第3話 アプリでご飯を注文してみよう

 兵士の皆さんが出ていくのを待っていたかのように、キュルルーとお腹がなった。


 そうだった。昨日から何にも食べていなかった。

 むむむ! 出番だぞ、デリバリー館!


 でもアプリが、まんまアレなんだよな。逆に心配になる。異世界仕様じゃないけど大丈夫? こっちの世界にデリバリーできんの?

 まあやってみるしかない。俺はベッドから出ると、椅子に座って、を唱えた。


「ステータスオープン」


 おうおう。頼もしいアイコンめ。この画面がタップできることは確認済み。

 ええい!


 アイコンをタップすると――開いた! おっほ! 

 TOP画面もまんまだよー! マジか!


 えっへっへ。それじゃあ、うーん。どうしよっかなー。前から気になっていたやつにしようかな。このタワーみたいなハンバーガー。ポチッと。


「え?」


 メニューの中から肉厚のハンバーガーをタップした途端、足元に紙袋がばさっと落ちてきた。


「どっから?!」


 紙袋を持つと、ずしっと重みを感じる。

 中には今タップしたばかりのハンバーガーが入っていた。


「最っ高ー! フー!」


 ああ、俺って小躍りするんだ。こんな興奮は人生初かも。

 よっし! よっし! よっし!


 あれ? 支払い画面にいかなかったけど。いいの? いいんだね? 食べ放題ってこと?


 ――ってことは、ダウンロードしたアプリは無料で使いたい放題っていうことだ。

 それってすごくない?


「うわあー! スマホの神様ー! マジでありがとうございます! 超、超、感謝です!」


 おっと。ドリンクもいるな。アイスコーヒーにしよう。


「おおおお。あぶなっ。でもナイスキャッチ」


 この、ボテッて落ちてくるのは要注意だな。


 いつでもなんでも食べられると分かると、あれもこれもと欲張って一気に注文したりはしないもんだな。


 ところで今って何時頃なんだろ。そもそも食事についての説明がなかった気がする。

 でもま。当面の衣食住は確保できたしね。


 ああ、部屋と服は、使用人として働かないともらえないかも、だけど。


 この先も必要なものはアプリで取り寄せできるはずだから、もう怖いもんはないなー。

 異世界楽勝だなー。


 むむむ。アプリでキャンプ用品一式とか注文すれば、「宮殿で働かないなら出て行け」って追い出されても、生きていけるんじゃない?


 となったら、次にダウンロードするのは、アレだな。いや待てよ。魔力がいるじゃん!


 しかも俺の予想が正しいなら、ウン万円するアウトドア用品のアプリって、デリバリー館の何十倍も必要なはず。

 万が一、読みが外れたらあの世行き……。こわっ。怖すぎる。


 でもま、ちょっとだけ見てみよう。まだ「ご飯」しか検索していなかったし。

 じゃ、「アウトドア」で検索っと。


 ほう。ほう。ほう。

 キャンプ場じゃないんだよ。あ、いいのがあった。

 これ。これ。キャンプ用品。高級アウトドアブランドもいいな。


「うおお!」


 なんだ。ちゃんとあるじゃん。アプリの横に数字が表示されている。これがダウンロードに必要な魔力なんじゃ……?

 デリバリー館を検索すると100! ちょうど100だった。やばかった。かなり危なかった。


 魔力を使い果たしたせいで、体力まで持っていかれたことを考えると、余力を残してダウンロードしなきゃだめだな。

 じゃ、このキャンプ用品は3,300だから、魔力は3,500か4,000はあった方がいいってことだな。


 ん? ん? 

 魔力の上限って、どうやって増やすんだ? これこそ異世界あるあるの「レベル上げ」ってやつですか?


 よっし。早速聞きに行こう。


 と、その前に。ゴミを片付けておかないと。こっちの人たちに紙コップとか見られたら大変だ。驚かすっていう意味じゃなく、「さすが、召喚者様! はははー」とか平伏されてしまいそう。


 教会のローブ連中は、いけすかない奴ばっかだったけど、宮殿の兵士の皆さんは、いい人たちだったからね。


 おっとっと。そうだゴミだ。ゴミ箱ないなー。まあ、あったとしてもそこに捨てる訳にはいかないよね。

 うん? ゴミ箱……。俺、持ってたじゃん!


「ステータスオープン」


 一か八かだけど。紙袋をゴミ箱に押し当ててみた。


「うおおお。入ったー!」


 一応、確認してみよう。ゴミ箱をタップ。すると、「紙袋」とある。

 おっほ? これはもしかして? 紙袋をタップすると、「元に戻す」メニューが表示された。


「一緒じゃーん!」


 タップすると、また足元に紙袋がポトンと落ちた。


「ふっふっふっふー」


 もう一度紙袋をゴミ箱に入れて、「ゴミ箱を空にする」をタップ。

 やった。ゴミ箱が空になってる。


「いやっほー!」


 俺ってこんなにテンション高い人間だったか? もう自分が怖い。異世界来るとテンションが上がるのか? あるあるか?


「これでよしっと。アドルフを探そう」


 部屋のドアを開けて廊下に出てみた。


 広っ! デカッ!


 廊下は車が余裕ですれ違えるほどの幅だし、天井が博物館とか並みに高い。うん、宮殿というより博物館っぽいデザインだな。柱も太いし。

 ベルサイユ宮殿みたいなコッテコテの装飾はないけど、白を基調にしたシンプルなデザインが格好いい。


 頭をぐるぐる回してぶつぶつ呟いていたせいか、周囲の視線を集めていた。あはははは。

 とりあえず一番近くにいた若い男性をつかまえる。


「あの、すみません。アドルフを探しているんですけど」


 アドルフと同じ兵士の制服みたいなのを着ていたので、気軽に聞いてみた。


「ひゃっ。ふぁ。はい!」


 ……あれれ? もしかして緊張している?

 ああそうか。召喚者が宮殿にいることが広まっていたんだなー。そんでもって、宮殿で見たことない奴がいた。「うわっ召喚者様だーっ」てな感じかな。


「居場所を知っているなら、案内してもらえると助かるんですけど」

「はいっ! 承知しました。こちらにどうぞ!」


 居酒屋で元気いっぱいの店員に、席まで案内されているみたいだ。なんか恥ずかしいぞ。




 なんとアドルフは食堂にいた。


「あ、ちょうどよかったです。食事を取られていないので、今からお持ちしようと思っていたところです」

「えっと。俺ってどれくらい寝ていたんですか? それって朝食ですよね?」


「ああ、いいえ。もうお昼はとっくに過ぎています」

「そうだったんですね。ええと。食欲はないので大丈夫です。っていうか。召喚者って、お腹減らないみたいです。多分、今後も食事は不要――かな」


「え? ええっ?! さ、さすがです。救世、じゃなくてよしつね様」

「い、いやあ。あははは」


 食堂にいる全員が俺たちの会話に耳を澄ませていた。

 あちこちから湧いた、「おおー」という低い声が集まって、どよめいて聞こえる。


「じゃ、じゃあ、アドルフも昼食は済んだんですね」

「はい」

「それじゃあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 召喚者に興味津々なのは分かるけど、あからさまが過ぎるっていうか。もうちょっと、嘘でも知らんぷりしてくれないかなー。話しづらいよ。


「じゃあ、せっかくですので、宮殿の外に行ってみますか? 案内がてらお話を聞きますので」


 アドルフ、ナイス! 一杯奢ってやりたいくらいだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る