第6話 レベル爆上げ

 アドルフはきっちり勘違いしてくれたようで、二匹目としてブニョブニョした丸い魔物をおびき寄せてきた。うへっ。


 大きさはサッカーボールくらいだけど、球体の表面に、タコの足のようにでこぼこした突起物がついている。全体が薄墨色なのも気色悪い。


 ぼてん、ぼてんと、三十センチずつ跳ねて進んでいる。

 うへっ。マジで気持ち悪い。


「ちょっ、それはどうやって倒すんですか?」

「こいつは柔らかそうに見えて、めちゃくちゃ硬いんです。そこらへんの剣では刺さらないので、火魔法を使います」


「へえ。アドルフは火魔法が使えるんですね」

「いえ。テオドールが」


 テオドールがこくりとうなずく。あっ、そうなんだ。なんていうか、いいコンビだね。


「エクスプロージョン!」


 い、いきなりだね、テオドール! そんな大きな声が出せるんだ。

 火魔法っていうから、火の玉みたいなものをポンポン投げつけるのかと思ったよ。「ファイアーボール!」とか。

 それがまさか、いきなり大爆発を起こすとは。魔物だけじゃなく周辺にも影響が……。


「よしつね様! お早く!」


 そ、そうだった。一太刀浴びせなきゃいけなかったんだ。おっと。刺すんじゃなくて魔法ね。


「えいっ!」


 とりあえず風が渦を巻くところをイメージしながら、短剣を頭上から振り下ろしてみた。けど、結局さっきと同じつむじ風しか出なかった。


 ……はい。ちょっとだけ格好つけてみました。


 俺の攻撃はなんとか間に合って、魔物の体が崩れ落ちて霧散する前に当たった。


 今回は攻撃に参加せず見守っていたアドルフが、満面の笑みで言った。


「アレを倒したので、レベルも上がったと思いますよ」

「え? そうなんですか? そんなに強いやつだったんだ。っていうか、実質テオドールが倒してくれたんですけど」


 テオドールを見ると、顔色ひとつ変えずに言った。


「普通に新人を育てるやり方ですから」


 そして俯く。もう――。


「ステータスオープン」


 おっほ。レベルが3になってる!


「すごい。2を飛ばして3になってます」

「やりましたね。さすが、よしつね様です」


 まあ、やったのは、ほぼほぼテオドールだけどね。


「あ! 魔力が350に増えてる。すっげー。体力も180だ」

「それは本当にすごいです。よしつね様。普通はそこまで増えません。やはりよしつね様は特別なのですね」


 そうなの? 俺って特別なの?


 その後も、アドルフに「すごいです!」「さすがです!」と言われ続けて、とってもいい気分で魔物をさらに五匹倒した。


「今日のところはこれくらいにしておきましょうか」


 そういえば日が傾いている。

 アドルフに言われて、最後にレベルを確認してみた。


 ひょえー! レベル11だ。テオドールに並んでしまった。なんだか申し訳なくてテオドールの顔をまともに見れないんだけど。

 そして、ジャジャーン! 魔力は5,500に増えてる。すっげー。体力も2,000だ。増え方の法則とかないのかな。ま、大歓迎だけどね。


 それにしても七匹とは。もっと次から次へと倒し続けることになるのかと思っていた。

 魔物を見つけるのに、こんなに時間がかかるとは。今日は、ほぼほぼ、に時間を費やした一日だった。


「どうでした? 明日以降も続けられますか?」


 うーん。どうしよう。「頼む」と言えば、アドルフは喜んで手伝ってくれると思うけど、あまり甘えてばかりはいられないよね。

 それに、七匹目を倒した時、短剣から出る風の威力が増して、少しだけ竜巻みたいなのになったんだよね。アドルフによると、レベルが上がると武器の威力も増すらしい。


 まあ、時間は無限にあるんだし。急いでレベル上げる理由はないし。そりゃあ、アプリはどんどんダウンロードしたいけど、衣食住がある今は、取り立てて困っていないからね。


「そうですね。もうしばらく続けようと思います。でも、明日からは一人でやってみることにします。いつもお二人が一緒だとは限らないですし。無理をせず、今日倒した魔物を数こなしてみます」


「そうですか。私とテオドールはいつでもお手伝いしますから。何かあれば、宮殿の騎士にお尋ねください。私たちを呼んでもらえれば、すぐに駆けつけますから」


「あははは。ありがとうございます。あと――」

「なんでしょう?」


「あの。宮殿で働く件ですけど。もう少しだけ待っていただけるよう、隊長さんに頼んでいただけると助かるのですが」

「ああ、そのことでしたら、隊長が手を回しているはずですから。心配いらないと思います」


「そ、そうでしたか。何から何まで、本当にありがとうございます」

「いえいえ」


 アドルフとテオドールにぺこぺこと頭を下げると、二人は「もったいない」と、慌てていた。

 本当にいい人たちだなあ。二人が世話係で本当によかった。



Lv:11

魔力:100/5,500

体力:80/2,000

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、魔力ポーション(2)、体力ポーション(20)、19,560ギッフェ

装備品:短剣

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