第12話 イベントの日常

イベントの日常


~~~


一気に上昇し、間合いを詰める。前提動作として剣で星型を切りその外周を円になぞる。


もう、止まれない。

体がひかり始める。


目に映っている投槍のスキル、ジャベリンレインでハリネズミの黒いドラゴンを見る。

そんな状態でも、ゆっくり進んでくる。

何も対抗しないのか?


[確認]勇者龍_勇魂と龍体製_死望_あなたの同胞です


一気にマリィの敵意と戦意が無くなる。


えっ


…そんな馬鹿な。




〜〜〜衛兵長


 朝の静かなアレスの街に警戒の鐘が鳴り響く。


素早く詰所まで戻ると首を安置し、槍を引っ提げて警報を鳴らす門を飛び出す。


遠方に堂々とした黒いドラゴンが見える…

反撃をしてこないという不気味なドラゴンだ。


ギルドマスターエイレンがその件の会議で不在のこんな時に!


他の大都市のドラゴンキラーを呼ぶ必要がある。


「ギルドの遠距離通信でアテナのシールド氏に救援要請を!ドラゴンが出た、と頼む」


槍を運び込んでいる、新兵にギルドの遠距離通信での連絡を頼む。


これで最悪の事態、都市の崩壊は防げる。

だが最悪が防げるだけだ。

都市の近くで撃破すればこのアレスといえども。

たくさんの市民が魔力に覚醒し、制御できずに破裂することだろう。

距離が…必要だ。

何か他に手は…


降ってきた少女を思い出す。


ふむ…ほぼ外道の手だが…しかし、やむを得ない。

あの不気味なドラゴンの噂と彼女の機動力なら…いけるか?


冷徹な算段が終わる。


怖がっていた頭の軽そうな少女を思い出す。


君は本当に愛し子なのか?


~~~マリィ


 警報だ!

どこかで聞いた警報だ!

襲撃系イベントの警報だ!

クエストごとに挟まれる事のある強制戦闘、強い敵の顔見せみたいな?

色々な攻略法があって、時間稼ぎしてると、強い味方が撃破してくれる。


ドラゴンだと大騒ぎになっている周囲をよそに、手段を考える。


マリアが言う。


「エレノアがまずいわ!どうする?都市から連れて逃げる?」


時間稼ぎでもいいけど、エレノアが破裂するのは困るので封神剣で封印勝利狙いだ!


 封神剣は剣の即死技、抵抗を削いだ、ダウンした相手の魂を封印する技だ。

ダウン後に発狂する敵がいるので~その対策に当たる。


問題は、2点ある。


 1点目はとても、とっても!!スキルのキャストタイムが長い事。

今回はムービーでの衛兵隊の援護で確定ダウンがあるから、大丈夫だ。

でも、このスキルを誤爆したら、必死に盾で身を守らないといけない。

体がゆらゆら踊るし光るし危険!

敵の前で踊るな!光るな!戦え!

片手剣が嫌いな理由だ!


 2点目が難しいんだが、どうやってドラゴン戦と洒落込むかだ…

レベル8程度でドラゴンと戦うなんて正気じゃないし、私も、都市からの援護で確定ダウンだと知らなければやろうとは思わない。


「大変なんですけど!エレノア様からの緊急の呼び出しなんですけど!」


普段、呼び出しには来ない荷物持ちのもっち君(自称)が呼び出しに来た。


もしかして、渡りに船か?



~~~


「今回の緊急依頼を説明します…」


いつもの総合商会の交渉室でエレノアさんがいつもと違う前置きをする。

いつもと違って、衛兵の人がおり、静かな顔でマリィを見ている。


「今回の依頼はこの都市に向かっているドラゴンの…ゆ、誘導です。」


死にに行く任務だ。

私以外には。

マリアが即反対する。


「だめよドラゴンはだめ、格が…違うの普通のモンスターとは違うの。」


それに対して、エレノアは激しく頷きしかし衛兵の人が言う。


「仲間からは反対か、だが君はやる気のようだな少女よ」


表情を観察されていたことにマリィはバツの悪そうな顔をする。


「飛んでると寄ってくるんだよね?私が適任では?」


昔、「れくちゃあ」されたことを思い出していたマリィ。

この衛兵の人は知っている衛兵殿だった。


「そうだ、衛兵隊も前線で全力攻撃をする予定…だ私も出る、凄まじいものだぞ?アレスの衛兵隊の全力攻撃は」


清々しい顔で要するに自分も死にに行くという衛兵殿、ちょっと申し訳なくなってくるマリィは誘導直前のアプローチで試したいスキルがあると伝える。


「聖者の試練にて習得した。今回の件に有効そうな剣スキルがありまっす!」


ちょっと噛んでしまった、マリアが凝視してくるのでウィンクする。


「ほう、例の…噂は聞いている、たしか試練の主はローナ殿!ドラゴンスレイヤー!そう来るか!」


これで前提は揃った。


「封神剣というのですが、発動前の隙が大きいみたいなので手伝ってもらえれば!」



~~~マリィ


 場面は冒頭にもどる。


そんな!バカな!ことが!


同胞だなんて。

そんな、急に、困る。


ドラゴンが何者だなんて知らなかった!

知らなかったんだよ!


涙が止まらない。 


同胞って?


わたしとおなじなの?


動揺で考えがまとまらない。

 

体だけは綺麗にひかり舞い続けている。


ドラゴンの光る青い眼と私の光る青い眼が合う。


[確認]勇者龍_勇魂と龍体製_喜び_あなたの同胞です。


眼で語り合えてしまう。

私と同じで私のすることがわかるのだろう。

眼で通じ合ってしまう。


なんて…関係…


[確認]勇者龍_勇魂と龍体製_謝意_あなたの同胞です。


スキルが発動してしまう。

ひかりが増す。

ひかりが流れ込んで勇者の剣がまばゆくひかり…


スキルの予備時間が終わり、口が勝手に動く。


語らいが、終わってしまう永遠に。


「とわにまどろむ、あなたをゆるす」


[封神剣] で勇者龍を封じた!


黒い龍の姿は巨大な炎になると、私の体に殺到した。


スキルによる滞空が終わると、フラフラと近くの丘に墜落する。


なんということだ。


レベルアップしたのだろう。

心はともかく、体の調子が良い。

心と体のアンバランスに余計苦しむ。

周りを見る余裕もなくその場で落ち込む。



チカチカと青い光が見える。

確認なんて使う気も起きないのに。


腰にある発火器が、チカチカと青く光っている。


もしかして…


[確認]発火器_オリハルコン製_それは壊れない_友好


神と過去の戦士達の加護に感謝する。


しょうりした。


わたしたちはドラゴンに勝利した。


みんなが迎えに来る。


みんなの所にかえろう?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る