25:異変の事情①。

 月日が経って約2週間後。

 第3回目となる【三者三葉達の夜更かし話】の放送と、学校行事の体育祭を無事に終えた頃――。


「おや? どうかしなすったので?」


 今日の配信を終え、第4回目となる【三者三葉達の夜更かし話】の編集をしていた千寿。

 小休憩がてらお供の飲み物と軽食を取りにリビングへ赴くとそこには座って何か考え事をしている様子の琥珀がいた。それも珍しく傍らには2本の空き缶とマグカップが置かれている状態。


 2人が出会って今日まで約2ヵ月とそこら。まだまだ互いに分からない所は有れど、それでも彼女が缶の中身をわざわざマグカップに移して飲んでいたのはそれなりの悩みや考え事をしている最中なのだと千寿は知っていた。

 


「――満穂の件でちょっとな」

「?」


 重々しく口を開いた満穂に対し、首を傾げる千寿。台所の冷蔵庫から飲み物だけを取って自分の定位置の席に座り話を聞く。


「千から見て今の満穂はどう見える?」

「どう? ……変わらず? いや寧ろ動画投稿する度に昂ってる?」

「そう、か。お前にはそう見えるのか」

「?」


 【三者三葉達の夜更かし話】もそうだが、満穂が手掛けるTRPGの再生数が上がっている。それにこう追うして知名度も。

 配信業の性質上、最初だけ見て切られる場合が多々ある。今回のTRPG動画も例外じゃない。実際1回目と2回目では再生数の差が大きい。

 が、しかしながら満穂自身の編集技術の向上と、夜更かし話で行われる動画制作の秘話やショート動画といった地道な努力のお陰で投稿1日目にして2万再生は固く、また投稿する度に下位であってもネットのトレンドに載るまでに至っていた。


(ふむ。投稿する度に自分達に感想を求めたり、有名なライバーや配信者が自分達の事を言及したらその事を大興奮で共有したりと寧ろ最初の頃よりも騒がしい。――……強いて変わった点を言うならメイク化粧かな? 目元だけだったのが今では顔全体にしてるっぽい。ナチュラルメイクで分かり難いけども。でもメイクは榎本さんが自分達に会いに来た時からのだし、例えそれが多少濃く広くなったとしても心配する程の事でもないはず)


 と、満穂自身ネットでの評価や自分達に関わるアクションに一喜一憂する毎日。プラスの意見や評価で大喜びし、マイナスの評価を受ければ落ち込む。でも落ち込んだら琥珀に甘える口実が出来る為に±0。琥珀も千寿の編集作業を間近で見ていた為に編集の大変さをそれなりに知った事で素直に甘えさせていた。


「きつそう?」

「――さぁ? オレにはそう見えるが実際の所はどうだかな。きついきつくないの匙加減……こればっかりは本人次第だ。ただ悩んではいる。それだけは分かる。前に小学校時代の満穂のダチ云々の話したろ? そん時と同じツラし始めてる」

「あらまぁ」


 それはちょっと不味いのではなかろうか? と千寿は少々困った表情を浮かべる。


(確かに編集は大変だ。1人なら尚更。それの弊害として寝不足による小綺麗さ、清楚さが若干失われてもいる。――けども本人、結構充実してる風にも見て取れる。命を燃やしてると言うか何と言うか……目標に向かって猪突猛進してる感じ? がする。いやでも――)


 と、色々と考えてしまう千寿。考えすぎ、堂々巡りが止まず返って思考がグチャグチャなりつつある中で琥珀が言う。


「ま。過度に心配しちまってそう見えてるだけかも知れねぇがな。昔はどうあれ、今はアイツの事はダチだと思ってるし。それも久方振りのな」

「! じゃあまぁ、とりあえずは大丈夫そうですねっと」

「あん?」


 今の言葉を聞いた事で不安や危機感が払拭されて安堵する千寿。そんな千寿に対し”どういった意味合いでの大丈夫なんだ?” と、琥珀は軽く相槌と目で訴えるものの千寿は安堵したまま「だって――」と言葉で返した。


「意志はどうあれ感情で人をよく見ようとする人が近くにいる。良い意味でも悪い意味でも変化を見逃さず、こうして楽観視もしない。だからまぁ大丈夫じゃないかな~と」

「いや言う程大丈夫じゃねぇだろ。流石に過信し過ぎだろうが。てかお前も気にしろ。なに丸投げしてんだよ。同じユニット三者三葉な上に満穂とは同期だろうが」

「ん~無理」

「! お、おぉ……んだ? 珍しくハッキリと拒絶したな。いつもだったらもっとこう無駄にくっちゃべってはぐらかそうとすんのに」

「んはは。はぐらかしちゃいけない事情ははぐらかしませんよて。なんたって自分、人を疑うより信じる方なんで。例え死ぬ程キツそうでも本人が大丈夫って言うならそのまま信じちゃうタイプの節穴なんでね。――! あーでも別に丸投げしようってわけじゃないですよ本当に! 何かあれば全身全霊で動きますんで!!」

「そか。ならいい」


 オレに丸投げしようってか? と、不満気に拳を握られて戦慄する千寿。最後の言葉を聞いて薄っすらと笑みを浮かべる琥珀に対し、失言だったと苦笑いを浮かべた。


「――ちなみに瑠璃山さんや。さっきのダチ云々の話は榎本さん本人に言ってあげたので?」

「あん? 言う訳ないだろ。普通に恥ずいわ」

「あらま……言ってあげてどうですかっと。感極まって泣いて喜びますよと」

「それを聞いたら尚更言えんはおんばかが」

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個人Vtuber、家出中のヤンキー女子を拾ったついでにvデビューさせてみた。 白黒猫 @Na0705081112

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