来訪者
やあ、僕の名前はヘレシー!
小さい頃に呼び出した守護獣のおかげで召喚師としての素質を認められた僕は、今日からあの有名なヴァリエール召喚師学園に入学する事になったんだ!
初日からお貴族サマに絡まれて疲れちゃったけど、今は寮の自室でお茶を飲んで寛いでいるよ! 王都は茶葉が安く手に入るから本当に助かるね! これが今のところ入学して一番良かった点かも!
あ、立派な召喚師になるのが一番大切な事だったっけ? アハハ!
──コンコン。
入学式の一週間前から入寮していたから寮生活にも少しは慣れたよ! 最初は枕が違って寝辛かったりもしたけど、今ではこの通り、ベッドで横になればすぐに眠れるようになったんだ! なんだか急に寝た方がいい気がしてきたからもう布団に入っちゃうね!
──コンコン。
今日はとってもめんど……刺戟的だったね! 明日はもっとマシ……楽しくなるよね、ハッピー!
『
──ガチャ。
「ヘレシー、入るわよ」
「は?」
ノックの音を頑張って無視していたら、内側から鍵をかけていた筈のドアが勝手に開けられて枕を抱えたレティーシアが上がり込んで来たよ!
……いや、なんで? やっぱり貴族の人って庶民の人権とか無視できちゃう感じ?
もう僕の中ではジェイド君を通り越して彼女が一番の要注意貴族になっちゃったよ。見た目はどこかの国のお姫様みたいに綺麗なのにどうして……?
「……色々と言いたい事はあるけど……何か用?」
「怖くて眠れないわ。というか、寝たらもう二度と目覚めなさそうだわ。貴方も分かっているでしょうけど、明日はとても大切な日なのよ。寝不足になる訳にはいかないの。なんとかして頂戴」
「えぇ……」
レティーシアが小さな女の子みたいな事を言っているよ! クールな印象の美人が精神的に弱っている様子は見ていて意外性があるね!
……君、もう法的には成人してるよね? ホラーが苦手なのは分かるけどさ、もう少し大人になった方が良いんじゃないかな?
「ハッピーの姿を見て驚いちゃったんだよね? ちょっとした幻覚を見たかも知れないけど、彼女は邪悪な存在とはもう分かれてるみたいだし、呪いみたいな効果も一切無いから寝ても大丈夫だよ」
「体の震えが止まらないの。目を閉じたらすぐに悪い何かが心の底からやってきて、私を取り込もうとするのよ。家の治癒師や呪術師に見させたけど原因は分からなかったわ」
「まぁ、本当に何もないからね」
ハッピーは潔白だよ! あの痛々しく見える肉質は生まれ持ったものだし、そこに埋め込まれている人達だって別に彼女が食べた人間って訳じゃないんだ! 全員合わせて一つの存在らしいよ!
肉腫に埋まってる女性達にそれぞれ話を聞いた事もあるんだけど、悪戯好きでお茶目な人が多かった印象だね!
「でもほら……見て、もう手の震えが止まってる。ヘレシーの姿を見て、声を聞いて、匂いに包まれて……私の全身が安心しているの。あの時、貴方が手を引いてくれたから。私を救ってくれたから……」
「え、なんか怖。……あのさ、君が眠れなくなってる原因ってハッピーなんでしょ? 彼女を召喚した張本人の僕と一緒に居て落ち着くのっておかしくない? 救ったって言われても、それじゃ僕の自作自演だよ」
「私だって頭ではそう思っているわよ。こんなの刷り込みや洗脳に近い状態だって。でも体が貴方を求めているんだから仕方がないじゃない。いいから早くこの疼きを慰めて頂戴」
「言いたい事は分かるけど言葉選びが最悪だよね」
どうやらレティーシアは怖がり過ぎて色々とおかしくなっちゃったみたいだね!
故郷では滅多にこんな事なかったんだけど、王都の人はホラーが苦手っていうのは割と有力な説かも知れないね! これから守護獣を出す時には気をつけよう!
「そうは言っても、男と同室で寝るのは貴族として不味いんじゃないの? あまり詳しくはないけどさ、実際には何もしてなくても誰かと一緒に夜を過ごしたっていう事実だけで結婚する時に不利になったりするんでしょ?」
「影武者も用意できないような小さな家と同じにしないで頂戴。家が用意した者の他にも、私と腹心だけが知ってる影武者もいるわ。ここまでは専属の魔導師に頼んで認識阻害の魔法を使って来たし、心配は無用よ」
「前準備が本気過ぎて怖いなぁ」
どうやら色々と気を付けながらここに来たみたいだけど、それだけの危険性を認識した上で行動に移してるのが余計にヤバいよ! 将来何か大きな事をやらかしそうな危うさがあるね! この学園生活の中で少しは性格が丸くなるように祈っておくよ!
「うーん……あ、ほら、僕も男だしさ、女の子が一人じゃ色々と危ないよ。怖いのは分かったけど、もう少し冷静になるべきじゃないかな」
「貴方はそんな事しないし、何かされたとしてもそれは恐怖から私を守ってくれる代償として受け入れるべきだわ。というか私、このまま廊下に放り出されたら怖くて大泣きするわよ。いいから黙ってベッドで横になっていなさい。貴方は動かなくていいから」
「ごめん、ほんと言葉選び何とかしてもらっていい?」
専属の魔導師とやらに盗聴でもされていたら僕の人生が終わるような台詞ばかりを吐いたレティーシアは、どうやら本当に安心して気が抜けたようで、押し問答しつつベッドに潜り込むと僕の枕を抱き込んで間もなく船を漕ぎはじめたよ!
えぇ……?
「あぁ……心が解けて……怖かったことも全部……忘れて……」
「……せめて自分で持ってきた枕使いなよ。はいこれ」
「…………すぅ……すぅ……」
「……」
……寝付きが良くて羨ましいね! お茶の時間を邪魔された文句の一つくらい言っておきたいところだけど、召喚場での彼女の様子を思い返すと確かに尋常じゃなかったし、目元に泣き跡を作りながら部屋に来た女の子を追い出すのは流石に可哀想だからそっとしておく事にするよ! 僕だって困っているクラスメイトに手を差し伸べるくらいの良識はあるからね!
まぁ彼女がこうなった原因はハッピーらしいから仕方のない落とし所なのかな? 根本的に悪いのは喧嘩を売ってきた向こう側だけどね!
僕はレティーシアをベッドの端まで押し転がして、彼女が持ってきた枕を使って隣で横になったよ!
明日は学園でのパートナーを召喚する日だから気合いを入れないとね! 守護獣以外の召喚なんて初めてだから、実は結構ワクワクしてるんだ!
かわいい鳥とか、カッコイイ獣とか、外で一緒に歩ける生き物が出てくるといいなあ!
『
君は人型になっても色々溶けてたり顔が多かったりするから目立つんだよね。
まぁ見ててよ! 今までは畑仕事から料理まで色々とハッピーに頼りきりになっていたけど、明日からは仲間が増えるからさ! 召喚師免許が無くても授業で二体目が召喚できるなんて太っ腹だよね!
かわいい小動物が出てきた時のために、明日は小さな木の実でも買ってから教室に行こうかな! 肩に乗せた召喚獣にご飯をあげるのとか憧れるよね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます