エピソード03:彼氏の友人ですみません


 俺の起床はAM6:00ちょうど。


 地元で親に無理やり連れていかれたクリニックの先生に、早起きして日光を浴びるように指導された。元々は朝練で早起きしていた俺は、すっかり今の生活にも慣れている。


 一人暮らししてから始めたことは、寝起きのシャワーだ。うん、父さんと母さんには感謝してるよ、本当に。



「ふぅぅ」



 スマホの水没には参ったな。特に誰から連絡が来ることもないんだけど。そういえば妹の海うみから、時々、生存確認があるくらいだ。



「でも不便だしな。週末にはスマホを修理に出すか。修理が無理だったら、買い替えか」



 一人暮らしの独り言も習慣になってきた今日この頃。


 俺は学校スタイルにセットして家を出た。



~~~~~~~~~~



「はい、今日はここまで」


 授業の終了を知らせるチャイムの音と共に、4限目が終了した。



 無論、ここに至るまで誰とも話をしていない。別にじゃないぞ? ちゃんと声だって掛けられるし。まあ、そのほとんどというか、9割以上が嫌がらせなんだけど。



『2年5組 宍戸ししど大地だいち君、宍戸大地君、至急職員室まで来て下さい』



『えっ?』と思わず声が漏れてしまった。



宍戸ししど、お前なんかしたのかよ?」


「いや、心当たりは全くないな」



 ニヤニヤしながら声を掛けてきたのは、唯一と言っていい、俺へ嫌がらせなく話掛けてくる小栗おぐり 啓二けいじ。サッカー部のエースで、一年の時からレギュラーのモテ男だ。


 こいつは俺の過去に気付いたみたいで、入学してすぐ、頻繁に声を掛けて来るようになった。



 当然と言えば、当然。


 何せ中学時代、最後の中体連の県準決勝で戦ったチームのキャプテンだったんだから。小栗とは試合前に握手と試合後にはお互いの健闘を讃えて、ガッチリ肩を組んだしな。



「小栗、またそんな奴に声掛けて」


「小栗は人間できてるな!!」


「おぐりん、優しい」


「小栗君が人気あるのって、わかるよねぇ」



 教室の男女から、小栗を讃える声が届く。


 こいつ……自分の株を上げる為に、わざわざ俺へと声を掛けてきてんじゃないだろうなって、時々疑いたくなる。



「何見てんだよ」


「いいや。行ってくるわ、オグりん」



「ふん、10分前までは待っててやるよ」


「別にいいのに」



『2年5組 宍戸大地君、大至急職員室まで!!』



「ヤベッ!」


「さっさと行きやがれ」



 教室を出ようとする俺へ、男子生徒から『シッシ』と追いやるように手を振られた。


 シシドの名字から、俺への嫌がらせの一つとして、それは浸透している。


 特に気にはならないけど。



~~~~~~~~~~



 職員室へ向かう途中、この学校でも有名な女子生徒を含んだグループが、こちらに向かって歩いてきた。



「昨日のあれ、凄かったね!!」


「うん!! 見た見た」


「あれって、あそこの川でしょ!?」


「助けて頂いたのは、私の甥なの」



「「「 えぇぇーーーーっ!!!! 」」」



 ぬぅぅ、会話が気になる。


 あの子、大丈夫だったんだろうか? それにしても世間は狭いな。椎名しいな葉月はづきさんの甥だったとはね。俺があのグループへ近づく訳にいかないし。


 でも、椎名さんはともかく、なんでみんな知ってるんだ? まさか……あそこにいたのかな。まあ、あんまり考えないようにしよ。



 まずっ!! 


 グループの一人が、俺へと視線を向けていることに気がつく。



「なにこっち見てんの?」



 チッ、凍えるぐらい冷たい目線だな。俺以外にもお前らを見てる男子はいるだろうに。



「この人知ってるよ。 ほら、シッシ!!」


 もう一人の女子が、手で追いやるような仕草を見せる。くっ、別に気にならないけどな!!



「ちょっとやめなよぉ、二人とも」


 そんな声をあげてくれたのは、相沢あいざわ美香みかさんだった。相沢さんは小栗おぐり啓二けいじの彼女さんだ。



 相沢さんはそんな俺を見て、ペコっと軽く頭を下げて来た。



 もう女子グループに目を向けることも許されない状況だったので『ありがとう』と『こんな俺が彼氏の友人ですみません』と心の中で呟きながら、俺は職員室へと速歩きで向かった。



~~~~~~~~~~



「ねぇ、それで大丈夫だったの!?」


「はい、心配してくれてありがとうございます。一応、まだ入院してるのですが、問題は無いみたいで」


「良かったね!!」


「ありがとうございます!」


「それにしてもさ、すっごいカッコ良かったよね!! なんかヒーローって感じで」


「うん、マジでヤバかった! ドラマみたいだったよ!! それに俳優さんみたいだったもんね」


「うん! 私なんて、何回も動画再生しちゃった!!」


「わかる!! あの人誰なんだろうねぇぇ」



「「 ねーーーー!!!! 」」



~~~~~~~~~~


 テンションたかっ! ただ、離れ過ぎていて、さすがに何を喋ってるかは全然聞こえない。仕方ないから、後であいつに頼むとするか。


~~~~~~~~~~



「すみません、遅くなりました。宍戸です」


「宍戸君、遅いよ!! はい、あなたのお母さんから電話よ」


「えっ!?」


「え、じゃなく早く出てあげて。ずっと待たせてしまってるんだから!!」



 いやな予感を感じながら、俺は受話器を受け取った。



「あっ、もしもし、母さん?」


「大地? 大地、大丈夫なの!?」


「えっ!? なにが?」


「川に飛び込んだの、ニュースになってるわ。大地、大丈夫?」


「平気だよ。って、ニュースになってんの!?」


「そうよ? 知らないの? うみが音信不通だって言うし」


「あぁ、その時に携帯が水没してさ。ごめん」


「すぐに修理に出すか、買い換えて。お金は振り込むから」


「いや、いいよお金は」


「ダメよ。すぐにしてよ。ただでさえ一人暮らしなんて心配なんだから。わかった? すぐによ!! それじゃあ先生に代わって頂戴」


「ありがとう。あっ、このことは」


「先生には言わないから。だから、必ずすぐに行くのよ?」


「わかったよ。また連絡する」


「待ってるからね」



 俺は先生に受話器を渡し、一礼をしてからそそくさと職員室を後にした。



        『あとがき』


宍戸家での一幕



 海:「ママ、大変、大変!!」

 母:「海、どうしたの!?」

 海:「兄ちゃんが、お兄ちゃんがテレビに出てる!!」

 母:「えっ!?」

 父:「おい!! 検索サイトのトップニュースにも出てるぞ」

 海:「でも、お兄ちゃんに連絡がつかないよ?」


 母&父:「「えっ!!」」


 母:「学校へ明日確認するわ」

 父:「最後までお付き合い有難う御座います」


 海:「パパは急にどうしたの」

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