5、登殿の儀



 「これより登殿の儀を執り行う‼️」


 

 元々ピリッと緊張感溢れる場ではあったのだが、この一言で弦を弾くような緊張が人々にほとばしった。



 ・・・大丈夫。挨拶をして、鍵を貰うだけだから。頑張れ、ヴァイス。


 私はずいぶんと前に座っているヴァイスを見つめながら、念を送った。


 「此の良き秋の実りの日に皆に集まってもらったことに感謝する。この度は我が息子であるガイアルディア王子の配偶者選びのために登殿を行うことになった。この三姫から一人を選ぶ。選ばれなくても、側室に選ばれる可能性もなくはない。皆の者、精進するように」


 威厳のある声でシュタットリヒ王が言う。



 皆と同じように流れるような動作で深く礼をした私は再び王に目を向けた。



 「では、其々の宮の鍵を与える。これを保持してている以上、そなたらはその宮の管理者である。では、華島から来たスレリンよ。こちらへ」



 はい、と返事をした声は見た目通りの凛々しい声をしていた。


 ぼへっと見ていた私は王の「では次、寿島のヴァイス」という声で我にかえった。


 どうやらぼんやりしているうちにヴァイス以外の姫は鍵を受け取ったみたいだ。


 何事もなかったかのようにすっと立ち上がり、ヴァイスの後ろについていく。


 

 「寿島のヴァイスか。確か、双子であったな?その後ろに付いておる者はヴァイスの片割れか?」


 「そうでございます。こちらは妹のザフィーアと申します」


 「ふむ。ローゼが奉納されたが、エルドヴィーンは息災であるか?昔何かと世話になったものでな。今度は私がそなたらの世話をしよう」


 「誠にありがたきこと、恐れ多く存じます。父は息災でございますよ」


 

 「そうか。では鍵を受けとれ」



 「慎んでお受けいたします。この場に来ることができたこと、誠に嬉しく存じます」



 私はヴァイスと共に礼をし、王の側近から鍵を受けとる。



 父と王の関係性が分からず、頭のなかでぐるぐるしている。手にある鍵を見ると、まるで私を嘲笑うかのように透明のの宝石がきらりと光った。

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寿島物語 椛 風月 @chiharuochi

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