あの災厄を討つ

第10-1話 戦士の日常 前編

 戦士の日常


 戦士とは戦うもの全般の事を言うが、いつも戦っている訳では無い、普通に酒場で管をまいたり、家族と過ごしたり、仲間と旅行(断じて探索や魔物狩りでは無い)に行ったりしている。


 普通に休日があるということだ!


 ここ最近のマリィたちが例外だっただけである。


 僧侶が仲間になったマリィは調子に乗っていたし、英雄候補をみつけたマリアも世話が焼ける子だが、戦意の高さに喜び勇んでいた


 そんな二人だが梅雨も明けたしもう一度、本格的な探索に乗り出そうとしていた。

 この二人、サラリマン戦士だとでも言うのか絶好調である。


 24時間働けますか!?


 商会がマリィに貸しっぱなしの宿である獅子の巣で、彼女の部屋にて。


「今度は、ここへ冒険に行くよ!」


 マリィが古地図を広げて宣言する。

 アレスから離れた、北西の地域にあるジグザグした海辺の岸壁地帯の物のようだ。

 小声で、マリィが「りあすしきだっけ?」と呟く。


「ああ、モンスターの巣になって港にならない海辺ね! そんな所に何があるの?」


 どうやら、リアス式海岸の地形がダンジョンの好みに合致して、ここはダンジョンの楽園らしい。


 ダンジョンは自由に移動して好きな場所に来てしまうのだ。


「ここに聖者の試練があるんだって!」


 そんなところに何故、出かけようとするのかと言えばゲーム知識でマリアの専用装備を手に入れようと考えたからだ。


 発見に手間がかかると思っていたマリィだが、装備名から逆算して伝説を見つけ、それらしい場所を特定した。


 毎度の事ながら、大丈夫だろうか?

 ゲーム知識無双である。


「聖者!? 恐れ多いけれど、どの聖者様なのかしら? ご存命?」


 マリア専用装備の名前は、嘆き怒る聖者の法衣。


 彼女の専用装備を残した聖者は調べていると有名な聖者であり、華々しい戦歴を知ることが出来た。


 聖者は勇者より低レベル帯なのだが、信じられない活躍をした女性だ。


「怒りの聖者ローナ氏だよ!」


 曰く、嘆きのローナ地龍の群れを奇跡で海に押し流した。

 曰く、独りのローナ風龍の夫婦を奇跡で火山に落とした。

 曰く、怒りのローナ火龍の生命の炎を奇跡でかき消した。



 ~~~マリィ

 マリィの部屋


「ええ……あの、独身を貫いた……」


 曰く、曰く。やっぱり、この世界の強い人は色々とおかしいと思う。

 皆、強い人は長生きだから書かれた日記や雑記から、実像を割りと多角的に知ることが出来る。

 強い人は強い人のことが気になるみたいで、同じ内容の日記が多いんだ。


「親しい縁者はいなかったみたいで、おまけの遺産も期待できるよ!」


 ふふんと、得意げに告げる。


「そうなの……」


 ちょっとマリアの元気がない。

 ローナのことを惜しんでるのかな? 僧侶は信心深い!


 独身だから封印する訳じゃないが、期待大だ。

 基本的に強者のメイン装備は直接、受け継がれない。

 封印した装備は遺産装備レガシーウエポンと呼ばれているそうだ。


 メチャつよ装備の低レベルの敵なんて、事故が怖すぎて大変だから!


 というゲーム的都合だと思っていたけど、理由があるみたいだ。


 なんで子孫に直接、残してあげないのか?

 なんで強い人たちが、こういった遺産装備レガシーウエポンを封じているのかというと。

 強すぎて、低レベルから使っていると共感性が麻痺するから、らしい。

 麻痺というと怖く感じるが、人を顧みず調子に乗るってこと!

 こんな世界で人を顧み無いなんて危険だ! 子孫を守る良い心意気だと思う。


 お金さえあれば生きやすいし、お金とちょっとした装備は残してあげることが多い。

 その強者にとってのちょっとした装備でも、調子に乗る人は調子に乗るらしいけど!

 ローナ氏は子孫が居なかったので、全部遺産として試練に放り込んでいるはず!


 封印するような装備は、手に入れるのが難しいように隠してあることが多くて、前回の扉のパスワードも揃えるのに何ヶ国かを旅し、各地の遺跡で毎回謎解きが必要だ。


 ちなみに私は昔、ネットで見た!


 時短だよ。知識チート最高!


 今回は時間で水没する神殿だよー! タイムアタックだー!


 対策は思いついてる。



 「聖者ローナ氏の試練に恥じない、良い冒険をしよう!」


 満面の笑みでマリアを励ます。

 細かい準備を一緒になってしていると、マリアもだんだん元気になってきた!


 カバン改造で試練破壊だ!


 いつもの革製カバンを木製のタライの上にマウント! 固定! 最強だ! 対策完了。


 水没するといっても、腰までなので命の危険があるわけじゃないけど。

 遅いとお宝が海水でびちゃびちゃになるなんて、最低な嫌がらせだ。

 貴重な本とか薬、一部のメモはダメになるだろう。

 タイムアタックでの報酬の増減は、こういうことだと思う。

 タライに乗る船が有るよね。 アレのイメージで鞄の中身をガードだよ!

 これで試練の破壊完了!

 賢い私は報酬を確実安全に貰っていきますね!


 この試練があるのは王国の北西地域なので、冬は寒くて挑めない場所だ。

 夏のうちに勝負を決めて、マリアの装備を集めてしまいたい。

 装備を揃えたら実態を調べてからだけど

 いろんな狩場が有るから! どんどんレベルを上げてしまいたいんだ。

 弱いうちにQDK急にドラゴンが来たのでなんて困るし。

 稀にランダムエンカする設定なんだよなー。

 稀って言ってもゲームではイベント込みで何度もあったし!

 こうやって色々調べていると、個人の武勇伝に出てる位、QDKしてるんだよな~


 今回の探索は商会の後援として収納のスキルを持った荷物持ち君と、その護衛のボウケンジャー1個小隊が先行で向かってくれることになってる。


 帰りにパンパンなカバンなんて持ち歩けないからね!


 ボウケンジャー達が先行なのは最近目立っている私たちが一緒に出てくると、他の人にハイエナされるかも~との事らしい。


 殺伐ダァ!


 #####


 ~~~マリィ


 アレスの合金製の門から、門番に見送られつつ出発する!


 そういった事情で、マリアと二人で後から出発だ。

 前まで、毎日のように魔物狩りをやってたので同じように行動する。

 偽装でいつも通りにマリアを背負子に背負って、街から出撃。

 革鞄を背負ったマリアに、いつもより重いよと言ったら頭を叩かれた。


 デリカシーが無いらしい。

 

 街の扉から歩いて少しすると、気合を入れて飛び上がる。(よくきた)

 ユニーク移動スキルだったらしい足場の[支板]に全力でキックを叩きつければ。

 背にマリアを乗せ、足跡でデコボコな街道の低空を飛んでいく。(いいぞ)

 普通に走るより高速なのだ。

 なんだか、歩いてるのより飛んでるほうが自然な気がしてくるほどだ。

 旅程は毎回組んでいるのだが、どんどん熟練して早くなっている。

 予定より前倒しなことが多いので、マリアの追加休み時間にする。

 飛んでいる人間に乗るのは強くなっても気疲れするんだって。

 そんな時は季節の違いなのか、少なくなってきた山菜をまた拾ってきて、マリアに振舞う。

 初心、忘れるべからず!旅はサバイバル込みで楽しむのだ。



 甘い山菜を二人で食べながら、しばらくは街道を歩く。(貴公ら、傾いているな)

 驚いたことに、街では甘い山菜どころか、まずい山菜も高級品扱いだった。


 道中の話で祠や像に山菜を供えていたので、本当のやり方が知りたいとマリアに聞くと。


「高価なものを供えるなんて信心深い事ね。もちろん! とても良い事よ」


 と熱心な僧侶のマリアに信心深さを褒められるほど高級だ。


 街道に並ぶ祠や像は神や過去の戦士たちの物で、戦い、旅路、狩りの加護をくれる。

 素晴らしき隣人、味方、導き手らしい。


 知らないうちに、すごい味方を得ていたことに驚き、納得する。

 あの最初の旅の途中で、旅した人々はきっと過去の戦士だったんだ。

 奮発して、おいしい山菜や辛い山菜も供えて、

 マリアを横目に真似をして、膝まづき、頭を垂れる。


「我らに、栄有る。戦いを」


 真似して続く。


「われらに、さかえある。たたかいを」


 自分の異物感が薄れた気がして心安らぐ。

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