第8話 装備は大事
土砂降りの中、戦いが繰り広げられている。
停車した馬車からよく見える場所、青い葉に水を纏った林から魔物が飛び出してきた。
「弾け」
[バッシュ] 「どおりゃあ!」
分厚い金属製の全身鎧に身を包んだ騎士が咆哮する。
ドシンと大きな音を盾から響かせて、うまくモンスターを後続のモンスターにぶつけてみせた。
[誘導] 「行け」
「ふきとばしますよ?」
[爆発矢] 「爆ぜよ」
美しい光が真っすぐ空に駆けて、軽装の弓使いの指がなぞられると、ぶつかって混乱しているモンスター達を更に吹き飛ばす。
「貫け」
[貫通矢]
藻掻く様にモンスターが暴れるが、そこに他の弓使いからの追撃が突き刺さっていく。
手を出すところがまったく無いので暇なマリィは、カバンから袋を出して抱える。
ドライフルーツだ。
ボウケンジャー達の隙の無い戦いを見ていた彼女は、この後のことを考えていた。
今回の遠征に参加した理由は、バカンスもあるが、ゲーム知識由来の装備回収も目的だ。
内容はかなり簡単なもので、朽ち果てた城で隠し宝物庫を漁るだけである。
出てくる敵もちょっとだけなはずなので、マリィは楽観視している。
ちょうど遊びに行く街の近くにお目当ての場所が存在したので、ちょっとした冒険だ。
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計画通りに事が進みエレノアの商談の合間に、マリアと一緒にボロボロの城を探索している。
「結構、雰囲気あるわね!」
マリアが元気にしゃべる。
マリィは彼女とかなり仲良くなった。背負って毎日飛んでいた成果である。
この廃墟は低級モンスターばかりなので、かなり気が抜けているようだ。
マリィもまた、ドライフルーツ装備で気が抜けている。もちゃもちゃと食べ歩き、舐めプ状態。
廊下でカツカツ、コツコツと二人分の足音がする。
古城は石畳が、崩壊しているところもあり、在りし日の激戦を感じさせる。
基本的に城攻めは守るほうが有利なのだが、攻めるほうだけに強い戦士がいると、城が棺桶と化してしまうのだ。
そんなことを教えるように、お城の壁は、ほとんど崩れていて天井もない。
ドライフルーツを飲み込んだマリィ。
少し先行してマリアに露見しないように片目だけでこっそりと確認を使う。
[確認] 偽装壁_木製_宝物庫を守っている_スライド式
「おおっと!」(気をつけて)
わざとらしく転んで、偽装壁にぶつかると崩れ落ちた。
「ええ!? 隠された扉? お宝の予感ね!」
マリアが喜んでいるのでマリィとしては、演出した甲斐がある!!
何だか、すごく周りを気にしているが、こんなところに誰かがいるはずも無い。
「わたしは~マリィ!! おたから~ハンタァ!」
マリィは素早くメカメカしい扉に近づくと、詳しく見られないうちにテンキーにコード番号を打ち込むとロックが解除された。
普通の引き戸だったかのように宝物庫の扉を開け、展示されている装飾の無い剣と金で縁取られた盾を取ると、さり気なく掲げる。
「伝説は~。始まった~!!」
……本当に伝説の装備だったりする。
勇者の~系統の装備で、強力なエンチャントがついているのだ。
マリィとしては片手剣は嫌いだが、盾は大好きなので、贅沢だけど妥協装備だ。
これで防御さえできていれば、 持久で削り倒せるという一品である。
「ええ~大丈夫なの?」
マリアがドン引きした顔でマリィを見てくる。
マリィはマリアに心の中で謝った。彼女の専用装備はアレス付近には存在しないのである……。
「ほかは、ぜんぶマリアにあげるから!」
マリィはマリアに縋りつく。
ここで見捨てられると困ってしまうのである。
いつも鈍器がメイン武器なマリアに剣は微妙である。
盾は……マリィのスキルと相性が良すぎるので渡せないのだ。
「ほかの宝石とか~マントとか、本や金貨の山ぜんぶ! ぜんぶです!!!」
「……儲かりすぎて引退とか、しないよね?」と不安になりつつ、上目遣いで見つめる。
「装備に魅了でもされたの?」
「チガウヨ?」
となぜか解呪奇跡のディスペルが飛んでくる。
不安を感じたのはマリィの勘違いだったようだ。
遺跡の装備には呪われたモノも存在する。
マリィ自身は自分の欲望に呪われている。
話を切り替えるように、目に付いた良装備を手渡すマリィ。
「マリアはこの鈍器が良いんじゃないかな? 柄の飾りに綺麗な宝石がついてるよ!」
さり気なく、おすすめ装備を手渡すのだ。
剣盾と比べると格落ちだが、強い鈍器。僧侶の奇跡スキルを強化する鉄板装備であり、装備更新がはかどり過ぎると、マリィは思った。
マリアとしても剣とか盾は慣れてないので、慣れてる装備が一番である。
「仕方ないわね、次はあたしがメイン
神のような心持ちの相棒にマリィは感謝した。
彼女の知らない単語が飛び出たが、後で聞くと心のメモに書き込んだ。
「我が事ながら、都合がよすぎるのでは? ゲームの仲間最高だ!!!」とマリィはマリアを仲間にした判断を自画自賛する。
急いでマリア専用装備のダンジョンを探すべく、記憶を思い返しつつ帰還する彼女は、結構に特徴的な場所だったことを思い出し自分で書物を漁り調べることを更に心のメモに書き記した。
がめついとは思うが、マリィは装備の更新がしたかったのである。
「ゲーマーは装備の更新が大好き! あいしてう」
とも
「ほんとうにもうしわけないおもっている」
とも内心でマリィは思った。
――確認――
[確認]貫き通す勇者の剣_オリハルコン製_それは壊れない_[貫通]
[確認]守り瞬く勇者の盾_オリハルコン製_それは壊れない_[瞬守]
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