第17話 最高級防具で防御力UP

 店主は、今度こそ高級品を持ってきたらしい。白木の木目が美しい木箱に収められている品を持っている。


「ええと。その。最高級品になりますと、その。うほん」


 店主は咳払いをすると、商売人の魂を下ろしたかのように饒舌に話し始めた。

 どうやら色々考えることをやめて、吹っ切ったらしい。


「こちらは、大陸広しといえども当店でしか扱っていない最高級品になります。ミスリルを髪の毛よりも薄く細く伸ばして編んだ新品の胴衣にございます。ミスリルは今や生産が叶わず、現存するものを編み直すのが精一杯なのですが、それすら流通することは稀にございます。おそらくこちらが現存する最後の一品だと思われます」


 ふーん。

 このキラキラしたのが、よく聞くミスリルってやつか……。


 おっと。店主がじいっと俺の表情をうかがっている。あ、もっと盛大に驚くところだった?

 それでも店主の商売人モードはまだ終わらなかった。


「そして、こちらが、西の大陸の端に住むと言われるファイアードラゴンの腹の皮を薄く剥いでなめしたドラゴネイトを、伝説の職人が縫い合わせたロングブーツになります。ご存知とは思いますが、ドラゴネイトは伝説の素材でして、今ではドラゴネイトも、それを扱える職人もおりません。よって、こちらの商品は二度と出回らない幻の品になります」


 ご存知じゃないけど、スゴそうってことは十分伝わりましたよ。


 ――にしても、何、このロングブーツ。ギャルじゃん。ギャルが履いている太ももまであるやつじゃん。

 ああそうか。胴衣が腹も尻も覆ってくれるから、足はブーツでいいのか。へえ。



 説明し終わった店主は、昭和の映画とかで――見たことないから想像だけど――、「ええい、持ってけ泥棒!」と、ハリセンをパンっとはじかせるような勢いで、「いかがなさいますか?」と見得を切った――ように見えた。


「じゃ、それください」

「は?」


 店主は、ぼけっとした表情で、「は?」を繰り出した。


「両方ともください」


「は? お買い求めに――なられると?」

「おいくらですか?」

「ああ、はい。ええと。値段ですか。値段は――」


 店主はそう言うと慌てだした。そもそも売れる品だと思っていなかった訳ね。値段を忘れちゃうなんてね。


「は、はい。ええ――十万ギッフェです」

「うん。十万……」


 何回コピペしたらいいんだろう? あ、別に計算しなくったって、十万を超えるまでポチポチやればいいか。


 俺は暗算していただけなのに、購入を躊躇しているように見えたらしい。最高級品の買い手が現れたかもしれないとふんだ店主は、急いで言い直した。


「は、八万ギッフェでいかがでしょうか!」


 おっほ! やったー。値引きだー! 俺は元の値段でも全然構わなかったんだけど。まあ、まけてくれるならその値段で。


「分かりました。じゃ、ちょっと待ってください。今出しますから」


 店主の顔がみるみる赤くなっていく。そのまま血管がブチっと切れて倒れたりしないよね?


 倍、倍、倍とコピーを繰り返すと、155,352ギッフェになった。

 うーん。たまらんなー。


「はい」と、商品棚の上に大金貨をじゃらじゃらと山積みにした。

 それにしてもすごい量だ。宝くじの一等が当たって、七億円を山積みされたら、こんな感じなのかな。


「……ひ」


 店主がヒクヒクと震え始めた。もう彼の血管はこれ以上、持ちこたえられそうにない。

 でも、俺はビビリだから、一刻も早く防具を着ておきたい。


「えっと。すぐに着たいので、ここで着替えさせてもらえますか?」


 店主は声が出せないようで、ふんふんと頭を縦に振ってから、身振りで奥の方を指した。

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