく使ってたあっちはどうかな。


 ガテン系御用達のとこで、ちょっとおしゃれになった「ワークプラス」。


 確か、釘を踏んでも大丈夫なインソールとか売ってたよね。

 こっちの世界にはワークプラスの方が向いているかも。



「へっくしゅん!」


 本当にバカか俺は。だから、今は考えないの。


 急いで「ユニーク」をダウンロード。

 おっほ! 全然ぐわんってなんなかった


 おっと、魔力もポーションを飲んで回復しておこう。

 二本を一気飲みすると、13,350まで回復した。



 じゃ、今着る分の下着をまず買おう。

 ふっふー。




 真っさらな下着――本当は洗濯してから着たかったけど、どうせ風呂にも入ってないんだし――と、買ったばかりの最高級防具を身に付けて、最後に制服を着た。


 よっし。あとは一刻も早く部屋に戻るだけだ。





「それでは失礼します」


 着替えを済ませた俺は、店主の顔をろくに見もせず外へ飛び出した。


「ふう。なんか焦ったー」


 でも、これで、「死ぬかも」リスクは相当下がったんじゃないかな。

 もう今日はこれで大満足だ。

 帰ったら風呂に入って一杯やりたい。


<俺のステータス>

Lv:16

魔力:13,350/14,800

体力:4,800/4,800

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、魔力ポーション(2)、体力ポーション(2)、75,352ギッフェ

装備品:短剣

契約魔獣:スライム

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