第4話 レベル上げの支度をしよう

 宮殿の外は既視感でいっぱいだった。もう、異世界あるあるだらけだ。


 冒険者たちが集まっていそうなバー。イギリスのパブに近いかな。とにかくみんな大ジョッキでグビグビ飲んでいる。


 食料も豊富だ。工場はないだろうから、全部手作り無農薬だ。うわあハーブ入りソーセージとかうまそう。

 うげっ。解体された豚の体の部位が、そのまま並べられている。


 おーや? なんか砂糖を焦がしたような匂いがするけど。どこからだろう。あれか! パンを丸ごと油で揚げたような……。穴の空いていないドーナツか? うん。時々は町で普通に食べ物を買ってもいいな。


 俺はキョロキョロというより、ブンブン首を回して、あれこれ見てはいちいち驚いていた。

 その様子を見て、俺が喜んでいると思ったらしく、アドルフは胸を張って請け負った。


「この大通りに来れば、だいたい何でも手に入ります。何か買われますか?」


 ん? うーん。今はいいかな。それよりも――。


「いや。それよりもこの世界のことを教えてほしいんですけど。まず、アドルフのステータスを聞いてもいいですか? あ、もし、他人のステータスなんて尋ねるもんじゃないっていうなら、正直にそう言ってください。ここの常識を知っておきたいので」


「ステータスを互いに聞くことはよくありますよ。私はLv10で、魔力60、体力50です。ちなみにテオドールはLv11で、魔力80、体力60のはずです」


 ん? レベルの割には魔力も体力も低いんじゃない?


「俺、Lv1で100ずつだったんでけど?」

「よしつね様が普通でないのは当たり前です。素晴らしい素質をお持ちです。魔力は属性にも左右されますが、体力が100を超えるのは、早くても、Lv15くらいからですよ」

「そ、そうなんですか。へえ」


 じゃボーナスを付けてくれたのかな? ありがとうございます!! スマホの神様ー!!


「あ。そうそう。そのレベルなんですけど。俺、早速、上げたいんです。特に魔力の上限を増やしたくて。それで――レベルって、どうすれば上がるんですか?」


「魔物と戦って強くなることです。そうですね。最初はサポート役と一緒に経験を積まれた方がいいので、私がお供します。といっても、私のレベルまでですけど」


「助かります。俺はまだLv1なんで」

「ちなみに、よしつね様はどんなスキルをお持ちなんですか?」


 ああー。嫌な記憶が蘇る。あのローブたちの「この用無しが!」の顔。


「……それが。役に立つスキルがないから、教会に見限られた訳で――」


 アドルフが、そうだった! と思い出して慌てている。


「ええと。それでは武器が必要ですね。あ! ちょうどよかった。テオドールが今、武器屋に発注に行っているのです。店が近いので、のぞいてみませんか? テオドールもまだいるかもしれません」

「助かります!」




 という訳で、武器屋で無事にテオドールとも合流した。

 おっほ! 武器がいっぱいある。ちょっとテンションが上がる!


 槍とか弓は使えるようになるまで時間がかかりそうだから却下。さすがにこん棒からっていうのはないね。お金だって持ってるし。


 やっぱ王道は細身の剣かな。幅の太いのはムッキムキの筋肉がいるだろうから。貧弱な俺には片手でシャッシャッって振れるくらい軽くないとね。


 という訳で、俺は片手剣を買おうと思っていたのに、店主からは短剣を勧められた。


「最初のうちは、レベルの低い魔物に近づいて、命中させるところからですので」


 うーん? 互いにレベルが低いと、近接戦になるということ? そういうものなのかな。

 まあ俺の性格上、お勧めされると断れない。ランチでも、「本日のお勧め」を聞けた試しがない。聞くと断れないから。


「どうします? 私たちがサポートしますので、そんなに弱い魔物から始めなくても大丈夫ですよ」


 アドルフ! なんていい奴なんだ。俺の顔色を読んで、「剣でもいいよ」って言ってくれてるんだ。

 でもま。レベルが上がれば買い換えればいいしね。


「じゃあお勧めの短剣で。一番いいやつにしてくださいね」


 店主の目がギラッと光った。「金持っとったんかーい!」とでも言いたげだ。


「それならコレですね。軽い上に風の加護付きですから、少ない魔力でも、竜巻くらいはすぐに起こせるようになりますよ。二百ギッフェですが」


 おっほ! 風の加護。いいね。いいね。二百ギッフェだと、日本円で十万円相当の感覚。まあなかなかの大金だけど、命には変えられない。


「それにします!」


 よっし! 一狩り行こうぜ!



 店内で短剣を振り回していた俺の前で、テオドールがわざとらしく咳払いした。店主もムッとしている。

 ん? ああ、店内での武器の使用はお断りしますっていうところかな。


 「あははは」と愛想笑いをして、「ステータスオープン」と言うと、アドルフが「あっ」と言って教えてくれた。


「長期保存の場合はアイテムとして保存しておけばいいのですが、普段使いするなら、装備品として登録しておくと便利ですよ」


 確かに。装備ね。よく聞くよね。

 結局、ナイフや剣を腰に付けられるように、専用のベルトも買った。しめて二百十二ギッフェ。


「お買い上げありがとうございます。これからもどうかご贔屓に」


 満面の笑みの店主に見送られて、俺たちは店を出た。




「あ。そういえば。テオドールの仕事は大丈夫だったんですか?」

「はい」


 にっこり微笑んで一言だけの返事。美形だからか、それだけで十分という気持ちにさせられる。


「あ、あと、ポーションも必要ですね。道具屋に行きましょう」


 アドルフはいい右腕だな。サクサクッとレベル上げに必要なものを揃えてくれる。


 道具屋で、魔力ポーションは50回復分を四つ、体力ポーションも50回復分を、こっちは十、購入した。

 しめて八ギッフェ。そうしてみると、短剣って相当な高額商品だったんだな。


 よしっ。レベル上げ前には満タンにしておかないとね。

 俺は道具屋を出てすぐにポーションを使うことにした。


「ステータスオープン」


 うん。アイテムのところにしっかり表示されている。


 ええと。満タンとはいっても、体力はまだ80なんだよなあ。本当に今使うか――って考えている間、長押ししていたら出てきた。「コピー」の文字が!


「ひょえええっ!」


 アドルフとテオドールがギョッとして俺を見ているが、どうでもいい。こっちに集中!

 ものすごいことが閃いたんだけど。


 ピコン! ピコン! と頭の中で大きな音が鳴り響いている。

 まず、長押ししていた「体力ポーション(10)」から、「コピー」へ指を移動する。

 ああまさか……。本当に? ポチッ。そして「ペースト」!


「ぎょえええっ!」


 「体力ポーション(20)」になった。


 きたー! やったー!

 ということは……。

 ステータスでお金が表示されている。タップできるんだよ。タップできるってことは――。

 コピーしてペースト。


「イエス! イエス! イエス!」


 19,560ギッフェになった。


 同じアイテムは自動的に一つにまとまるんだな。コインのようなアイコンは一つのままで、数字だけ「19,560」となっている。


 ひゃっほー! 無限に増やせるじゃん! もう働かなくていいじゃん! 大富豪へまっしぐらだ!


 ……ああ。今、俺、小躍りっていう言葉じゃ足りないくらい、全身で喜びを表している! 腕も足もバカみたいに動かして飛び跳ねている!


「あ、あの。よしつね様?」


 そうだった。忘れていた。側にこんなイタい奴がいたら恥だよね。


「あ、すみません。ちょっと感動しちゃって。とりあえずポーション飲んで回復しておきます」


 魔力ポーションを二つ飲んで100に戻した。体力はとりあえず80あるからよしとしよう。


「それでは早速行ってみますか」


 アドルフがテオドールに目配せをした。


Lv:1

魔力:100/100

体力:80/100

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、魔力ポーション(2)、体力ポーション(20)、19,560ギッフェ

装備品:短剣

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る