第9話 テンプレは強い

テンプレは強い


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 戦士の都市アレスに帰ってきたマリィ達は闘技場に来ていた。

 対人戦をするわけではなく、各地から捕獲されてきた魔物や魔獣を次々倒していく出し物に参加するためだ。

 エレノアの契約で商品のセールスをするため、店に販売されている装備をどんどん使っていくのが、今回の仕事である。


「今回の依頼を説明します!」


いつもの口上を闘技場にあるパトロン用の部屋で話すエレノアさん。


「ここのソファーはすごく柔らかい……高そうだ、儲かってるのかな?」

などと

いつもと違う場所に注意散漫になっているマリィは、マリアに叱られる。


 「仕事よ!しっかりなさい!」


 親しき仲にも礼儀ありと、言うことだろう。「了解した!」といわんばかりに背筋を伸ばすマリィ。


 「今回は我が商会の盾と剣で戦ってもらいます!」


 エレノアが机に乗せてあった包みを解くと、中から片刃の剣と四角気味な五角形の盾が取り出された。

 今までの短剣と違って、いい長さである。60セルチセンチほどある。


持ち上げた重さにマリィは微笑むと、立ち上がり。


「いいね!」


 #####


~~~マリィ


試合に向かう私の事をエレノアが見送る。


「がんばってほしいかも!」



 剣と盾の組み合わせは、テンプレ装備の一つだ。

なんのテンプレかというと、ゲーム大戦士の中でのテンプレなのだが。


  剣は隙が少なくて、多彩な攻撃スキルですべての状況に対応できる。


エレノアからの依頼で、アレス各地に飛び回っていた時も剣スキル(短剣は速度の速い剣扱い)と、仕入れた知識、情報でひき潰した。


 人型には急所を狙い


 異形相手は、相手の特徴を潰し


 どちらでもない相手には、力押しを出来なくもないのが剣の強さだ。


大体の相手には、特徴があるので、それを見分けて、どうしてほしいのかを読み取るのが剣の戦い方と言える。


 そんな悠長なことをして、突っ立っていれば一方的に殴られるだけなので、時間を稼ぐ必要がある。


その時間を稼げるのが盾だ。


盾の戦い方は単純で、相手の攻撃を受け、逸らし、受け流す。

時には弾き飛ばし、体勢を崩すこともできる。


それらの戦い方は相性がよく。

組み合わせて、状況を作っていけば

初見撃破や生存耐久などの戦いに優れる。


 今回、手に入れた装備はその特徴を高めるもので、特に勇者の剣についているエンチャント[貫通]はどんな状況でも腐らない強エンチャントだ。


 あとで貫通の効果を見よう。


 なんて考えながら私は目の前の試合に集中する。

司会の男が前口上として装備の宣伝をする。

普通の宣伝だが客はこれからの鉄火場に興味があるのだ、あっさりのほうがいいんだろう。


「皆様!次の試合が迫っております!選手が使うのは!あの!総合商店の新商品!で、ございます!その切れ味!堅牢さをご覧ください!!」


 今回の依頼は剣と盾の習熟のために、エレノアが回してくれた。

今まで私は短剣1本で活躍してきたが剣や盾に関しては未知数なためだ。


ゲームでの闘技場だと、強化を付与された、雑魚敵と戦うことになる。

 見た目は武器を持った豚鬼にしか見えないが、[斬首]で首が飛ばなかったりして、見た目で油断すると手痛い反撃をもらう羽目になるので油断大敵だ!


闘技場は円形の壁に囲まれる形になっていて、試合形式によって、障害物がついたりするのだが今回はフラット、何もなしだ。

 自分の入ってきたところと、反対側のところにいくつかの落とし戸があるのだが、そのうちの一つの金属落とし戸がキィキィと持ち上がっていく。


背中に差した鞘から剣を引き抜いて、剣を下段に構える。


 暗闇からのっそりと出てきたのは剣を持った毛深い人型で、ワーウルフって奴だろう。

 こちらを認めると真っすぐに突っ込んでくる。


「ガアアアアア!!」


こちらの構え方に、上段があいていると判断したと思われるが普通に振り下ろしてくる。様子は見ないのか?

振り下ろされる剣へと、盾の先端を勢いが乗りきる前に衝突させてはじくと、そのまま噛みつこうとするワーウルフの顔に剣の腹を向け、体を下げながらアッパーのように剣を叩きつける。


「よいしょ!」


ワーウルフの成人ほどの体が一瞬持ち上がった


 剣の背…ではなく腹での攻撃は、長い鉄の棒でぶん殴るようなものなので、顎に当てれば脳に衝撃が通り昏倒させてしまえる。


 どういった手段で強くしてるかは知らないが、脳みそを物理的に強くしてることはないだろうと狙ってみた。

スキルぶっぱばかりでなく駆け引きもうまくなっているんだ!

この場所では良いことだが、戦うことばかり上手になってる気がする。


案の定、動けなくなった人狼?に慈悲の一撃を与えると、次の敵が出てくる。


「なんという堅牢な守りでしょう!少女の華麗な勝利に拍手を!」


歓声と拍手に、すこし顔が緩みそうになりながら構えを変える。


同じ手ではつまらんだろうから、別の流れを狙う。


体を横に向けて、半身になると後ろ脚を踏ん張り、盾で守りながら剣を突きの形に構える。


次の相手は見事な角の鹿で、角が大きい! 幅が2メトルメートル近くある。


……剣チクチク戦法は突進に弱いのだ。


 受け止めるのはスッパリ諦めて


 焼き直しのように角を上段から振り下ろそうと突っ込んできた鹿の足元へと滑り込んでいく。

 身長差のせいで、やりやすい手が限られているのだ。


滑り込みついでに邪魔な前足2本を切り払い、バランスを崩した鹿に盾で殴りつける。


オラオラだ!


ブンブンと角で反撃されるが、角を剣に絡めて、押さえつけて、1発2発と、機動力の無くなった鹿の横面を殴っていると消えた。


バイオレンスだぜ。


長丁場になるので構え無しで待つことにする。

なんか、さっきみたいに事前に構えてて、読みを外されるとカッコ悪いし。


疲れてなくても、緊張を解くことできっちり体力回復です!


素早く倒しすぎたのか、おかわりがまだ来ない。

間が空くことを気にして、司会者が私の紹介をする。


「今回の演者はマリィ! 半月の間にレベルを2つも上げた新進気鋭の戦士でございます! 総合商会の所属戦士で! そのレベルは7!」


事実の羅列だが、周りが盛り上がっているのを見ると自分が凄い存在になった気がして口先をムニムニさせる。

 ちょっと?手でも振ったほうがいいかな??? と調子に乗ってしまう。


「本日最後の戦いでございます! これをどう攻略するのか! 目を離せませんよ!」


と、落とし戸が上がり、新しい魔物が係の人に引かれてエントリーしてきた。

ゆっくりとしている……目隠しされた亀だ。亀っぽい奴がいるぞ。

大きい、甲羅の直径が3メトルメートルはある。

係の人が亀の目隠しを取ると逃げていき落とし戸が落とされる。


 動物の見た目の魔物ばっかりだが、捕まえやすいんだろうか? テイマー的な?

そういう仕事もあるんだな~と暢気にしていると、亀の甲羅が光る。


なにか見えないものに吹き飛ばされて、たたらを踏む、結構痛いぞコレ!?


見えない魔法攻撃だ!空気かな?念力的なものかな??


甲羅がまた光るので、盾で身を守る。

体が押し込まれるが盾で守れたようで衝撃しかない。ブォと駆け抜ける風

風での魔法攻撃と思われるが、威力が弱く攻撃範囲もピンポイントだ。


 牽制かな?牽制している間に終わらせてしまおう!


 そのまま、連打されるが盾とステップで凌ぐ。

慣れてきたので、ジグザグに走りながら接近する。

すると、対処を諦めて、亀らしく頭と手足を引っ込め籠城の姿勢をとって、甲羅が光り魔法が発動する!


 亀の周囲が激しい竜巻に包まれた。


 硬い甲羅と魔法の竜巻で、物理と魔法の2重防御だ! 上等!


  普通なら、どうにもならないが、こちらは戦士!


  スキルがある!


 盾を前に構えると気合とともに突っ込む。


「断て」


[遮断]で一瞬だけ竜巻をしのぎ、剣の背を向けてスキルを発動する。


「徹れ」


[徹甲] でストームタートルを破壊!


 竜巻が止まる。


 ちょっとスキルを封印して戦っていたが、使わされてしまった。

自分がゲームで闘技場をやってたときの遊びみたいなものなので、何かあるわけでは無いが……。


それにしても2種類のスキルを時差なしで組み合わせて対応できるのは、本当に強い。


 堅牢そうな亀の甲羅は深く陥没している。

それを成した剣の背を抜くと亀は消え去った。


広々とした闘技場に私一人が立っている。


大勝利だ! と剣を持ち上げて見せるとその場は歓声に包まれた!


切れ味じゃなくて頑丈さばかり見せているが、良い剣だな~。

今度、予備の剣か、普段使いに良いかもしれない。

伝説の剣をいつも使ってたら、装備が良いからな~って言われちゃうからね!


断じて武器コレクションだなんて考えていないヨ?

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