プログの街とはこれでお別れ!

 ソルと相談して、セカンの街へ向かうことにした。最後にプログの街を楽しんでおきたくて、知り合いみんなで出かけることにする。

 俺とミリア、エリカ、ソルだ。なんだかんだ、みんなにお世話になったよな。

 ミリアには受付としていっぱい力を貸してもらっているし。エリカにはソルを助けるきっかけをもらった。ソルはパーティで冒険を楽しむきっかけになってくれた。

 今となっては、みんな大切な人達だ。出会えて良かった相手ばかりだ。


「ボクはプログの街に詳しくないので、いろいろ教えてください」


 だいたい冒険者組合と宿とダンジョンを行き来していただけだからな。

 知っているのはプログスープとモーレツビーフの串焼きと噴水くらいのものだ。

 プログスープはミリアに教えてもらったし、噴水の歴史はソルに教えてもらった。多少は案内してもらっていたが、あれじゃ足りないだろう。

 この世界で冒険以外のことをするのも楽しいと知れたのも、みんなのおかげなんだ。


「分かりました。なら、公園はどうですか? きれいな花が咲いていて、見ものですよ」


「ああ、いいな。イミナ公園だろ? 有名な観光地なんだよ」


 そんなところがあるのか。『セブンクエスト』では街は細かく描写されていないからな。

 公園があった可能性はあるが、特別な施設はなかったはずだ。噴水はど真ん中で印象的だったんだけど。

 しっかり世界観を知る上で、やっぱり観光は大事だな。ゲームで注目していなかったところが見える。

 そもそも、原作で描写されていなかった部分の可能性だってあるが。


「クリスさんは冒険で忙しかったですし、ちょうどいい休みになるです」


「なるほど。休憩ですか。そこまで必要ないかと思いますけど」


「ダメですよ、クリスさん。いい冒険者というのは、しっかりと休息を取るものです。受付嬢としての経験でわかるんです」


 まあ、現実世界でも同じか。過労で倒れるほど働く人間は失敗する。

 それを考えれば、確かに休みは大事だよな。とはいえ、無茶をするつもりはないのだが。

 俺が死ぬだけなら最悪構わないが、ソルともパーティを組んでいるんだから。

 周りの人間を巻き込んで死ぬなんて、害悪というほかない。


「分かりました。ボクには仲間もいるんですからね。無茶はしません」


「1人でだって無理はするんじゃないぞ、クリス。お前が死ねば、みんな悲しむんだからな」


「死にはしませんよ。だから、心配しなくても大丈夫です。ボク、とても強いので」


「クリスさんに死相は出ていないですから、今のところは心配しなくていいです」


 エリカは本当に万能っぽい占い師の風格が出ている。

 どう考えても小さい子って感じなのに、大人顔負けの雰囲気すらある。

 いいな。まさに創作の占い師って感じで、とても素晴らしい。

 夢見ていたゲームの世界に生きているのだと実感できるんだ。


「イミナ公園に早くいきましょうよ。どんな花が咲いているか、見たいです」


「そうですね。しっかり楽しんでください。そうだ。お弁当を作ってきたんですよ。公園で食べませんか?」


 ミリアの料理か。楽しみだな。舌はしっかりしているし、ちゃんとしたものが出てくるだろう。

 できるOLといったイメージのミリアだけど、料理もできるんだな。本当にすごい。

 俺は料理は全然だからな。レンジでどうにかなるものしか作れなかった。

 この世界に電子レンジは無いから、まったくできないのと同じ事だ。


「ありがとうございます。期待させてもらいますね」


「そこまで大したものではありませんが。ただ、クリスさんにも喜んでいただけるように頑張りました」


「アタシは焼くくらいしかできないんだよな。ミリアが羨ましいよ」


「私も料理は苦手なのです。どうしてもめんどくさくなるです」


 気持ちはめちゃくちゃ分かる。作っている時はまだいいが、洗い物とかやってられないんだよな。

 この世界では、宿代さえ用意できれば全部やってくれるのでありがたい。

 俺は最強だから、冒険者を続ける限りは金に困らないだろうからな。


「ボクも料理は苦手なので、ありがたいです。誰かの手料理、憧れますね」


「だったら、いくらでも用意しますよ。クリスさんが望む限りは」


「本当ですか? 嬉しいです。ミリアさんの料理なら、きっと美味しいですよね」


「期待されすぎると、がっかりさせそうで怖いですが。ですが、腕によりをかけたのは事実です」


「黒焦げとか生焼けじゃない限り、喜んで食べますよ」


「なら、絶対に大丈夫ですね。できれば美味しいと思ってほしいですが」


「私達の分もあるですか? 別々で食べろと言われたら困るです」


「ああ、確かに。せっかくなんだから、離れるのは嫌だぞ、アタシは」


 そうだよな。みんなで出かけて、別々に食事をするのは困る。

 この4人で一緒なんだから、みんなでの空間を楽しみたいぞ。


「大丈夫です。準備していますよ」


「なら、公園に行きましょうか」


 みんなに案内をされてイミナ公園に向かったのだが、気になるものが多すぎていろいろと質問してしまった。


「あの建物は何ですか?」


「あの店で売っているものは何ですか?」


 などなど。全部に説明を返してくれて、ミリアには足を向けて寝られない。

 俺が世間知らずだということ、完全にバレてしまったかもしれないな。まあいいか。


 それよりも、公園の景色は本当にキレイだった。

 季節にしか咲かない花が同時に咲いているような光景で、まさに幻想と言った感じ。

 ゲームの世界にいるのだと、あらためて強く信じられた。


「キレイですね……こんな光景、初めてみました。感動です」


「ふふっ、良かったですね、クリスさん。あなたが望むのならば、何度でも来ましょうね」


「クリスさんは次の街へ行くですよ。簡単には帰ってこないはずです」


「ミリア達もついてくるんだろ? また機会を作ればいいさ」


 いいな。またみんなで集まるのなら、きっと同じように楽しいだろう。

 俺は周りの人に恵まれているよな。大切にされているとよく分かるから。

 この世界に来て良かったことは冒険だけじゃない。ミリア達と出会えたこともだ。


「いいですね。あ、ベンチがありますね。座りましょう。お日様がポカポカしていて気持ちいいです」


「クリスさんにも、この公園の良さが分かっていただけたようですね」


「お弁当を食べるです。これくらい暖かいと、ちょうどいいです」


「だな。ミリアの弁当はどんなものやら」


「では、渡していきますね」


 ミリアの弁当は、肉と魚、野菜をそれぞれ別々に味付けして詰め込んだ感じだ。

 見た目だけなら、前世の料理のほうが美味しそうではある。だが、プログスープも見た目は良くなかった。

 だから、そこまで心配しなくていいだろう。ミリアが人にまずい料理を出すわけがない。


「あっ、美味しいです。これなら、何度でも食べたいです」


 食べてみたが、本当に美味しかった。肉や魚、野菜の素材の味は生きているのに味が薄い感じもしない。

 箸が全然止まらなくて、あっという間に食べてしまった。はしたないとは思うが、仕方ないよな。


「喜んでくださったようで、何よりです。また、用意しますね」


「悔しいですが、美味しいです。料理を覚えてもいいかもです」


「アタシじゃこの味は出せないな。流石は看板受付嬢」


 看板受付嬢であることと関係あるのか? まあいい。本当に美味しかったから、次が楽しみだ。


 それからも色々な場所を見て回り、しっかりとプログの街を楽しんだ。

 これでプログの街でやることは終わりだ。次はセカンの街! 待っていろ!



――――――



 ミリア達は、あらためてクリスの世間知らずぶりに心を痛めていた。

 戦闘には詳しい様子なのに、プログの街のどこを見ても珍しそうな顔をするのだ。

 分かりきってはいた事だが、クリスの過去がどれほどつらいものだったのか、思い知らされるようで。

 戦いの道ばかりに生きてきたのだろう。当たり前の喜びを知ることもなく。


 そんなクリスを支えるために、セカンの街にもついていくことを決めたミリア達。

 次の街でもきっと、クリスは戦い続けるだろう。だからせめて、少しでも支えられるように。

 ミリア達はあらためて決意を固めていた。


「戦いばかりのクリスさんの人生に、少しでも彩りをもたせましょうね、みなさん」


「はいです。もっと楽しいことを知ってもらいたいです」


「そして、アタシは戦闘で少しでも楽をさせてやらないとな」


 それぞれがそれぞれの力でクリスを支える。その先に、きっとクリスの幸せがあるのだと、皆が信じていた。

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