第10話 大団円

「数年前に収束したと思われていたウイルスですが、今回は別の形に変異して、ⅹ国で発生し、都市はロックダウンを掛けましたが、すでに蔓延は他の都市や諸外国でも確認され、現在まだ我が国では発見されておりませんが、時間の問題かと思われます」

 と、夕方のニュースでやっていた。

 やっと、数年前に収束し、それがすでに過去の出来事のように平和を取り戻した日本では、このニュースを機会に、また恐怖が全国を駆け巡った。

「いよいよ来たか」

 と川村教授はそういうと、一緒にテレビを見ていた数人の研究者とともに、引きつった顔になったが、すぐに不敵な笑いを浮かべた。

「教授、またパンデミックが起こって、前の時のようになりますかね?」

 と一人がいうと、

「そうだな。少なくとも長期化させてはいけないからな。前は長期化させてしまって、国が彷徨っている間に、もう少しで国家体制が壊れてしまうところを、何とかワクチン効果があったのか、収束したので、よかったからな。もしあのまま続いていれば、日本の国は、無法地帯の下等動物のような恐怖を恐怖と思わない連中が国を滅ぼしているからな。今回はそんなことがないように、恐怖を恐怖と思わない連中をターゲットに、発明したものが生きるというものだ」

 と、川村教授は言った。

 そうなのだ。今回の研究の骨子はそこにあったのだ。

「恐怖症を研究するということは、恐怖の研究であり、恐怖の研究は、恐怖を恐怖と思わない連中に恐怖を悟らせることで、ある意味、いい方に洗脳できればいいというのが、国家プロジェクトだった。しかし、いくら当時の緊急事態と言っても、法的根拠のない洗脳はどんなことがあっても許されない。しかし、恐怖を恐怖と思わせることで、皆の気持ちを一つにすることでもしなければ、また前と同じことになり、今度こそ、国家の存亡はまったく保証されないことになってしまうだろう」

 とさらに教授は言った。

 それを聞いて、研究員も黙って頷いた。気持ちは皆同じなのだ。

「それに今回は、小林さんの研究もありますからね」

 と沢口は言った。

「そうなんだ。小林はなかなかいいものを開発してくれた」

 と教授は言った。

 この時には、すでに川村研究室の恐怖への研究の発表。さらに、小林が開発した本性と恐怖症に関する研究も、川村研究室とは被ってもいないので、それぞれに有効だった。

 まるで共同研究でもしたかのようなこれらの研究は、表向きはアルツハイマーであったり、精神的な症状としてトラウマなどの解消や治療に役立つという発表だった。

 そのことに間違いはないが、実際には裏で、今度起こるパンデミックによって引き起こされる問題、つまりは、デマや誹謗中傷をいかになくすかということをテーマにしたもので、それによって、精神的な団結を行うことで、危機を乗り切るというやり方だった。

 医学や薬学の方で、これらの根本的な収束を見るまでは、抑え込むしかなく、それに失敗すると、日本は今度こそ崩壊してしまう。それを防ぐために大切な発明だったのだ。

 私利私欲に走っていた連中も、

「日本が滅べば、いくらお金があっても、どうしようもない」

 と気付いたのだろう。

「日本が滅んだところで、他の国が存在していれば、まだまだ自分たちが安泰だ」

 と思っていたのだろうが、それが間違いだったことに気づいた。

 どんなに小さな国であっても、このパンデミックにより消滅を見ると、連鎖的にどんどん地域単位で潰れていき、国家バランスが完全に崩れてしまうことで、どの国も存続ができなくなるのだ。

「私利私欲に目がくらんだお金の亡者は、そんな簡単なことも分からなくなっているんだよな」

 というのだった。

「やつらこそ、パンデミックを引き起こしているウイルスの発祥の地なのではないか?」

 と考えた教授は、

「今度はやつらを撲滅する発明をしよう。前のパンデミックの時に、たっぷりと調査しているからな」

 と、川村教授が言うのを聞いて、不敵な笑みを浮かべたのは、川村教授を含めた研究員全員だったのだ……。


                (  完  )

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恐怖症の研究 森本 晃次 @kakku

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