事読みが実際にどうやって力を使うのか、鈴音はあまり知らない。

 小景によると、天上から人の世を常に見守っているとされる龍神に〈御伺い〉をして、この先起こることを特別な鏡に映してもらうのだという。

 龍神が見せてくれる未来の光景は、事読みの能力によって変わる。よほど力の強い者でなければ曖昧な情報しか得ることができず、内容を正しく読み解くのにとても苦労するそうだ。その他にも様々な制約があるなど、決して万能な力ではないと聞いた。

「――此度の〈御伺い〉の解釈に、大きな間違いはなかったはずだ」

 壁を隔てた向こう側から、光繁の静かな声が聞こえていた。

「大風になることは予測ができていた。私の首が無事だということも。……しかし、あれほど苦戦するはめになろうとは」

「ごめんなさい。わたしがもっと、ちゃんとできれば」

「……いや。小景を責めているわけではない。おそらくだが、原因はもっと別のところにあるのだろう」

 思っていたほど感情的な話にはなっていないらしい。そのことに安堵しながら、鈴音はやり取りの続きを聞こうと壁に耳を押し当てる。

「ちょ、ちょっと、鈴音さん、勘弁してくれよう。誰も近づけんなって、光繁さまからきつく言われてんですよう」

 隣から見張り役の男に弱々しい声でたしなめられたが、今さら盗み聞きをやめるつもりはない。

「湯白の国とは幾度も刃を交えている。月日を追うごとに奴らの力が衰えているのは明らかだった。それが今になって、急に勢いづくのはおかしい。小景は何故だと思う」

「その……、向こうの事読みが代わった、とか?」

 小景が恐る恐るといった口調で答えると、光繁は唸るような声を出した。

「ああ、おそらく。しかも、かなり正確に先が読める者のようだ」

 それが本当ならば、緋浦にとっては大きな痛手になる。国長や武将が有能であるのはもちろん大事だが、戦の流れを掴んで相手の出方を知ることのできるほうが、やはり強い。

 阿木津を統一し、この世から争いをなくすという光繁の願いが、このままでは一気に遠ざかってしまうのだ。

「おおい、頼むよう。怒られるのはワシなんだって、わかってんでしょう」

 言いようのない焦りを感じていた鈴音の耳に、なんとも力のない声が届いた。ようやく首を動かすと、今にも泣きそうな表情をした見張り役の男が視界に入る。

 気の弱さが顔にも表れている、白髪交じりの中年の男だ。親の代から光繁の館で働いているらしい。見た目からして「いい人」という言葉がよく似合う人物だった。

「ごめん、六次ろくじさん。もうちょっとだけ」

 鈴音は手を合わせて頼んでみたが、六次は折れてくれなかった。

「いやいや、困りますよう。本気でお怒りになった光繁さまときたら、そらもう恐ろしくて恐ろしくて……」

「しーっ、静かに! 見つかっちゃう」

 次第に声が大きくなってきたのを見かねて話をさえぎると、六次がしょんぼりしながら口をつぐんだ。その姿に若干の罪悪感を抱きつつも、鈴音は再びふたりの会話に耳をそばだてる。

「……だからといって、負けてやるつもりは毛頭ない。そのために、おまえの力がどうしても必要だ。無理を言うが、もう少し〈御伺い〉の精度を高められるよう力を尽くしてみて欲しい」

「やってみます」

「すまぬな、小景」

 光繁は申し訳なさそうに謝ったが、対する小景の声は明るかった。

「いいんです。今年は〈降神祭こうしんさい〉だし、頑張らないといけないときですから」

 降神祭。五十年に一度、天上に住まう龍神が地上に姿を現し、その時点で一番力を持つ国長に〈水分みくまりの剣〉と呼ばれる宝を託すという、特別な日だ。

 数ヶ月後に控えたその祭で龍神に認められることは、阿木津の国々にとって大きな名誉になる。もちろん、緋浦の国にとっても。

「うむ。よろしく頼む」

 話し合いが終わりそうな気配を感じて、鈴音は心の中でほっと息をついた。一方的に小景が光繁から責められるような内容ではなくてよかった。あとは中のふたりと鉢合わせないように、そっとこの場を立ち去るだけだ。

 しかし、何事もそう上手くいくものではない。

「――ところで、鈴音はいつまでそこにいるつもりだ?」

「ひぇっ!」

 いきなり呼びかけられたせいで、思わず間の抜けた声が出る。慌てて口もとを押さえたがもう遅い。頭を抱える六次を横目に、鈴音は覚悟を決めて進み出た。

 室内は小さな宴会ができるほどの広さがあったが、掛け軸と生け花の他にはほとんど装飾のない、素朴な内装をしていた。光繁と小景は部屋の奥で向かい合わせに座っている。

「鈴姉! いつからいたの?」

 驚いて目を丸くしている小景とは反対に、無言のままこちらに向けられる光繁の眼差しは鋭い。

「す、すみません。どうしても気になってしまって。邪魔にならないようにするつもりだったのですけれど」

 気後れしながら話す鈴音に、光繁の苛立たしげな声が飛んだ。

「丸わかりだ、阿呆め。それから六次、誰も近づけるなと命じておいたはずだが」

「はいぃ! 申し訳ございません!」

 六次がその場で床に頭をつけるのを観て、鈴音も慌ててそれにならう。なんとも言えない空気がしばらく流れたあとで、深々としたため息が落とされた。

「まったく。私はこれで戻る」

 諦めきった口調に続いて荒々しく部屋を出ていく足音を聞き届け、鈴音は怖々しながら頭を上げた。そこには苦笑を浮かべる小景の姿だけがある。

「鈴姉、もう大丈夫だよ」

「あ、うん。……ごめんなさい、勝手に話を聞いていて」

「いいよ。心配してきてくれたんでしょ? ありがと」

 小景の表情には明らかに疲れが現れていた。だがそんな素振りは見せない。笑顔のまま彼女はおもむろに立ち上がる。

「じゃあわたし、もういくね。光繁さまに難しい課題出されちゃったから」

 衣擦れの音を鳴らしながら小景もいなくなり、その場には並んで正座する鈴音と六次が取り残される形となった。静けさの中、ふたりはお互いに顔を見合わせる。

「バレちまってましたね」

 先に口を開いたのは六次のほうだった。

「ええと、そんじゃワシも、庭の手入れをせにゃならんので」

 気まずい空気から逃れるように、彼はそそくさと立ち去った。その背中を見送ってから、鈴音もようやく腰を上げる。

 庭に面した縁側をとぼとぼ歩いていると、腹の底からため息が込み上げてきた。

「はあ」

 この二年で小景は本当に成長した。

 出会った頃の彼女はまだ事読みの座を継いだばかりで、何をするにも自信がなさそうだった。それが今や、光繁とも臆せず対話し、他人への気遣いもできている。

 小景ももう十二歳だ。近いうちに遊び相手など必要なくなるときがくる。それまでに、鈴音が緋浦に居続けられる理由を探さなければならない。

 縁側の角を曲がってしばらく。下を向いて歩いていたために、壁によりかかる人影に気づくのが遅れた。少し通り過ぎてしまったあとで、鈴音ははっとして振り返る。

「……あれ、閃? びっくりした。何してるの」

 閃は両腕を組んだまま、横目でにらむようにしてこちらを見ている。怒っているわけではなく、ただ目つきが悪いだけだ。それがわかるくらいには、彼ともつき合いが長い。

「時継さまに見てこいと言われた。おまえが落ち込んでいるだろうから、と」

 さらりと言い当てられて鈴音は言葉を詰まらせた。

「うっ。なんでわかるのかしら」

「単純だからだろ」

「うるさいわね」

 確かにそうかもしれないが、率直に言われるのはなんだか癪だ。唇を尖らせてにらんでみたものの、閃は表情を変えずに鼻から息を吐いただけだった。吊り上がった瞳がじっと鈴音に向けられている。まるで、彼女の言葉を待っているかのように。

 鈴音は少しためらってから、静かに口をひらいた。

「……わたし、本当になんの役にも立ててないな、って思って」

 一度話し始めると、胸に仕舞っていた思いがするする出てきて止まらなくなる。

「小景には事読みとしての役目があるし、閃が剣の使い手だってことも噂で聞いてる。六次さんだって庭の手入れとか、館の細かな仕事を任されてるわ。わたしだけ何もやることがないなんて、いやなの。わたしも緋浦のためになる手伝いがしたい」

「例えば?」

 短く続きを促されて、鈴音は身を乗り出した。

「例えば、そう、弓の腕を活かして戦に――」

 途端に閃の眉がきつくひそめられたのを見て、思わず黙り込んだ。今度は本当に怒っているようだ。鈴音は少しだけ怯んでから、それでも彼をにらみ返す。

「何よ」

「例えばで出られるほど戦は甘いものじゃない。そもそも、お前に人が殺せるとは思えない」

 ぴしゃりと言われてとっさに反論できなかった。悔しさで顔をしかめる鈴音から顔をそらし、閃が黙って立ち去っていく。残された鈴音は、身体の横で拳を握り締めることしかできない。

「……そんなの、わかってるわよ」

 誰にともなくつぶやいた声を、そよ風がさらっていった。


       *


 月の明るい夜だった。

 蛙の声がこだまする中、手入れの行き届いた広大な庭園を、手燭を持った老人が足早に歩いていく。

 灯火がぼんやりと照らし出しているのは、胸もとまで伸びた白い髭と、深いしわの刻まれた顔。齢六十は過ぎているだろうが、姿勢や足取りはしっかりとしたものだった。衰えはほとんど見られない。

 名を望長もちながという。かつて繁栄を極めた大国、湯白の国を束ねる者だ。その背には代々積み上げてきた歴史を負っている。まだ老いてなどいられなかった。

 自分の館の敷地内とはいえ、彼が伴をつけずに外を歩いているのには訳がある。今から起こることを誰にも見られるわけにはいかない。どこに敵がいるかわからないのだから。

(……そう、せめてあと、数ヶ月。〈降神祭〉があるまでは)

 強い決意を胸に秘めながら、望長は黙々と進む。

 やがてたどり着いたのは、庭園の端にどっしりと構えた倉のような建物だ。片手で懐から鍵を取り出し錠前を解くと、彼は両開きの木戸をわずかにひらいた。

 辺りに人がいないのを入念に確かめてから、中にすべり込む。ひやりとした空気で満ちた建物の内部には、ほとんど物がなかった。あるのは一番奥に見えている、白い台座に置かれた平らな水盆だけだ。

 天窓から差し込んだひと筋の月明かりが、水盆を煌々と照らしている。それが天上の神と人を繋ぐ道具であることを知らしめるかのように。

 後ろ手に木戸を閉め、望長は静かにまぶたを閉じた。

(隠し通さなければならぬ。何があろうとも)

 再びひらいた瞳に、迷いの色は一切ない。袴の裾を大きくさばいて歩み寄り、台座の前で立ち止まる。

 青い錆のついた盆は両手を広げたほどの大きさがあった。薄く張られた水面に、眉間にしわを刻んだ望長の顔が映り込んでいる。

 これは〈常凪とこなぎの鏡〉と呼ばれるものだ。事読みが龍神と交信する際に使用する。

 その名の通り、外からの衝撃があっても水面は微動だにしない。波立たせることができるのは、事読みの血を引く者のみ。望長が覗き込んだところで、彼にはなんの変化も起こすことはできない。

 しかしそのとき、盆に張られた水が細かく揺らいだ。

「来たか」

 望長が低い声でつぶやくと、一拍遅れて鏡の中から返事があった。

『いい夜だな、湯白の長よ』

 まるで水中に潜っているかのような、くぐもった声だった。男なのか女なのか、老いているのか若いのかもわからない。

『そちらも美しい月が昇っているだろう? ああ、失敬。月を愛でている余裕などおまえにはなかったか』

 笑いを含んだ言い方に、望長は歯を食い縛る。

「ふん……。なんとでも言うがよいわ」


〈常凪の鏡〉から声が聞こえるようになったのは、今より半年ほど前のことだった。それまで湯白に仕えていた事読みが自ら命を絶った、ちょうどその日からである。

 鏡のそばで首から血を流している骸を目にしたあのとき、望長はひどく狼狽した。阿木津の長い歴史の中で、事読みを絶やした国はことごとく滅んでいるからだ。それが先を見通せず他国に攻められやすくなったせいなのか、神との繋がりを切らした罰であるのかは誰にもわからない。

 ぞんざいな扱いをしていたことへの抵抗だったのだろう。死んだ事読みはまだ若く、力を受け継ぐ子はいなかった。それもわかっていて自害したのだ。

 次の人材を探そうにも、事読みという者は本当に不思議な存在で、こちらから会いたいと願えば会えるというものではない。

 伝承によれば、事読みの一族はどこかの隠れ里に暮らしており、力の強い者は大人になると放浪の旅に出るらしい。そのときは瞳がまだ黒く、他の人間と区別がつかないが、命を預けてもよいと思う者に出会って忠誠を誓った瞬間に、初めて目の色が青く変化するという。

 なんとも眉唾な話だとは思うものの、彼らの異能を考えるとただの噂とも言いがたい。事実ならばまず放浪中の者を見分け、さらにはどうしかして従わせなければならない。相当な時間と手間がかかる。

 そのような暇はなかった。ただでさえ湯白の国力が落ちてきているというのに――。

 死んだ事読みの遺体を秘密裏に処理したあとで、望長が途方に暮れていたときだった。

『私がおまえの事読みになってやろう』

 都合よく、狙いすましたかのように、水鏡の向こうから声が聞こえたのは。

『湯白の国が再び阿木津のすべてを手に入れるという結果が見えた。私は強い国に仕え、のちの世にまで名を残したい。予知を現実とするために力を貸す』

 それが声の言い分だった。

 水を使って声を遠くに運ぶというのも、事読みが持つ力の一部だ。彼らは目が青くなると同時に〈常凪の鏡〉から一定以上離れられなくなるが、代わりにその力で主人のいる戦場に言葉を届けることができる。

 人外の力を得ているのだから、声の主が事読みの一族であるのは間違いない。己の野望を果たすためだというのも、利己的でうなずける。しかし色々な点で怪し過ぎた。

「直接私の前に姿を現さないのは何故だ? 水と語るだけでは信用が置けぬ」

『信用してもらおうとは端から考えていない。どちらにしろ、おまえに選択の余地などないのだから』

「何?」

『これは脅しだ。申し出を断れば、あらゆる場所に湯白の事読みが不在になったことを暴露する。それがいやなら私を使え』

 望長は怒りで頬を引きつらせた。姿の見えない相手の言う通り、要求を呑む以外に方法がなかったからだ。

 事読みの不在は国の一大事。他国に知られれば好機だと攻められるし、国内に広まれば混乱が起きるのは免れない。外からも内からも崩れ、湯白は滅びてしまう。

「……なるほど。面白い」

 怒りを通り越して、腹の底からは笑いが込み上げてきた。

「かつて栄華を誇った湯白の国の長であるこの私が、どこの馬の骨ともわからぬ輩に弱みを握られ、踏み台にされる日が来るとはな」

『それでいい。悪い話でもないだろう。先を読むことの難しさは、おまえも知っているはずだ』

 確かにそうだった。〈御伺い〉で映し出される予知の精度は、事読みの腕によって変わる。声の主は前任者が死ぬ日を正確に把握していた。相当な力を持つ事読みであるということだ。

『さて。では手始めに、いくつか事読みとしての仕事をしよう。今回のことがまぐれではないと照明するために』

 そう言って声が指示を出したのは、近々起こるであろう戦についてだった。

 湯白の北端では、国境を接する夜河の国とのにらみ合いが長く続いている。その危うい関係が数日後に崩れ、夜河のほうから仕掛けてくるというものだ。

 声の主の罠かもしれないが、本当ならばと考えると動かないわけにもいかない。望長が半信半疑で兵を出すと、予言の通りに戦があった。指示に従い戦って、湯白は今までにないほどに圧勝した。

 次に国内で反乱が起こるという読みも、これまた見事に的中した。

 そうして新たな事読みを迎え、三度目に行った戦が、数日前に勃発した緋浦の国との一戦だった。


『勝敗は決しなかったが、悪くはなかっただろう?』

「……確かに、緋浦の奴らに一矢報いることはできたが」

 湯白復興を願う望長にとって、緋浦は最大の敵だ。

 十数年前に小さな国を建てたかと思うと、みるみる勢力を拡大し、今では阿木津で一、二を争う強国などと呼ばれている。

 新参者の野蛮な国のくせに、歴史ある湯白の天下を阻んでいいはずがない。さっさと叩き潰してしまわなければ。先日の戦はそれを実行できるいい機会だった。しかし。

「大風ごときで撤退したのは納得がいかぬ。多少の犠牲は出ようとも、もう少し続けていれば勝てていたはず」

 引き分けでは意味がないのだ。長の首を取らなければ、ただの喧嘩と同じである。

『あそこで止めろというのが、〈御伺い〉の結果だった。欲を優先して神の声を軽んじると、すべてを失うことになるぞ』

 厳しい口調でそう告げたあとで、声は静かに話を続けた。

『あの戦で緋浦は私の存在に気づいたはずだ。奴らは警戒し、しばらくは攻めの手を止めるだろう。夜河にも牽制を効かせてある。今のうちに次のための力を蓄えておけ』

「心得ておる。偉そうに言いおって」

 望長はふんと鼻を鳴らした。声の言うことはもっともだ。しかしゆっくりもしていられない。〈降神祭〉が来るまでに、湯白の国の力を天に示さなければならなかった。なんとしてでも。

「……して、次の緋浦との戦はいつだ。近いうちなのだろうな」

『ふた月後だ。こちらから動く』

「ふた月だと! そんなにも……ええい、仕方があるまい。勝てるのか」

『相手に気づかれなければ。緋浦の事読みが無能であることを願っておくがいい』

 その点は心配ない、と望長は心の中でつぶやいた。緋浦の事読みはまだ力を継いだばかりの子どもであると、内通の者より報告を受けている。知識も経験も浅い。恐れるに足らないだろう。

「出陣のために万全の準備をしておこう。今度こそ緋浦の国を滅ぼせると信じて」

『戦の時期が近づいた頃にまた来る。ではな』

 そう言い残し、声は途絶えた。〈常凪の鏡〉が再び平らな水盆へと戻る。しんと静まり返った室内で、望長は深く息を吐いた。

(……さて、果たして味方なのか敵なのか)

 本気で湯白を勝たせようとしているのかもしれないし、協力するのは振りだけで、いつか裏切る気でいるかもしれない。

(どちらでもよい。まだ利用できる)

 騙すつもりでいても、こちらの信用を得るためにまだ何度かは有益な情報をくれるだろう。それを使わない手はない。相手の思惑に乗っていると見せかけておいて、ぎりぎりのところで関係を切ってしまえばよいのだ。

(阿木津の天下を手にするのは湯白だけだ。……今までも、これからも)

 そのためならなんでもする。どんな手も使う。誰にも邪魔をさせてなるものか。

(緋浦の奴らめ。今に見ておれ)

 口もとに不敵な笑みを浮かべながら、望長は水盆に背を向けた。

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