第10-2話 戦士の日常 後編

 ~~~マリィ


 自力での空の旅にテンションを上げつつ、れがしーうえぽん、の剣と盾を見る。

 剣はメチャ地味だが、盾は高級そうで揃えた見た目がアンバランス、持ち主は性能重視の人だったのかな?

 遺産装備のはずなのに傷らしい傷が無い……新品のまま封印した……?


 周囲を見回しても旅をしていた時と同様に街道には全然人がいない、皆他の街にはめったに用が無いらしい。


 基本的に、一部の高級品以外、すべてがダンジョンで賄えるのだ。


 前に倒した豚鬼が巨大なマンガ肉になったときは驚いたし、

 蜘蛛からは、たくさんの丈夫な糸が、

 怪木からは香木?が手に入って。

 魚人に至っては塩になった。(!?)


 他にもC級の歩く草みたいなモンスターからは、穀物が得られるという。


 でもこれって一次産業の仕事だよな?


 と、何で戦士が経済的に優位なのか疑問は感じたけど、まだ狩猟民族ってやつなんだろう、と自分なりに考えている。



 すごい勢いで北方面気味に進んでいるからか、肌寒さを感じる。

 いきなり北の国に来たような感じかな?


 考えているうちに目的地が見えてきた。


 #####

 ~~~


 何度も、潮の満ち引きで海水が入った跡の有る、苔むした洞窟前の広場にテントの群れがある。

 それらで一番大きなテントの中、マリィとマリアは先行してきたボウケンジャーの小隊長ポーラからおおよその潮の満ち引きの時間、近くにいた魔物を教えてもらっていた。


「B級以上は少ないですけどぉー。C級は、わんさか居ますねぇー」


 間延びした話し方の茶髪の彼女は、しかし、小隊を任される実力者だ。

 重要な所を素早く教えてくれる。


「でもぉー海の潮で本当に水没しますねぇー、朝が一番引いて夜が一番満ちますねぇー、朝方の引き終わりがアタックチャンスかな?」


 #####


 ポーラから言われた通り、一晩明かして朝を待つ。


 途中、スキル持ちな荷物持ちの少年に話しかけられた。


「聖者の試練に挑むって聞いたんですけど! 土産話期待なんですけど!」


 話かけられる。というか、要望された。ので、真面目ぶって頷いておく


 「うむ! 期待されたし!」


 少年が嬉しそうな顔をして何度も頷いているのが、印象的だった。


「ありがとうなんですけど! たのしみなんですけど!」


 外国かどこかから連れてこられたのを保護されたという話の子だ

 すごいよろこばれていると、待ち時間に思う。

 彼のお世話になれるように、たくさんのお宝を持って帰ろう!


 #####

 ~~~マリィ


「では!行ってきます!背負子は帰りまで、預かってください!」


 早朝、嵩張る背負子を置いて、洞窟に侵入する。

 二人が履いているアイゼンが、ガッチリ濡れた地面をつかんでいる。

 足場を選んで歩けば安心だろう。

 挟み撃ちにされないように、入り口から入ってくる敵はボウケンジャーが追い払ってくれるそうだ。


 ちょっとした水の薄く張られた広間に、2匹の異形がモゾモゾしていた。

 レガシーウェポンの剣を抜き、2匹いるC級の魔物、魚に足だけはえた存在に突き込む。



 何の手ごたえもなく、後ろの魔物ごと、魔物は塩に変わった。


 マリアが何とも言えない顔でこちらを見る


 ……。


 水びだしの場所で塩!


 魔物の戦利品無し!これがほんとうの、おからいダンジョンか……。


 試練! これって試練だから! 弁解するようにブンブン盾を振る。


 今回の探索場所は話によると敵が多いので、騒ぐわけにはいかないのだ


 サイレントキルですよ!


 ジト目のマリアに冷や汗をかきながら、試練の設計地図に記載された通りの順路を進んでいく。

 途中、手足のある槍装備魚人もいたが敵を防御した槍の柄ごと切り裂いてしまい勢い余って突っ込んでそのまま敵が塩に変わったため、塩を被ってしまった。

 切れ味が良すぎるのも問題だ。

 サウナーか何かで、こういうのあったよな~。なんて思いながら楽勝の道中を進む。


 なにはともあれここの攻略だ。


 途中に凄く装飾された宝箱があったので、開いてみると海水と何かの襤褸が出てきて

 きっと、ローナ氏はこういう試練??を作るのが苦手だったんだな~。っとゲーム時には考えもしなかったことを考えて、感慨深かった。

 こんなところに豪華な箱に入ってるから、次の敵にはこれを使って?みたいな?

 ちなみに、マリアは宝箱の前で固まっていて動き出すのに時間がかかった。

 偉大な人物が、人間は間違えるという人間味をめちゃくちゃ主張しているので、ショッキングだったんだろう。


 きっと遺産装備レガシーウエポンだよね?これ…ローナ氏よ…

 こんな感じで失われた遺産装備レガシーウエポンも、たくさんあるんだろうな~


 なんとなく、リボンの面影がある襤褸を回収し、塩臭かったのでタライの端に挟んだ。(あっあっ)


 もう、この試練も終わりが近い。

 大きな空間にたどり着き、私たちは空間の中央に鎮座する2メートル半ほどの魚人型魔物に武器を向け警戒する。


 多分…!A級の魔物だと思われるが、こいつも塩になるんだろうな~。と微妙な気持ちになりながらも出し惜しみなしでスキル攻撃だ! 先手必勝!


 #####

 ~~~


「大丈夫なの?嫌な予感がするのだけれど」


 マリアの心配する声を背に、マリィが大きな空間に踏み込むと、部屋に隠してあった複数の魔法陣が起動して鎮座していた魚人が立ち上がった。(??)


 既にかなり近づいていたマリィはムービースキップ派なので防御貫通スキルの準備を始めた。

 硬そうだから! とでも考えていそうだ。


 片手に剣を掲げて、その後で刃を逆に構える。


「ちょうどいい感じの敵だぜぇ」


 セリフも完璧である。


 すると、黄色い複眼型センサーアイがマリィを認識、ヒレのような腕をピタとマリィに向けた


 一瞬の判断でマリィは確認を使い。タイミング良く盾を突き出す。


「ひぇ」


[確認]シーキラー・ゴーレム_磁器製_敵対_1S後ランサーダート射撃


 シュポンと気の抜けた音とは裏腹に勢いよく回転しながら打ち出され、マリィめがけて突き刺さろうとする40セルチセンチほどの穂先かヒレ先のようなモノに盾をぶつける!


「勇者の盾よ!」(きえされ)


[瞬防]


 一瞬のみだが盾の真価が発揮されて、別次元へと衝撃を逃がす。


 生物ではなく、ゴーレムだったようだ。


 ポトっと落ちる槍先にマリィの目が合う。


[確認]ランサーダート_磁器製_水中戦用_時限信管モード2S


(搭載武器が物騒すぎる!!?)


「徹れ」


[徹甲] でシーキラー・ゴーレムの足を破壊!


 用意していた出の早い徹甲スキルで足を狩り、爆発する前に[支板]でのキック移動で勢いよく逃げる。

 そして、ザリザリと地面を削りながらマリアの前で盾を構える。

 そんなマリィの目前に金色の結界が展開された。


 マリアの障壁の奇跡だ。


 衝撃の後、さらに衝撃。


 ボボンと足元に落ちた時限信管のランサーダートが爆発し、それで引火した装弾前のランサーダートが自爆したようだ。

 爆発物満載なんて洞窟内で運用するゴーレムではない。

 広い空間で大きな爆発が発生して、ゴーレムのパーツがパラパラ転がる。


 軽い動作で撃ち込んできたが危険な攻撃だった。

 もしも、近接信管モードだったら爆発と自爆に巻き込まれてただろう。(完璧な勝利だ)




 今回は試練故か、総磁器製で慈悲の有る仕様のゴーレムだったが、金属製だったり強度の高い相手だったら、マリアの回復、防御に頼った痛々しいごり押しになった事だろう。



 ゴーレムが背負っていた壁面に隙間が空いて、勝者を誘う。


 マリィは通り過ぎる前に、目ざとく恨めしそうに点滅する複眼の首を回収するとカバンに詰め、スペース確保のために中に入れておいたずた袋をマリアに渡しながら言った。


「お宝タイムだ!」(仕方ないね)


 彼女は目をキラキラさせながら叫ぶ。

 それに釣られてマリアも楽しそうにする。


「そうね! あたしの眼鏡にかなう装備はあるかしら?」



 ~~~マリア


 格上との勝利は成長を約束するが、こうやって格上に挑む機会は貴重だ。

 それをわかっているから、試練に強大な敵を配置したのだろうと、考える。


 ……対策装備と思われるものが失われていなければ、純粋に尊敬できたのに……。


 聖者への憧れにヒビを入れながら、聖者の遺産に思いを馳せる。

 聖者の法衣に私が袖を通しても良いんだろうか?

 法務関係で商会のお世話になるかもしれない。


 すごいお宝と言えばマリィの剣と盾も、勇者の装備だと解析されていて。

 今度、アテナの研究室に招待されていたはずだ。

 実際にこの目で見たけれども相手の飛び道具の勢いを完全に止めていた。

 理屈はわからないけれど、後から爆発は発生したので、万能ではないことはわかる。

 それとも、あのゴーレムにはそういった防御への対策が込められていたんだろうか?

 刺突と爆発、恐ろしい組み合わせだ。

 恐ろしいと言えばマリィの剣も軌道にあった岩を滑らかに切り裂いていた。

 ああいった防御や、攻撃が蔓延る戦場、ついていけるのか不安になるけれど、意気揚々と、宝物庫の扉を開ける後ろ姿に勇気づけられてあたしは行く


「待ってよ、マリィ!」


――確認――


[確認]嘆き怒る聖者の法衣_オリハルコン製_この武具は壊れない_[獅子心]

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