佐渡晃は求めこう6

「どんな男が来ると思う?俺でも勝ち目のある男だと良いんだけどよー」


「お前に勝ち目のある男なんているのか?」


 あまり誉められた話ではないが、立花と俺はリョコにゃんの動向を追っている。

 南口の歩道橋、中央通路の植え込みの影から見守る形で。

 端からみれば、ただのストーキング行為にしか見えないだろう。

 実際通りすぎていく人々からは軽蔑の眼差まなざしを向けられている。

 ……頼むから通報はしないでくれ……


 観察対象のリョコにゃんはと言えば、植え込みを挟んで一つ向こうの通路、OPA前でそわそわと落ち着かない様子で、周囲の様子をうかがっているようだ。


「ななちゃんを待たせるなんてけしからん男だよな!!俺だったら一分……いや一秒も待たせないのに、あれ!?おい!!翔!!あれって……」


 立花が指を指すその先に目を向ける。

 見知った人物二人が楽しげに会話をしながら歩いていた。


 二人と言うのは佐渡晃と奏汐音であるのだけど、どうしてだろうか?

 二人が楽しそうに歩いている。話している。

 ただそれだけの事なのに、胸が詰まるような、なにかにつままれるような、昔どこかで味わった事があるような鈍痛があった。


 あの時と同じ……


「今、奏ちゃんこっち見てなかったか?」


「えっ?」


 一瞬、奏から目を切って頭を下げていた。

 立花に言われ再び奏に視線を向けると、間違いなく目が合った。


 奏は俺達の存在に気がついている。

 この状況、もしかしなくても自分のデートの覗き見をされている。そう思っているに違いない。


 ほら言わんこっちゃない。しばらく奏と視線を交わしているとあっかんべーをされた。

 そしてすぐに舌をしまい佐渡晃の方に向き直るとまた笑顔。


「翔、本当に良かったのか?」


「何がだよ」


「ふーん。そうやってとぼけて後で後悔しても知らんからなー。さーてと、そんな事よりななちゃんの方はどうなったかなー。まだ来てないみたいだ」


「……」


 俺は引き続き奏の姿を追っていた。立花はリョコにゃんを。

 それなのに、しばらくすると俺と立花の視線は一点に集約された。


 佐渡晃は手を上げてリョコにゃんに呼び掛けたように見えた。リョコにゃんも、佐渡晃に気が付いて駆け寄ると笑顔を向けた。


 そして横にいる奏に気がついたのだろう、怪訝けげんな視線を向けた後、驚いたような表情をしたのだ。


「翔?これはどういう事だ?待ち合わせの相手って佐渡先輩なのか!?」


「わからない。俺は詳しい話を何も聞いていない」


 遠めから見ている感じ、佐渡晃は奏をリョコにゃんに紹介しているような感じなのだけど、その二人は顔見知りだ。



 佐渡晃の紹介が終わったのか、リョコにゃんは一歩前に踏み出すと、奏に何かを問い詰めている。こちらからはそう見えた。


 奏は何も答えられずただ俯いているようだった。そしてリョコにゃんの矛先が佐渡晃に変わる。

 佐渡晃はいつもと変わらない様子で爽やかな笑顔を浮かべている。

 そしてリョコにゃんに向かって何かを言ったのだ。


 その言葉を聞いた次の瞬間、リョコにゃんは佐渡晃に背を向けると走り出した。

 なのに佐渡晃は爽やかな笑顔で笑っていた。


 突然、奏が佐渡晃の肩に手を置くと迷う素振りも見せずに笑顔に向かって頬を張ったのだ。

 そしてすぐに奏も走り出した。


「翔どうする?!」


 リョコにゃんと奏は、同じ方角に走り去った。


「二人を追ってくれ。リョコにゃん優先で」


「わかった」


 立花はすぐに駆け出した。

 立花を見送った後、俺は佐渡晃の元へと向かった。


「やあ杉浦君。もしかして見られていたのかな?あまり、良い趣味ではないね」


 最初から俺達の存在に気が付いていたかのように、佐渡晃は驚く素振りも見せずに言った。


「全部見てました。どういう事か、説明して貰ってもいいですか?」


 佐渡晃の左頬には奏に張られた赤い後がくっきりと残っている。

 それなのに佐渡晃の顔には薄い笑顔が浮かんでいた。

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