第6話 追放されたのは、くさいからでした 起+承

「カイル、お前はこのパーティーから追放する。

 明日からは、もう来なくていい」


 ダンジョン攻略の帰り道。

 俺は唐突に、そう告げられた。


「待ってください!

 俺、何か至らない点がありましたか!?

 あったならすぐ直します!お願いです!

 このパーティーに置いてください!」


「ダメだ。

 お前を除く全員が、この追放に賛成なんだ。

 お前をここに置いておくことはできん」


 懇願する俺に対して、リーダーは無情にも首を振る。


「なぜですか!?

 俺なりに、今回のダンジョンアタックは頑張ったつもりです!

 しっかりと皆さんの補助ができたという自覚があります!」


「ああ、たしかにお前の補助は有効だった。

 ダンジョン攻略に貢献したといえるだろう」


「じゃあ、なぜですか!?」


 まっすぐに、リーダーを見つめて言う。

 リーダーは俺の視線にたじろいだ。

 頭を掻き、ばつが悪そうに眼を泳がせる。


「なぜ、俺が追放されなければならないんですか!

 答えてください!」


 さらにボリュームを上げて、リーダーを問い詰める。

 俺だって必死なんだ。

 生活と、そして何より俺の夢がかかっているんだ。


 何かを逡巡するリーダー。

 しかし――。


「……ええい、とにかくこれは決定だ!

 お前はもう、来なくていい!

 追放だ!」


 それだけ言うと。

 リーダーは背を向け、足早に去っていってしまった。

 もう話すことはないと、その背中が語っていた。


「まじかよ……」


 俺はその場で、茫然と立ち尽くす。


 ぴーひょろろ、と。

 どこからか、鳥の鳴き声が聞こえた。




 ―――――




「またですか……」


 落ち着いてから冒険者ギルドに報告に行くと、なじみの受付嬢にため息を吐かれた。


「俺だって、好きでこんなことになってるんじゃない」


 その様子に腹が立って言い返す。


「そうですよねぇ。わかります」


 それをいなすようにウンウンと頷いた後。


「……でも不思議な話ですね。

 パーティーに採用はされて、ダンジョンも問題なく攻略してるのに。

 そのダンジョンから出ると、必ずパーティーをクビにされるなんて。

 これで何回目でしたっけ?」


 受付嬢は、笑いを噛み殺すような口調で聞いてきた。


「5回目だ。

 くそっ。他人事だと思いやがって」


「すみません。

 私、笑い上戸なんです」


「……そう言えばなんでも許されると思うなよ。

 もういい。

 とにかくそういうことだから。 

 これ、パーティー募集の用紙。

 掲示板に貼っといてくれ」


「はい、承りました」


 用紙を渡し、カウンターを離れる。


 ……そう、俺が追放されるのは、これが初めてじゃない。

 なんと今回で5回目なのだ。


「はぁ……」


 一体何が悪いというのか。

 ダンジョンについては、問題なく攻略できている。

 しかしダンジョンを出ると、いつも一方的にクビを宣告されてしまうのだ。

 理由を問い詰めても、なぜか皆目をそらして、口をつぐむ。

 なんだっていうんだ。


 戦闘中に、味方を危険にさらすようなミスは絶対にしていないと言い切れる。

 さらに追放3回目くらいからは、メンバーの名前や好きなものを覚えて世間話に花を咲かせたり、率先して雑用をこなしたりと、戦闘以外での努力も惜しまなかった。

 ……なのに、結果はいつも同じだ。


「くそっ、こんなはずじゃなかったのに……。

 こんなんじゃあ、S級なんて夢のまた夢だ」


 唇を噛んで、天を仰ぐ。


 俺の目標は、S級の冒険者になること。

 冒険者はE級からS級までランク分けされていて、C級以上になればダンジョンに挑むことができる。

 ダンジョンにもC級からS級までランク分けがあり、挑めるのは同ランクのダンジョンまでだ。

 冒険者の世界で上り詰めて、前人未到のS級ダンジョンを踏破するのが、子供の頃からの夢だった。


 15歳で村を出て、この街に住み。

 地道に採集などのクエストをこなしてC級冒険者になって。

 知り合った仲間達と、ダンジョンの攻略を行っていた。


 しかし、そいつらはあまり上昇志向のない連中だった。

 悪い奴らではなかったんだが、全然努力をしなかった。


 しばらくすると、俺だけがB級になった。

 そして、少しだけいざこざがあった。

 俺は上を目指したいと告げて、そのパーティーを離れた。

 最後には、パーティーの奴らは応援してくれた。


 ――そんな紆余曲折を経て。

 Bランクのダンジョンに潜り始めたのが最近だ。

 日帰りが主のC級ダンジョンと違って、B級ダンジョンは一週間ほど滞在することもある。

 そのぶん貴重な素材やアイテムが手に入る。

 C級ダンジョンはお使いのようなもの。

 冒険者の始まりは、B級ダンジョンからだと言われている。


 俺のサクセスストーリーが、ここから始まる。

 そんな気持ちで、意気揚々と仲間を募集した。


 俺は、頑張って鍛えただけあって、かなり有能だと自負している。

 スキルは補助魔法。

 正直この分野で、俺より能力が高い奴に会ったことがない。

 ギルドの受付嬢には、S級でも通用するんじゃないですか、なんて言われたくらいだ。


 そんな俺だから、求人は引く手あまた。

 優秀なパーティーに、簡単に加入できた。


 ダンジョンの攻略も問題なかった。

 ダンジョンでの寝泊まりが長く続き、それが少しストレスではあったが、それだけだ。

 俺は十分に、役目を果たすことができた。

 ……しかし。

 ダンジョンを出たら、追放されたのだ。


 それからは、同じことの繰り返しだ。


 パーティーを募集する。

 パーティーに加入する。

 ダンジョンに潜る。

 追放される。


 ひたすら、このサイクルを繰り返していた。


 とはいえ、希望がなかったわけではない。

 一組だけ、2度ダンジョンに潜れたパーティーがあった。


 【白銀の翼】という、今はA級に昇格したパーティーだ。

 そのパーティーだけは、初回の攻略で追放されなかったから、定着したと思っていた。

 俺は有頂天で2度目のダンジョン攻略に臨んだが、結局その後に追放された。


 ……いったいどうしたらいいんだよ。

 せめて追放するなら、理由くらい教えてくれよ。

 原因が分からなきゃ、改善のしようもないじゃないか。


 いっそのこと、ソロでダンジョンに潜りたい。

 しかし、俺は直接の戦闘には向いてないから無理なのだ。

 S級冒険者になってS級ダンジョンを攻略するという夢のためには、パーティーを募るしかない。


「はぁ……」


 思わず2度目のため息がでた。

 とりあえず今まで通り、どこかのパーティーからお呼びがかかるのを待つしかない。

 たとえ追放されたとしても。

 もしかしたら次は、その理由を教えてくれるかもしれない。




 追放された翌日。

 俺は鍛錬に励んでいた。

 暇な時のトレーニングは習慣になっていて、特に苦痛でもない。


 ランニングや筋トレで身体を鍛えた後に、スキルを鍛える。

 スキルというのは不思議なもので、鍛えることで詠唱を端折はしょったり、威力を高めたりすることができる。

 鍛え方は、ひたすらスキルを行使すること。

 だが、闇雲にやってもダメなのだ。

 自分の詠唱のどこがどう作用しているのか。

 慎重に吟味しながら行う。

 そうすると、ほんの少しだけ、そのスキルに熟練することができるのだ。

 それをひたすら、繰り返す。


 ……そんな毎日を送っていたある日。

 ギルドに行くと、俺が貼った募集用紙に、日時と場所が上書きされていた。

 これは、そこで俺の能力を判定して採用の可否を決めるという意味だ。

 一般的な仕事における、採用面接のようなもの。


 たいていは、スキルが本当か確かめるだけだ。

 あとは少し性格などを見るくらいか。

 最初は緊張したものだが、もはや慣れてしまった。

 なにせ過去5回の面接で、5回とも合格しているのだ。

 俺がつまづいているのは、ここではない。


 俺は緊張も喜びもあまり湧かず、とりあえず指定された場所へと向かった。

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