第23話 少年王のお願い

 少年王のお願い


 〜〜〜少年王

 王の私室


 俺様は顔には出さないが久し振りに驚いている。

 出ていって早々に大戦士になった娘に、では無い。

 思うところはあるが、コレに比べれば些事だ。


 この城で死んだはずのモノが自分の足でこの城に来たからだ。


 表情を隠しても考え続けて無言なのは不自然なので即座に解析の魔眼を使う。




[確認]マリィ_勇者?龍?人げん_戦士_レベル11_あなたの娘です。


 ???


[確認]マリア_人間_僧侶_レベル10_あなたの娘です。


 ふむ、異常はないな。

 しかしマリィめ、昔からふざけた娘だったが一体何をやったらこんなことになるんだ?


 俺様でも理由がわからん、書類を見て名前で興味を持ったが、人間でないなら書く文字が昔のままなのはどういう理屈だ?海外勢の特殊スキルによる嫌がらせか?


 その割には調べてみると行動が王国のためになっていたし、何より自由だった。

 行動歴はマリィのやりそうなことばっかりやっていて、口癖もそのまま…

 機械槍で頭に直撃させて、下手な無線言葉を使う子なんてマリィだけだろう。


 発火器以外は預かったのに装備も好きにしていた頃と同じだ…


 …


 おい…

 ドレスとリボン、護符はどうした!?

 短剣も見当たらん!

 鞄は愛用してるのかボロボロだ…

 

 副葬品は気に入らんものは放り投げて勝手に装備を整えるのか!?

 約束通り、傭兵にはしておいたが死亡抹消後、自分でもう一度傭兵になるとはな!

これがお前の死出の旅なのか!?


 心乱されるのも懐かしい。

 履歴から記憶の類は残ってないと断定しているがあんまりにもらしいので期待してしまう。


 終いにはマリアなんていう俺のところから旅立ったばかりの娘を相棒にしている。


 海外勢からの嫌がらせ目的には無駄ばかりで、侵食目的にもマリアが相棒では無謀だ。


 俺様が放流する兄弟姉妹のため、即座に国のために行動して、即座に結果を出してしまった危ないヤツなので…

 正直コミュニティを作るくらいで収まり、そこに俺様が匿名で援助しようと思っていたんだが即座に大戦士になってしまうとは…


 意味不明な存在を抱えて!

 さすがの俺様も予想外だ。

 マリィが頭を下げたままプルプルし始めた。

 時間切れだな、通常の進行で行くか。

 表情を手も使い取り繕って…


「面をあげよ」


 〜〜〜マリィ

 王の私室


 マリアのぱぱにあいさつだ、わあ。

 …

 案内された王の私室で頭を下げたまま、ずっと待機している。

 うおお!もってくれよ…わたしの忍耐…手足がプルプルし始める…げんかいを…こえろ!


「面をあげよ」

 すぐに顔を上げる。

 早すぎて、小さな王様の顔が引き攣ったヤベ…

 目を逸らして沈黙する。

 沈黙は…金!


 …


「…」


 …


「(期待しすぎるから、やめてほしい)」


 取り越し苦労をしたような王様と目が合う。


 なんだか無性にウィンクしたくなったけど

 鋼の理性で我慢だ。

 体の言うことが聞きにくいが、そういう魔法のかかった部屋なのかな?

 無礼者を作って、断罪!すっきり!みたいな?

 鋼の理性を振り切ったウィンクを妨害するためにもう片目も同時に閉じる。

 目が乾いたんです~パチコン!


「(…まあいい、約束だからな。) 大戦士マリィよ!お前の開拓を認めるにあたり勅命を与える事とする!」


 突然の勅命!

 勅命ってあれだよね?

 王様の言うことを聞け~ってことだよね?ナニヲシロー?ここお城ー!


「よくぞ海への道を再び拓いた!我が両用戦艦を使い、王国の威を示せ!余裕を持っての征夷を命じる。…簡単に言えば、俺の船で海外の海賊どもをなぎ倒してこい!急がずに好きにしていいが、敵の船もあんまり沈ますなよもったいないから。」


 私がよくわからない顔をしていたからか、意訳してくれる王様にマリアが驚いてる。

 フレンドリーでわかりやすい説明だ!


「はい!わかりました!船を大事にしながら好きなように海賊をやっつけます!」

「うむ、マリアは征夷の補助をせよ、それがお前の目的にも繋がることだろう」

「わかり、ました。」


 マリアが混乱しつつ了承している。

 目的って何だろう?話してくれる予定だけど、海賊を倒すと目的につながるってやっぱり人助けなのでは?目的が人助けって滅私すぎるぞ!?

 もう少し、我欲を出していけ!私のように!!!


「船は明日用意する。明日までは王宮で休んでいくと良い。」


 王様が去っていく、その後ろ姿は何だか元気そうだ。

 ばいばい。


 ~~~マリア

 王宮の一室


 見たこともないほど上機嫌の王には驚いたけど、両用戦艦…長らく、川遊びにしか使っていないけれど、その本領は外海での戦闘と足場だ。

 港町には絶対に必要な海軍力!

 これを借りている間に海賊の船を拿捕しておかないと…

 マリィが聞いてくる。


「マリア、両用戦艦ってどんな船?」


 海賊退治の装備を把握しておきたいのだろうけど、両用戦艦は特殊だ…話の前、マリィに長い説明になることを言っておく。


「単純な船ではないわ、話すと長くなるわよ。」

「いいとも!」


 いい返事をもらったところで外観からだ。


「総金属製の城のように大きな船で帆が無いわ」


 マリィが目を丸くしている。

 早速、驚かせることが出来たみたいね。


「動力は規模が違うけれど運搬用フロートと同じね、巨大ながら低空や海の上に浮くことが出来るわ両用の名がつくのは水上だけでなく、空も飛ぶからなのよ飛行に関する法は戦艦についても特措法があるわ。 出来るだけ早く戦地に着くために」


空を飛ぶと聞いて興味が出てきたみたいね。

聞く姿勢になってきたわね。

マリィはある程度、興味を持たせないと変な覚え方をするから…無線言葉とか。


「最新鋭の武装は、船員が戦うために丈夫な甲板の装甲!突入させるため、ぶつけるわ!昔は大砲を積んでいたそうだけど弱点になるからやめたの」


 シールド氏のような旧文明の兵器ではなく、あたしたち自身が作った兵器なので堅牢で強烈な火砲は用意できなかった。

 一隻、砲門に炎を受けて自爆したので、弱点になるくらいならと外してしまった程度のものなのだ。

自爆した戦艦は火砲以外船員さえ無傷で帰ってきたけど弱点は潰しておくものよ。


「船員や質量が武装代わりなのね…」


マリィが残念そうだけど、ガルト王国の戦士は足場さえあればどこでも戦えるからこれが最適解なのよ。


「ただ、あの在位の長い王が持っている戦艦は古い型の物もあるから、もしかしたら火砲付きの戦艦かもしれないわね。 そんな古い型のを事情もなしに出すとは思えないけれど火砲をしっかり守らないと危ないわよ!」


納得したような、して無いようなマリィの顔を見ながら決心する。

あまりに利己的な事に巻き込んでいて、許してもらえるか不安だ。

でも、事ここに至れば黙っていることはできない。


「戦艦の話はこれくらいね。 私の目的の話をするわ。」

しっかりマリィの顔を見て話す。

「私の目的は、このガルト王国を少しでも安全な国にすること!そうすることで毎年のように城から出される他の家族を守りたいの。 家族を守るためにあなたを誘導して英雄にしようとしているわ…ごめんなさい」


マリィがポカンとした顔をしている。

今まで黙っていて本当に申し訳ない。


「導いてくれてありがとう! これからもよろしくしたいよ?」


笑いながらよろしくしたいというマリィがわからない。


「平和な暮らしから遠ざけていたのよ? いつも、楽をしていい暮らしがしたいって言ってたじゃない。」


きっとレベル5のままでも十分楽な暮らしが出来たはずだ。

それだけマリィを後援している、総合商会は太い。


「??? レベルが低いと平和に暮らせないよ? もっと魔道具で便利で安全な暮らしをするにはお金が要るよ。」


マリィの言っている平和は絶対者の平和だ。

マリィの言っている便利な暮らしも途方もなくお金や人材の必要なものだ。

マリィの求めているものと私がマリィに求めているものは同じだった。

今までそんなことはわからなかった、マリィはいつも勝者だったから。


攻撃は全部先制して遊び以外で相手に何もさせないマリィ。

勉強を教えれば試練に飛び込み遺産装備レガシーウエポンに身を包むマリィ。

有用な装備は即導入して、効率的にレベリングするマリィ。


わかるはずもない、マリィは負けたことが無かった。

いつも勝ちながら、負ける不安におびえていたんだ。

常に対策を行いながら負けないように牙研ぎ続ける。

楽し気で能天気な笑顔がマリィの不安を隠していた。


ならその不安を払う一助に私が成ろう。

王に海外勢力の撃ち払いをマリィが決心させた時点で私の願いは叶っている。

私は僧侶。

戦うものを生き残らせ、次の戦いに誘うもの。

戦士を死から遠ざけ、勝利を呼び込むもの。

あなたの死を遠ざけ、共に次も勝利しよう。



黙っていたのでマリィが不安そうな顔をしている。

そうね、あえて言葉に出すならば…


「お金が要るなら、働かないとね!あたしも海賊退治ご一緒してもいいかしら?」


共に往こう、あなたの平和が訪れるまで。 

あなたの平和が訪れた後も、共に在ろう。

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