さあ、あたらしい街だ!

 俺達は第二の町セカンへとやってきた。

 俺とソルの2人で、道中の敵を倒しながら向かってきたんだ。

 ミリアとエリカは、転移できる道具を使って移動するらしい。

 アイテムにあるんだよな。一回行ったことがある街に転移できる道具が。

 それを使ってセカンの街で待ってくれているのだとか。


「ソルさん、セカンの街は楽しみですね。時計塔が大きいんでしたっけ? あ、あれじゃないですか?」


「よく知ってたな。プログの街は全然詳しくなかったのに」


「まあ、何も知らないわけではないです」


 ゲームの時にも時計塔は目立っていたからな。街の外なのに、もう見えている。

 これから街に入っていって、宿に泊まるまでが今日の予定だ。

 ずっと移動していたし、ソルにダンジョンに潜れとは言えないよな。だから、俺もお休みだ。


 まあ、たまにはゆっくりするのもいいだろう。毎日冒険も悪くないが、みんなとの時間も好きだからな。

 俺としては、全力でこの世界を楽しむのが第一だ。そのためにも、魔王はちゃんと倒さないとな。

 世界崩壊の危機というほど急ではないが、いずれは世界を滅ぼす存在なのだから。


「なら、他のところは知っているか?」


「ナダラカ草原とアブナイ平原は知っています。セカンライノが怖いんですよね」


「ああ、よく知っているな。正しいよ。他にはなにかあるか?」


「もう分かりません。特に気にしたことはなかったので」


 武器屋、防具屋、道具屋の品ぞろえなんて言及するほどのことじゃないしな。

 なにか思いつくかと言われたら、もう思いつかない。

 だからこそ、これから知っていく楽しみがあるんだ。しっかりと味わっていこう。


 そのままセカンの街へと入っていき、ミリアたちとの待ち合わせ場所へと向かう。

 すでに二人は待っていたので、慌てて駆け寄っていく。


「すみません、お待たせしてしまいましたね」


「いえ、お気になさらず。クリスさん達には旅疲れもあるでしょう。無理に急ぐ必要はありませんよ」


「それに、私達は大して待っていないです。私の占いがあるですから」


 本当にエリカの占いはすごいな。俺に危険があったら絶対に教えてくれそうだ。

 仲良くしておいて損はない相手だよな。まあ、損得で仲良くしたくはないが。

 せっかく『エイリスワールド』に生まれ変わったのだから、前世のようなことをしたくない。

 それに、エリカ自身もしっかり魅力的な相手だからな。友達として。まあ、相手が友達と考えてくれているかは知らないが。


「なら、安心です。待たせてしまっては心苦しいですから」


「クリスはもっと図々しくなっても良いと思うぞ。遠慮しなくても、アタシ達なら大丈夫だからさ」


「ええ。クリスさんに頼っていただければ、私達も嬉しいです」


「そうです。私は占いしかできないですが、クリスさんの力になりたいです」


「皆さん……」


 本当に嬉しい。最高の気分と言っていいかもしれない。頼っていいって肯定されることが、こんなに幸せだなんてな。

 でも、負担をかけすぎないようにしないと。今が嬉しいからこそ、嫌われたくはない。


「さあ、どこかに出かけますか? 今日くらいは休んで良いと思いますよ」


「なら、時計塔はどうだ? さっき、話に出てきたんだ。ダンジョン以外でクリスが知ってるなんて珍しくてな」


「ここから見ていれば十分です。明日からの冒険もあるので、しっかり休んでおかないと」


「中を見学することもできますよ?」


 なるほど。そんなサービスが。悪くないが、今はいいかな。

 ちゃんとダンジョンの攻略が安定して、その後なら見てもいいけど。

 ソルの安全だってかかっているのだから、まずはダンジョンだ。

 俺の楽しみのために、他の人を危険にさらしていいとは思わないからな。


「いえ、大丈夫です。ある程度ダンジョンを攻略したら、その後でなら」


「そうですか。なら、宿まで案内しますね」


「お願いします。そういえば、ミリアさんも一緒に来たってことは、これからも受付してくれるんですか?」


「はい、そうです。ご迷惑でしたか?」


「いえ、嬉しいです。ミリアさんなら安心ですね」


 心からの言葉だ。ミリアには色々と楽しいことを教えてもらったし、十分に信頼している。

 他の誰かに受付されるより、よっぽど良いだろう。勝手を知っている相手の方が楽だしな。

 初めはキツめな印象だったミリアだけど、今ではとても優しい人だと知っている。

 これからも付き合っていけるのなら、嬉しいだけだよな。


「ありがとうございます。そこまで信じてくださって。信頼に恥じない成果を出してみせます」


「無理はしないでくださいね。ミリアさんに何かあったら、悲しいですから」


「大丈夫です。クリスさんを支えるためにも、ちゃんと休憩は取ります。きちんと仕事をこなすためにね」


 素晴らしいことだ。ミリアの姿勢は本当に信用できる。

 これからもミリアが支えてくれるのなら、きっと楽しい冒険を続けられるだろう。

 さあ、今日は宿に泊まって、明日からまた冒険だ!



――――――



 ミリア達はあらためて、クリスを支える決意をしていた。

 セカンの街へやってきて、時計塔だけは知っていたクリス。

 きっと、誰かから聞いて楽しみにしていたのだろう。あるいは、つらい過去での希望だったのかもしれない。

 それでも、クリスは冒険を優先して時計塔の中へ入ろうとしない。


 ミリア達の誰もが、クリスは戦いに囚われているのだと理解した。

 戦いのために育てられた存在なのだから、ある程度は仕方ないだろう。

 それでも、いずれクリスの心を解放できたら。そう考えていた。


 クリスは彼女たちの心配をよそに、自分よりも他の人を気づかっている。

 ミリアに無理をしないでと告げたように。かつてソルを全力で助けに向かったように。

 間違いなく善性の存在であるクリスを『肉壁三号』として使い潰そうとしている誰かがいた。

 ミリアも、エリカも、ソルも、クリスに不幸を押し付けた誰かを許せそうにない。


 ただ、それ以上に自分たちに対する恨みがあった。

 ソルは実力ではクリスに遠く及ばない。ミリアは結局のところ、待っているだけしかできない。

 エリカの占いは、ほんの少しクリスの未来を見るだけだった。

 結局のところ、誰も本当の意味でクリスの力になれていない。


「ソルさん、エリカさん。クリスさんと出会うであろう仲間には、期待できるのでしょうか」


「分からない。それでも、エリカの占いでは仲間になってくれるんだ。アタシたちでも支えてやるだけさ」


「魔王討伐に必要だということは分かっているです。いえ、本当の意味ではクリスさんだけでいいですが」


 ミリア達は勇者という使命の重さに立ち向かおうとして、それでもまるで敵いそうになくて。

 自分が運命を変わってやれたら良かったのにと、3人ともが強く考えていた。


「ああ、どうしてクリスさんが勇者なのでしょう。運命だというのなら、あんまりじゃないですか」


「アタシだって、クリスより強くはない。だから、分かるんだ。魔王討伐にはクリスの力が必要だって」


「そうです。だけど、クリスさんだけに押し付けはしません。弱っちい私達でも、できることをするです」


 せめてクリスの未来が笑顔であふれているように。3人は、祈りながら決意を固めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る