第7話 酔った彼女がこぼした本音は……

(部屋に入る二人)

藤吉ふじよし「適当に座ってていいよ。寒くないかい?」


星見ほしみ「大丈夫ですぅ~。あの、フジヨシさん……本当にありがとうございますぅ~……(申し訳なさそうに)」


藤吉「気にしなくていいよ。困った時はお互い様ってやつさ。それに、部屋に入れるなんて今さらだろう?」


星見「そうかもしれませんけどぉ……お泊まりまでは……」


藤吉「大丈夫だから。あ、星見さんは夕飯食べた? 俺はこれから作ろうと思ってるんだけど」


星見「いえ、まだ食べてないですぅ~……」


藤吉「じゃあ、一緒に食べようか。簡単なものでよければ作るよ」


星見「いいんですかぁ? ご迷惑じゃないですか?」


藤吉「平気だって。じゃあ、ちょっと待っててくれ」

(台所へ向かう藤吉)


(数分後、食事の準備を終えて戻ってくる)

藤吉「お待たせ。ある物で作ったから大したものじゃないけどさ、どうぞ召し上がれ」


星見「あ……ありがとうございます……。いただきます……(控えめに)」


藤吉(心の声)「なんか……いつもより元気がないような気がするな……。やっぱり落ち込んでるんだろうか……?」


藤吉「……どう? 美味しい?」


星見「……はい、美味しいです(小声で)」


藤吉「……そっか、良かった」


藤吉(心の声)「星見さんがこの調子だと、どうも落ち着かないんだよなぁ……。あ、そうだ……」

(おもむろに立ち上がって台所へ向かう藤吉、缶ビール二本を持って戻ってくる)

(一本を星見の前に置く)


藤吉「あー……こういう時は、やっぱりビールだよなぁ(プルタブをあけながら)」


星見「あの……フジヨシさん、これ……」


藤吉「ん? 俺はただ置いただけだよ? ……まぁ、好きにしてくれればいいからさ」


星見「……フジヨシさん、優しいですね(ボソッと)じゃあ、いただきます……(一口飲む)」


藤吉「……ははっ、そうでもないさ」



(しばらくして)

星見「えへぇ~……フジヨシさぁん……(ぽやぽやと)」


藤吉「ちょっ……星見さん、こぼれるっ……!」

藤吉(心の声)「ヤバい……これは完全に酔ってるな……。まさかこんなに弱いとは思わなかった……」


星見「フジヨシさ~ん、きいてますかぁ~……?」


藤吉「はいはい、聞いてるよ。それで、なんだい?」


星見「……今まで、ごめんらさい(頭を下げる)」


藤吉「えっ!? なんで謝るんだ!? 別に謝るようなこと……」


星見「だってぇ……わらしがわがままばっかり言ってるせいれぇ、迷惑かけたじゃないれすかぁ~」


藤吉「……そんなことないよ。俺だって楽しかったしさ、だから気にしないでくれよ」


星見「ほんとれすかぁ……? ならよかったれすぅ~えへへ~♪(嬉しそうに)」


(少し間をあけて)


星見「わらしぃ、ハーフだからぁ……身体が弱かったんれすぅ……」


藤吉「えっ、そうなのか?」

藤吉(心の声)「……どうしたんだ? 急に……」


星見「はいぃ~……。昔は病気がちらったんれすぅ……。生命力が低かったから……」


藤吉(心の声)「……そうだったのか。背が低いのも、もしかしたら……」


星見「でもぉ、辛いものを食べたりぃ……ワクワクすることをしたりしてたらぁ、身体の中から力が湧いてきたんれすぅ~! これってすごいことらと思いませんか~?」


藤吉「……ああ、そうだな。たしかに凄いことだと思うよ」


星見「えへへ~♪ でしょぉ~? だからね、わらし決めたんれすよぉ~! これからはもっと前向きに生きていこうってぇ!」


藤吉「星見さん……」


星見「一人暮らしもぉ、大学生活もぉ、全部ぜぇーんぶ楽しむって決めましたぁ~! これがわらしの生きる道なんれす~!」


藤吉「そうか……。星見さんは強いんだな……」


星見「ふへへぇ~そうれすかぁ~? うふふっ……わらし、フジヨシさんがお隣さんで良かったれすぅ~……」


藤吉「……どうして?」


星見「だぁってぇ~、フジヨシさんといると楽しいんれすもん~! それにぃ、安心できるっていうかぁ……」


藤吉「安心できる……?」


星見「そうれす! フジヨシさんと一緒にいると心がポカポカしてくるんれすよぉ~!」


藤吉「それは嬉しいな……ありがとう」


星見「だからぁ……お友達れ……いてくれてぇ……ありがとーごじゃいまひたぁ……」


(数分後、星見は寝息を立て始める)


藤吉「……俺も、星見さんに出会えて良かったよ」

(そっと頭を撫でる)



【翌朝、目を覚ます星見】

(起き上がると見知らぬ部屋にいることに気付いて驚く)

星見「あれ……? あ、そうだ……! わたし昨日、フジヨシさんのお部屋で寝ちゃったんだった……!」


(慌ててベッドから降りる)

(机の上にメモ書きが置いてあるのを見つける)

星見「……これ、フジヨシさんの字だ。なになに……?」

(メモを手に取り読む)


『おはよう、星見さん。よく眠れたかい? あの後、星見さんの部屋の鍵を見つけたよ。カバンを動かそうとしたら、中から転がり出てきたんだ。勝手に触ってしまってごめん。でも、見つかって良かったよ。俺は仕事に行ってくるから、合鍵を置いておくね。夜にでも返しに来てくれたらいいから。短い間だったけど、友達になれて嬉しかったよ。 藤吉より』


星見「フジヨシさん……そうですよね。約束ですもんね……(寂しそうに)」


星見「それにしても、フジヨシさんらしい文面だなぁ……ふふっ♪」


(メモをしばらく眺めた後、カバンにしまう)

星見「さーて、そろそろ行かなくちゃ! 今まで、ありがとうございました!」

(玄関に向かう)


藤吉(モノローグ)「こうして、俺たちの一ヶ月限定の友人関係は終わりを告げたのだった」

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