終わった物語とこれから始まるストーリー

「しーちゃん……?」


 奏は顔を引きつらせ、こちらを真っ直ぐな瞳で見ていた。


「思い……出してたんだ」


「本当最近。ふと思い出したんだ」


 西浜でぼんやりと過ごしていた朝、奏は示し合わせていないのに関わらず現れた。

 藤沢から逃避した奏がなぜ西浜に居るのではないかと俺が思ったのか。


 そもそも奏は初対面のはずの校舎裏で、なぜ俺に久しぶりと言ったのか。


 奏が逃避した西浜で、俺のことを『初めて見た』ではなく、なぜ『久しぶりに見た』と言ったのか。


 よくよく推理をしていけばわかったはずなのに。


「ていうかさ、大和さんは気がついてたんだろ。俺が小さい頃にこの街に遊びに来て、できた友達の『しーちゃん』が奏だったんだって」


「うん。気がついていたよ。薄情者の翔君とは違ってね」


「なんだよそれ。それじゃあ俺が悪者みたいじゃん」


「そうだよ。悪者だよ」


 奏はニッと太陽のような笑顔を浮かべたあと、アッカンベーをしてみせた。


「せめてあの頃みたいにかーくんって呼んでくれれば気がついたかもしれないのに」


「それは無理。だって私達もう、高校生だよ。そんな子供っぽい呼び方できないよ!」


「それもそうか。……だったらこれからはさお互いの事、下の名前で呼び合うってのはどう?」


「別に、私はずっと翔君って呼んでるけど」


「たしかにそうだったな」


 俺は右手を差し出して、できるだけ紳士的に頭を下げて言った。


「汐音。こんな俺だけどこれからも仲良くしてくれるか?」


 汐音はため息をついたあと、俺の右手を掴み言った。


「それ、告白のつもり?告白ならもっとちゃんとしっかりしてよね。……オーケーするんだからさ」


 頭上では、大きく旋回するトンビの群れが俺達を祝福するように大きな嘶きを上げていた。

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奏汐音は要求が多い さいだー @tomoya1987

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