24:束の間の事情⑤。

「千。進捗はどうだ?」


 2日後。水曜日の夜遅く。

 千寿が第2回となる【三者三葉達の夜更かし話】の編集中に配信部屋のドアをノック。振り返った先には缶飲料を持った琥珀がいた。


「ありがとう。順調ですよて」

「ん、そうか。そりゃ良かった。また冗談でも『進展駄目です!』てぇ言われた日にゃどうしたもんかと。どうしてやろうかと」


 慣れない編集作業に疲労感を纏わせながら琥珀から差し出された缶を受け取り、過去の茶目っ気に苦笑いを浮かべては軽く上半身を退かして編集中の画面を見せる。


「おー相変わらず画面がすげぇ事になってんな。――やべ。見てたらまた目と頭が痛くなってきた」

「んはは」


 画面を覗き込んだ琥珀がしかめっ面を浮かべる。

 改めてだが、【三者三葉達の夜更かし話】の制作は千寿と琥珀の2人体制。具体的な役割分担は千寿が監修と編集で、琥珀が相談役兼制作におけるとなっている。

 ゴール役。創作物を手掛ける創り手制作者において”もっとクオリティを上げられるのではないか?”や、”これは本当に良い作品なのか?”という切っても切れない悩みの種を取り除く為のもの。

 過去の動画制作の苦い経験から千寿はその役を琥珀にやらせていた。良くも悪くもvtuber歴が浅くまだまだ向こう側消費者側の目線である為に。


「オレが見んのはいつ頃だ?」

「ん~この進み具合なら明日にでも。今夜中に一旦形にしますよて」

「そか。なんだったら出来るまで起きててやろうか?」

「いや。出来たらちょっと寝かせたいかな。時間を空けてから見ると修正点とかが見えてくるのでね」

「へぇ、そうなのか。わかった。じゃあオレは先に寝る」

「ん。おやすみなさい」

「あぁ。千、お前無理すんなよ」

「ん」


 労いの言葉を言い、琥珀は踵を返す。


「――ん?」


(も?)


 最後の台詞の一部が気になった千寿。しかし疲労の為かすぐに薄れて気にならなくなり、千寿は目の前の作業に戻った。

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