第24-1話 戦艦でファストトラベル 前編

 戦艦でファストトラベル


 ~~~マリィ

 両用戦艦レクイエム艦橋 


 アギア連邦の山々から始まり、アテナの横を通って王都アルテミスの北を迂回し外海へと流れる巨大な川からアルテミスに友軍判定された両用戦艦が水を滴らせながら浮かび上がる。

 アルテミスの弓が散発的に飛行物へ反応したウォータードラゴンパピーを撃ち落としている。

 私は今、戦艦レクイエムというらしい戦艦の艦長席に凄そうな軍服で偉そうに座っている。

 正式な軍務ということで、艦長の服を与えられたのだ。

 先端の方に色々なボタンのついたひじ掛けに置いた腕で頬を支え、偉そうにしている。

 とてもいい気分だ!

 隣では、マリアが副官用の椅子に座って、色々と指示を出している。

 マリアが纏う軍服の胸には、レベル証と王族の証がぶら下がっている。

 アリスとリンは私の斜め上後ろにある観戦武官用?の席に座って目を輝かせている。

 二人も軍服、私と二人は胸にレベル証と学校の卒業証が誇らしげにぶら下がっている。

これは一目で偉さ、強さがわかる様にとのことらしい。

 構図は魔導車と同じだが乗るものと服装が違いすぎる。

 マリアの指示でこのフネの臨時クルーとして貸し出された戦士として一線級の王宮使用人がよくわからない階段、手すりがたくさんある艦橋でキビキビ働く。

 艦橋は床が壁みたいに急で階段を使って歩くような所なのに。

 その理由は最近知ったけどやっぱりマリアは何でもできるな!?

 私は偉そうにすることしかできない…


 しばらくそうして偉い艦長ごっこにいそしんでいると、マリアがこっちを向いた。

 遊んでないよ?とウィンクする。

 手元のボタン機能を簡単に教えてもらっていて、この戦艦の外観を見ていたのだ。

 押しちゃダメなボタンは触れてない。


「マリィ!推進装置の点検、移動予定地の座標入力完了よ!このフネは南方への街道沿いにアテナを経由して魔力と物資の補給、主要人員を回収し、次の海へのルートでは更にアレスを経由して護衛戦力、商会からの物資も回収するわ」


 全部まとめて持っていける機会なのでぶっこむね!

 小さな敵は街道の上を飛んで回避と…

 最近、撃墜祭りがあったばかりだから南のルートも普段よりは安全だそうだ。

 最高のチャンスだ!

 教えてもらった通りにびしりと指を真っすぐにした腕を前に出す。


「行こう!戦艦レクイエム、征夷に出撃!」


 発進を斜め上から見た映像が艦橋前面の大型スクリーンに映される。

 スクリーンの隅で王様も軍服で腕を前に出しているのが映る。

 地面に刃を向けた背の広い片刃剣のような形状の戦艦レクイエムが映されている。

 戦術用なのか、高精細な手元のサブ画面に王都から手を振る人々が見える。

 空飛ぶ極大剣だ!カッコいいぞ!スキルとか使えるのかな?

 メテオストライクとか街を更地にしそう!


 上下に飛び出たガードに当たる部分の上側が艦橋、下側は魔導砲になっている。

 魔導砲は飛行時以外、邪魔なので畳んであるそうだ。

 ずっと水に浸かっていて平気なんて丈夫だな!

 結局、思い入れがあるようで魔導砲付きの旧型を王様に貸し出された。

 弱点って話だけど、使わないときはずっと畳んでおけばいいな!

 因みに突撃時に艦橋も畳めるようで、大型のスクリーンはその時のためらしい。

 やけに斜めな床は畳んだ時が考慮された床だ。

 柄頭の部分から青い炎が噴き出ていて、あれが推進装置か。

 映像だと街道がゆっくり流れて見えるけど、補正のせいでそう見えるだけで、ものすごい速度が出ている。

 スクリーン下にある速度メーターの桁数が魔導車と違う。


 …


 メトル表記なので、桁数が多すぎて本当に読みにくいな!


 でもこれは強そうなフネだ!

 特に大剣の形なのが気に入った。

 戦艦界では剣くらいかもしれないけど、私にとってこのフネは大剣!いいね?

 ニヤニヤとどうやってこのフネを振ってやろうかだとか色々と考えていたらマリアに呼ばれる。


「アテナに着陸するわ、シールド氏に挨拶して。」


 もうついたのか!速すぎる!スクリーンにドドンとシールド氏が映る。


「ようこそアテナへ!マリィと戦艦レクイエムの諸君!歓迎するんだ!」


 学園長の部屋から映像付き通信をしているようだ今更だけどどこに着陸するのだろう?


「今、イージスの盾で着陸場所を作るんだ。 … そこに着陸して欲しいんだ。」


 すごい勢いで巨大な階段と、そこから伸びる船着き場がフネを囲って構成される。

 やっぱりシールド氏のイージスの盾操作はすごすぎる全くフネに掠ってない…

 しかも船が着陸するのと一緒に足場がついてくる…


「魔力の補充も僕がしておくんだ。 今、友達のドラゴンキラーが来ていて暇なんだ」


 スクリーンの上に表示されている魔力タンク残量が凄い勢いで一杯になる。

 もう、シールド氏の独壇場だ!?


「撃墜祭りの報酬も僕が乗せちゃうんだ。 開拓予定の生徒を集めるのに時間がかかるからちょうどいい作業なんだ。」


 ドレッドノート型魔導鎧が学園から飛び出すと片手にたくさん抱えたコンテナをフネの艦橋後ろの持ち手の部分にある格納庫に几帳面に並べていく、シールド氏は画面にいるのに…

 遠隔操作できるのか~


「ありがとうございます!助かります!」


 ドレッドノート級の魔導鎧か…

 なんとか、振れるかな?

 どこにあるっけ…


 ?


 手元のサブ画面に長耳の人が大写しになっている。

 耳をピコピコさせて楽しそうだ。


「東のドラゴンキラーをかくにん?」


 サブ画面に注釈がある。

 このフネ的に重要人物なのかな?

 このフネは空を飛ぶから、ドラゴンは天敵か!

 確かに、重要人物だ!私も重要人物に登録済み?まだ早い?


「彼が友達のドラゴンキラーなんだ。 強いドラゴンが倒したくてエリンの森から飛び出してガルト王国にいるんだ。 よく助けに来てくれて良いやつなんだ!」


 サブ画面のドレッドノートが艦橋に目を向けてスピーカーで話しかけてくる。

 スクリーンのシールド氏も同時に話しかけてくるのでステレオシールド氏だ!?


 クラスメイトの皆と、この前レベリングした魔法使いたちが階段を上がってくる。

 レクイエムのハッチの前でクラスメイトの皆は達観した顔だけど、魔法使いたちはビビっている。

 経験が生きたな!

 手元のボタンを押してハッチを開きながら外部スピーカーでお話しする。


「ようこそ~戦艦レクイエムへ~このフネはアレス経由~港町ローナ予定地行きだよ~」


 声を控えめに話す。

 聞いた声に魔法使いたちも安心したみたいだ。

 次々と、ハッチに飲み込まれていく。


 しばらくすると少し年を取って白髪の元王宮執事のペルスラン氏が皆を連れてきた。

 使用人だとかは抗老化を通り過ぎると仕事の引き継ぎをして職を辞するのが普通らしいけど、私の開拓を老後の楽しみ?として手伝ってくれるらしく、本当に助かる。

 彼を慕って、一部の使用人も来てくれるので開拓地で屋敷を建てても安心だ!

 最初は魔導車にでも住もうと思ってた、でも大戦士は良い所に住まないとダメらしい。

 屋敷の維持管理で頭が痛かったけど、とんとん拍子で解決して怖いくらいだ。


 私に挨拶した後、魔法使いたちが席に座るリンを囲んでいる。

 私はクラスメイトに囲まれている。

 王様の無茶ぶりを一言で説明する。


「王様が戦艦を貸してくれて、これで王国の力を示し、海賊を倒せって言うから」


 本当に急だが、港町を作るのに助かる依頼だった。

 真顔でロックが言う。


「海賊の討伐か、せっかく港町を作ってもあの連中は邪魔だと思っていた。」


 情報は集めてあるらしい。

 でも船が無いので後回しにしていたそうだ。

 教えてよ!?

 もう教えた?

 覚えることばかりで海賊のことまで考えてられなかったかも。

 あやうく、海賊に大儲け!左うちわ!が邪魔さえるところだった。

 よもや、最初から気合の入ったバカが頑張る土地へ進出していたなんて今回の依頼が無かったらめんどうくさい事になっていたかも。

 陸の勉強で精いっぱいで海の勉強までは難しいって…

 レベリングもあったし!


「連中はこのフネと同じく戦艦を持っている。」


 ええ…

 海賊がなんでこんな装備を…?

 皆もすごく驚いている。

 皆にとっても驚きなのか私だけじゃなくて良かったよ。


「海賊に運用できる装備とは思えないよ?」


 我が意を得たという風にロックが笑う。


「海外の国の私掠船で、ほとんど軍隊だが隙はある。いい情報もある。」



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