エピソード04:関係ないからだろ


小栗おぐり、ちょっと頼みがあるんだが」


「こーとーわーらーぬー」



 なんだコイツ、気持ちわるっ! あれか? 有名な漫才師のノッポで白い方の真似か? それ、全然流行ってないけど。



「いや、無視すんなよ宍戸ししど。そこは乗ろうぜ」


「俺にナルシストになれってか? まあ、好感度は一緒だけどな」


「いや、それはさぁ、まず、その変な眼鏡をやめて前髪切れって。昨日から話題沸騰! 動画のヒーローみたいに」


「なっ!! なんでそれを?」



 珍しく俺が大きな声をあげたもんだから、教室の視線が集まってきた。中には馬鹿の一つ覚えみたいに、『シッシ』っと、手を動かしている奴までいる。



「わからいでか。テレビでもそうだし、ネットの検索サイトのトップにも出てたぞ」


「マジか。なら話が早いな」


「どうした?」


「助けた子なんだけど、どうやら1組の椎名しいな葉月はづきさんの甥らしいんだよ」



「あっ! そういうことね」


 小栗は閃いたように『ポン』っと両手を叩いて見せ、ドヤ顔で俺を見てきた。



「椎名さん、学校のアイドルだもんな。わかるよ、うん。凄くわかる。」


「なにが?」


「あれだろ? 学校のアイドルに、自分がヒーローですって名乗り出て、お近付きになりたいって魂胆だろ?」


「はっ? そんなわけねぇだろ。……あっ!」



 俺も小栗の真似をして、『ポン』っと両手を叩いた。



「今の発言はあれか? 黒髪美人の彼女から、金髪美女の椎名さんに乗り換えたいってことか? 下衆の極みだな」


「下衆は己じゃ。クラスの中心で、宍戸の本性を叫でやりたい」


「まぁ、それはそうと、その子がどうなったのかを知りたいんだ」


「まず訂正しろ。俺は美香みか一筋で、そこは揺らいだことねぇんだよ」



 おぉぉっ!! 顔がマジな奴だ。



「小栗、すまん。相沢あいざわさんにも、感謝と謝罪を伝えておいてくれるか?」


「ん? 何かあったのか」


「さっき職員室へ向かう途中で、ちょっと女子に揶揄われたんだけどさ、相沢さんが庇ってくれたんだよ。ホント、お前には勿体ない彼女だな」


「ちょくちょく嫌味入れるのやめてくれる? お前、友達無くすよ? マジで」



 俺……友達って、小栗以外いないんだけど



「意味わかってて言ってるなら、そっくりそのまま返すぞ?」


「あっ、俺の方こそすまん」



 チッ! 天然かよ。



「じゃあ、こんな俺が小栗の友人ですみませんって、謝罪しておいて」


「お、お礼だけ伝えておくよ。ってか、椎名さんとお近付きになれるチャンスなのに、いいのか?」


「いいんだよ。俺が話し掛けられる相手じゃないしな」


「だからその身なりをやめろって」


「いや、それだけじゃなくて。小栗にも話たと思うけど、中学の時から、俺は女性から嫌われる体質らしいから」



 中学の時からそうなんだよな。なぜか仲良くなった子が、みんな急によそよそしくなったり、無視するようになる。


 たぶん、俺のことを生理的に受け付けなくなるんだろう。なんとなくその原因は、俺の臭いなんじゃないかと思っている。だから今は、かなり気を付けているんだけど。



「その話、どうも信じられないんだよな」


「お前がどう思うかは知らんが、事実だ。悲しいぐらいに事実なんだよ」


「ふぅぅん。わかったらSNSで連絡してやるよ」


「さっきも言ったけど、俺が職員室に呼ばれた理由、もう忘れたのか?」



 小栗啓二は、どうもナチュラルに抜けている。そこが愛されキャラ的な要素でもあったりするから、やっぱりタチが悪い。人懐っこいところもあり、そのルックスも加算されて学年一のモテ男だった。


 おまけに運動神経まで良いんだから、ある意味で真のヒーローだ。そんなヒーローには、素敵なヒロインがいるわけで



「美香、優しいだろ?」


「ソウダネ」



 独り身の俺に、平気で惚気てくるコイツの神経は、やっぱりどうかしてると思う。


 相沢さんに関しては、さっきの出来事からもわかる通り、とても優しくて良い人だと思う。それに誰が見ても美人だしな。


 遠くから見ても一人だけ目のいくような濡羽色ぬればいろの髪。一見ツンとしクールに見えるんだけど、小栗に向ける笑顔なんかは、とても柔らかい。


 お世辞抜きでお似合いのカップルだと思う。



「椎名さん、彼氏とかいないらしいぞ」


「ソレガドウシタ」


「なんでそんなに無機質なんだよ」


「俺には関係ないからだろ」



 椎名しいな葉月はづきは、ちょっと異質だ。


 たぶん、ハーフなんだろうか? ブロンドヘアーにグレーの瞳。まるで天に授かったかのような形貌なりかたち。


 冗談抜きでハリウッド映画とかに出ていても、不思議ではない。彼氏がいないってことは、理想がエベレストなんだろうか? 


 それとも違う趣味をお持ちなのかもしれない。


 それも含めて、俺には関係ないことなんだけど。


 そんなことよりも、今日は俺の憩いのひと時。



 そう、バイトの日なんだ。



        『あとがき』


啓二と美香のSNS



啓二:『美香、大好きだ』

美香:『嬉しいけど、突然?』


啓二:『友達を庇ってくれて有難う。宍戸からも有難うって』

美香:『ううん。こっちこそ、嫌な思いをさせてしまってごめんなさい』


啓二:『俺があいつと友達なのって、嫌か?』

美香:『さっきから突然過ぎ(笑)そんなわけないよ』


啓二:『良かった』

美香:『チャラそうな人や不良みたいな人と一緒にいられるのは、正直嫌かも』


啓二:『そんな友達はいねぇよ』

美香:『知ってる(笑)』


啓二:『今日部活早上がりなんだ』

美香:『じゃあいつもの場所で?』


啓二:『美香、付き合ってくれて有難う』

美香:『やっぱり突然(笑) 啓二、私も大好きだよ』

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