普通のビジュアル
「それでは召喚の儀を行う。一人ずつ中央にある魔法陣の前に立ち、己の力のみで召喚を行うのだ。呼び出した召喚獣は各々が使役する召喚獣として正式に登録され、以後の授業では守護獣ではなくそちらを主に使用していく事になる。つまり、今から行う召喚が卒業時の成績を大きく左右すると言っても過言ではない。全員、現時点の全力を以て取り組むように。また、守護獣との不仲や揉め事は減点の対象となるので調伏や調教は十分行うようにする事。この内容については今後の授業でも取り扱っていく」
やあ、僕の名前はヘレシー!
小さい頃に呼び出した守護獣のおかげで召喚師としての素質を認められた僕は、昨日からあの有名なヴァリエール召喚師学園に入学する事になったんだ!
今日は学園でのパートナーを召喚する日! 召喚から契約、訓練や信頼関係の構築まで召喚師として必要な能力の全てを試されながら長期的に成績を付けられていく訳だね!
周りのクラスメイト達はかなり緊張している様子だけど、正直僕は心配していないよ! 自分の能力に自信があるっていう訳じゃなくて、学園での成績にあまり興味がないからだね!
貴族の間では学園卒業時の最終成績が社交界でのステータスになったりするみたいだけど、僕は卒業したら故郷に帰る訳だし正規の免許さえ貰えれば他に望むものはないよ!
学生らしい恋とか青春とかライバルとの熱い戦いとか、そういうのはどこか僕の見えないところでやってほしいな!
「他の者の見本になるよう、入学試験の成績が上位の者達から召喚を行う事とする。グレード家のせがれは体調不良で休みだったな。では順番通りレティーシア様、お願いできますか」
「ええ、分かったわ」
何故か先生に敬語で呼ばれたレティーシアが召喚場の中央へと歩いていくよ!
話変わるんだけどさ、今朝起きたら布団と枕が無かったんだけど絶対に君が犯人だよね? 召喚前で緊張しているだろうから何も言わなかったけど、寝る時までには返してね!
「……」
レティーシアが離れると途端に一人になっちゃったよ! 手が空いてそうな人に話しかけようと思って近付いても何故か目を逸らしながら距離を取られるんだよね!
どうやら昨日決闘するっていう話になってたジェイド君が今日は休んでいるから、貴族に手を上げたヤバい奴だと思われてるみたい! もらい事故で僕だけ悪者になっちゃったよ! アハハ!
「『世界を創りし万物よ。星を司る森羅万象よ。系統樹を紡ぎし者達よ。我が声を聞き、威光を知れ。そして応えよ』──召喚」
精神集中もそこそこに、早速レティーシアが召喚をはじめたよ! フワッとした内容の堅苦しい口上がカッコイイね! こうして人が召喚している様子を見ていると、これからどんな召喚獣と出会ってどんな物語を作っていくんだろうってワクワクしてくるよ!
中央の魔法陣から光が溢れて、そこに現れたのは四つん這いのシルエット! 大きさは小型の犬くらいかな? 細長くてシュッとしてる感じだね!
「おお……! これは……!」
「なんと美しい……そして凄い魔力量だ……」
「流石はレティーシア様!」
光が収まると、そこには可愛い狐さんが四つん這いで立っていたよ! 山とかに住んでるあの狐さんだね! 毛並みが艷やかで、フサフサの尻尾がチャーミングで、なんだか神聖な力も感じるよ!
いいなぁ! 僕もああいう召喚獣を呼んでみたいなぁ! ハッピーとはまた違った小動物的な愛らしさがあるよね! 彼女はどちらかというと可愛い系だし!
「コンコン」
「あれは……ウルフなのか……?」
「いや、詳しくは分からないが……あれは狐種だ。古い文献で見た事がある。まさか実際に見られるとは……」
「コンコン」
あの召喚獣、どう見ても狐なんだけど知らない人が多いみたいだね! 王都の近くには住んでいないのかな?
故郷の村では度々見かけたよ! 村の近くに生えてる真っ黒な根菜と一緒に煮ると結構いけるんだよね!
でもレティーシアが呼び出したあの狐さん、確かに見た目は狐なんだけど……鳴き声が違わない? 狐ってコンコンとか言わなくない?
「コンコン」
「本当に綺麗……ずっと見ていたくなる……」
「素晴らしい! レティーシア様に相応しい召喚獣だわ!」
「お、俺も召喚頑張るぞ……!」
「コンコン」
クラスのみんなは特に違和感を覚えていないみたいだね! あの狐さんが持っているやたらと神聖な雰囲気に圧倒されちゃってるのかな? それとも中央の狐はあんな鳴き声だったりする? 田舎者の僕には分からないや!
「召喚に応じてくれてありがとう。私はレティーシア・クレセリゼ。どうか私と契約を交わしてもらえないかしら」
「コンコン」
「ええ、私も貴方を召喚した者として恥じない行動を約束するわ」
「コンコン」
「思考や言動に制限はかけないから、何かあれば気軽に言って頂戴」
「コンコン」
「ありがとう。これからよろしくね」
どうやらレティーシアは召喚獣と円滑に契約できたみたいだね! おめでとう!
先生も興奮した様子でノートにメモをとっているよ! 確かに凄い力を持っていそうな狐さんだよね! これはレティーシアの成績も良くなりそう!
そのまましばらく狐さんと話していたレティーシアだったけど、どうやら話が一段落したみたいでこっちに歩いて戻ってきたよ! 注目を集めてるタイミングで近寄って来られると僕まで目立っちゃうからやめてほしいな!
「ヘレシー、紹介するわ。私と契約してくれた魔狐のコン子よ」
「コンコン」
「あぁ……なるほど。そんな名前だからコンコン言ってるんだね」
「……コンコン」
「僕はヘレシー。レティーシアの……なんだろう……隣の席の生徒だよ。よろしくね」
どうやら言葉での意思疎通ができて名前も持ってる召喚獣みたいだね! いかにも格が高そうだけど、そんな相手に認められたレティーシアも人間として格が高いんだろうね! まぁ貴族って元々はそういう基準で選ばれたらしいから当然なんだけど!
クールな雰囲気のレティーシアと、毛並みと立ち振る舞いが美しいコン子さんはお似合いの二人組になりそうだね! 二人の門出を応援するよ! 布団と枕は返してね!
「では次、アレミナ家のレイチェル」
「わかりましたわ」
レティーシアが素晴らしい召喚をした事に良い影響を受けたのか、以降の生徒達もどんどん召喚を成功させていったよ!
グレーターホーク、スノーウルフ、アサシンラビット……何かしら箔のついた召喚獣ばかりが召喚されていくのを見ていると、やっぱりお貴族サマって凄いんだなぁと思うよね!
最後の方は貴族としては位の低い人や庶民の人の番になったけど、それでもみんな良い結果を出していたよ! 召喚場が優秀そうな召喚獣の見本市みたいになっちゃったね!
別のクラスか知らないけど、護衛付きで頭にティアラまで載せた偉そうな女の子が見学しに来たりして召喚場はちょっとしたお祭り騒ぎ! 先生が得意気な顔でティアラの女の子に解説してるのが笑えるね!
「全員素晴らしい結果だった。では召喚の儀を終了……いや、まだいたか。シアワセ村のヘレシー」
「はい」
最後は僕の番だよ! 順番が最後になった理由は簡単! 寒村の出で、そのくせ筆記試験の順位まで最下位だったからだね!
どうやら先生には存在自体を忘れられてたみたいだけど、まぁここまでの展開が劇的だったから気持ちは分からなくもないかな! 期待されていないのは逆に緊張しなくて良い結果が出るかもね!
ちなみに村の名前で呼ばれたのは僕だけだったよ! 家名を持っていないのがクラスで僕一人だけなんて特別感があるよね! アハハ!
「あー……なんだ、他の者達の結果に物怖じせず気楽にやってくれれば良い」
「分かりました」
先生が気を遣ってくれてるよ! 天才集団に紛れ込んだ異物を見るような目で僕を見ているけど、全くその通りだからその観察眼は確かだと言えるね!
僕は召喚する時に魔法陣は使わないんだけど、一応クラスメイト達と距離を取るために中央に移動しておく事にするよ! 大型の召喚獣が出てきたら潰しちゃうからね!
新規の召喚なんてハッピーの時以来だから楽しみだなぁ!
「すみませーん、誰か聞こえますかー」
遠くの誰かに声を伝えるような感覚で呼び掛けるよ!
王都では魔法陣と文言で召喚獣の性質を絞って呼び出す方法が主流らしいけど、僕は適当に声を掛けるこの方法しかできないから仕方ないね!
「学園に行くなら流行りの召喚方法とか勉強したら?」って故郷の知り合いに言われた事もあるけど、いくら勉強したって無理なものは無理だし、これで実際にハッピーとも出会えたんだから悪くないやり方だと思ってるよ! こっちから一方的に呼び出すんじゃなくて、互いに引かれ合うみたいなところが運命的に感じない?
そんな事を考えながら待っていると、なんか床に大きくてボコボコと泡立ったドス黒い沼が現れたよ! 嫌な予感がするね!
『
『
「あっ……」
これはあれだね、ハッピーの知り合いか親族か分からない人達だね! 久しぶり! タイミング悪いから帰ってほしいな!
呼び出しに応えてくれたのはすごく嬉しいんだけど、君達が学園で顕現したらハッピー以上の問題になりそうなんだよね! 人間側の都合でごめんね!
卒業して召喚師の資格を取ったら改めてお願いしたいな! 畑仕事の人手はいくらあっても足りないからね!
『
僕が意思を伝えると、ハッピーの知り合いか親族か分からない人達はスッと引っ込んで帰っていったよ! こっちが急に声を掛けた側なのに、文句も言わず都合を合わせてくれる大人な対応に性格の良さが滲み出てるよね! 今度手土産を持ってご挨拶に行こうかな!
ああいう人達が側にいたからハッピーも優しい子に育ったんだろうね! 彼女にはいつも助けられているよ!
「えっと、じゃあ言い方を変えて……すみませーん、誰か僕を知らないひと、聞こえますかー?」
今みたいに知り合いが来ちゃうと授業の趣旨とズレちゃう気がするから、面識の無い誰かに向けた言葉にしてみたよ! 一応こっちの目的くらいは先に伝えておいた方がいいよね!
「…………お」
誰か来てくれたみたい! 中央の魔法陣を覆うようにして黒い水溜まりが現れたよ!
さっきと似た状況にも見えるけど、水面が泡立ってないし狂気も感じないから大丈夫そうだね! こんにちは!
水面から出てきたのはなんかヌルヌルした黒紫の触手の塊! 僕の胴体以上の太さがある触手が何本も密集して、大きな球体になって蠢いてるよ! ハッピーより一回り大きいくらいのサイズだね!
触手が集まった生き物なのかな? それともこの玉の中に本体がいるのかな? 後者だとしたら随分と先進的な格好だよね! ヌルヌルでスベスベな触手を前面に押し出した、素材の味を活かす良いファッションだと思うよ!
「な……なんなんだよ、あれ……!」
「生き物、なのか……? 気持ち悪い……」
「衛兵に報告した方がいいんじゃ……」
どうやらクラスメイト達も興味津々みたいだ! 遠くの方でみんな賑やかに観覧しているね!
全員の注目を集めた触手の塊はしばらく沈黙を守っていたけど、ざわめきが収まった頃に上部からゆっくりと花咲くように触手を解き始めたよ! まるで演劇の一幕みたいに幻想的な光景だぁ!
「あっ…………えっと……」
控えめな声と共に触手の中から現れたのは、紫の長髪が綺麗な人間の女性……じゃないね。ガッツリ触手が生えてるね。腰から下が触手になってるね。
あの触手は全部自由に動かせるのかな? 家事とか畑仕事の時に便利そう!
そして何より……ビジュアルが普通! 上半身なんてほぼ人間! クラスメイト達が気絶したり発狂したりしてない! これは大きいッ!
もし彼女が契約してくれたなら、僕も他の召喚師みたいに召喚獣と一緒に町を歩いたりできるかも?
「やったー!」
「!?」
あまりの嬉しさに小躍りしながら近付くと、触手の彼女はびくりと肩を跳ねさせて身を引いちゃったよ! ごめんごめん! 驚かせるつもりはなかったんだけどつい感情が溢れちゃった!
彼女の足(?)に触って良いのか分からず触手の周りをウロウロしていると、恐る恐るといった感じで彼女の本体が下りてきてくれたよ!
「僕はヘレシー! 召喚したのは僕だよ! 急に声を掛けちゃってごめんね!」
「あ……はい……」
しかも手を差し出したら握手までしてくれたよ! 便利そうな触手に加えて社交性まで持ち合わせているなんて、外見だけでなく内面まで美人さんだね!
さあ、ここから頑張って交渉して、契約を成功させよう!
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