縛りプレイだって立派な楽しみ!

「なあ、今日は一緒にソノ二の洞窟へ行ってくれないか?」


 ソルに誘われたので、今日も冒険だ。彼女がやる気なのはめずらしいな。

 そういえば、チカバの洞窟もソノ二の洞窟もあんまり視界は悪くない。

 洞窟と言えば真っ暗なイメージだが。ゲームの世界だから、ちゃんと見えるようになっているのだろうか。

 チュートリアルダンジョンで視界が悪いとか冗談じゃないからな。そんなゲームがあったらコントローラーを投げてしまうかもしれない。


「いいですよ。何かありましたか?」


「今回はアタシの力がどこまで通じるのか試してみたくてな。最低限のサポートに抑えてくれないか?」


 なるほど。まあ、気持ちは分かる。自分がどの程度強いか確かめたいのは、当たり前だよな。

 命がかかっているという事もあるし、自信を持つためにも大事だ。うん。手伝ってあげよう。

 とはいえ、最低限のサポートとはどのくらいだろう。俺があれこれ手出しするのは論外だが。


「分かりました。何をすればいいですか?」


「スキルを使わないでほしいんだ。できれば、アタシの盾になることもやめてほしい」


 うんうん。実力を確かめたいのなら、納得の言葉だ。

 俺としては構わない。本気で危なくなっても、ソノ二の洞窟くらいならすぐに助けられるからな。

 ギリギリまで様子を見るつもりでいいかもしれない。ただ、集中は切らさないように。

 万が一ソルが危険な時には、すぐに全力を出すつもりだからな。しっかりしないと。


 それにしても、勝ち気っぽいソルの見た目にぴったりな言葉だな。

 赤髪赤目が映えているし、高身長で腹筋が割れてておっぱいが大きい、いかにもな女戦士のソルに似合う感じ。

 今日は、カッコいいところがいっぱい見られたらいいな。やっぱり、自分以外の冒険を見るのも楽しそうだし。


「それなら、本当に最低限ですね。軽く敵を引き付ける程度にしておきます」


「ああ、それで頼む。本気のアタシを見せてやるよ」


 ウインクまでされて、ちょっとドキッとした。

 やっぱり、自信がある時のソルは姉御って感じがするよな。引っ張られたくなるというか。

 俺の前で失敗して沈んでいた時もあったけど、今のソルのほうが圧倒的に好きだ。

 良かったな。ソルが元気になってくれて。パーティを組んでくれて。おかげで楽しい。


 それに、味方をそれとなく助けるのも縛りプレイっぽくて良いよな。

 俺も『セブンクエスト』では様々な縛りで楽しんだ。強スキル禁止は当たり前。

 いま現実になったこの世界でも、ぞんぶんに楽しませてもらおう。


「期待していますね。ボクは軽くサポートさせてもらいます」


 基本的には敵の誘導でいいだろうな。ソルは1対1ならまず負けない程度の実力はある。

 冷静さを失った時は恐ろしいとはいえ、ハイゴブリン相手だろうが、1人で十分勝てるだろう。

 だから、俺がするべきサポートは、ソルを囲ませないことだ。そうするだけで、十分に活躍してくれるはず。

 いいな、こういうの。誰かを助けるというのも、気分がいい。


 この世界に転生したばかりのころは、1人で生きるつもりだった。だけど、ソルとパーティを組んだことで、明らかに1人より楽しく過ごせている。

 本当に、防御力を確認していた俺を助けてくれたソルには感謝だな。あの出会いのおかげで、今が幸せなんだ。


「ありがとう。じゃあ、行くか」


「はい。がんばってください」


 ソルはまずゴブリンと戦っていく。スラッシュを当てて、敵の剣を回避して、もういちどスラッシュを当てる。

 何度か同じ動きを繰り返し、ゴブリンは倒れていった。

 やっぱりソルの動きはきれいだよな。ちゃんと敵の動きに合わせている感じがある。

 俺は基本的にゴリ押しをしているから、しっかり勉強になるんだよな。


「まずは一体だ。次に行くぞ」


「はい。そうだ、MPポーションは足りそうですか?」


「ああ、問題ない。余裕を持った数を用意しているよ」


 なら、本格的に簡単なサポートで十分そうだな。スキルを十分に使えるのなら、ソルは強い。

 俺が初めて見た失敗も、MP管理の失敗だったからな。今思えば、男を前にして浮かれていたのだろうか。

 『肉壁三号』の顔は美形に作ったし、あべこべ世界であるここでは魅力的に決まっている。


 そう思えば、ソルの失敗が可愛らしく思えてきたな。勝ち気な姉御肌のソルが、男に惑わされてやらかす。純情な人みたいで、魅力が増してるかもしれない。

 ギャップと言えばいいのかな。強気な割に弱っているところも見せてくれたし、いろんな一面がある。

 やっぱりこの世界の住人には確かな生がある。ゲームの世界だからといって、雑に扱わなくて良かった。


「なら、安心ですね。しっかりハイゴブリンにも勝ってください」


「ああ、当たり前だ。とはいえ、まずはザコを片付けないとな」


 そうだな。ボスだけ見ていたらザコにやられるなんて、どんなゲームでも定番だ。

 しっかりとソルを支えて、できる人なんだって自信を持ってもらおう。

 そうすれば、これからもっとカッコいいところを見られるだろうからな。


「じゃあ、次に行きましょうか。ボクもサポートしますね」


「分かった。行くか」


 そして次の敵、また次の敵と倒していく。

 俺はソルが囲まれないように、軽く近づいていって敵を誘導する。

 索敵範囲に入ってしまえば、こちらに向かってくるからな。ソルの邪魔にならないところで、適当に時間を稼いで、最後にソルに誘導する。

 そうすれば、簡単に倒してくれるという寸法だ。なかなかに楽しかった。


「これでザコは一通り倒せましたね。後はハイゴブリンだけです」


「ああ。ありがとな。敵を引き付けてくれて」


「あれくらいなら簡単ですから、気にしないでください」


「分かった。じゃあ、ボスを倒してくるよ」


 ソルはハイゴブリンのもとへと向かう。前回はバフありでの戦いだったが、今回はない。

 でも、十分に勝てる相手のはずだ。基本的には、相手の動きは頭に入っているはずだからな。


 俺の考えた通り、ソルは敵の攻撃をほとんど受けずに攻撃を仕掛けていく。

 前回と比べて火力が低いから、長期戦になってはいる。それでも、しっかりとダメージを抑えて、ちゃんと攻撃を当てている。

 やはり、ソルは戦闘に慣れている。俺よりも技術は明確に優れているな。


「スキだらけだぞ、ハイスラッシュ!」


 ハイゴブリンの攻撃を避けた後、だいたいソルはハイスラッシュで返していく。

 DPSは高い技だからな。長期戦の構えではあるが、だからこそ時間を節約したいのだろう。

 幸い、MP管理はうまくいっているようで、敵のダメージを考えれば十分にMPは残りそうだ。


 そのまましばらくソルの戦いを見ていると、大きく苦戦することもなくハイゴブリンを倒してしまった。


「さすがです、ソルさん。カッコよかったですよ」


「それなら良かった。これからも、頼りにしてくれていいからな」


「はい、もちろん。末永く、よろしくお願いしますね」


「ああ。じゃあ、帰るか」


 そして俺達はプログの街へと帰っていった。やっぱり、誰かと協力するのは楽しいな。これからも、ソルとは仲良くさせてもらおう。



――――――



 ソルはクリスの自己犠牲を抑えるために、あれこれと考えていた。

 彼はスキルを使うたびに、だんだんと傷ついていく。だから、スキルを使う必要のない状況にできれば。

 そのために、ソルは自分が頼りになるのだと示したかった。助けられるだけの存在ではないのだと。

 だからこそ、クリスに最低限のサポートを頼んだのだ。


 そして、ソルの思惑通りに順調にソノ二の洞窟を攻略できた。

 だから、これからはクリスの苦しみを減らせるはずだ。ソルは明るい未来を思い描いていた。


「セカンの街へ行けば、新しい仲間も見つかるんだよな。そうして、クリスの負担を減らして見せる。いつか、本当の笑顔を見せてもらうんだからな」

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