第5話 奇遇ですね

 7月29日。夏休み初日。


 一刻も早く宿題を終わらせるために市立図書館にやって来た。


 というのも、午前中は家で勉強してたんだけど、やっぱり一人だと集中できなかったのだ。一方、図書館なら涼しくて静か。なおかつ人の目もある。


 とりあえず宿題を終えるまでは毎日来ようかな。勉強には集中できるし、ついでに本を借りることもできる。学校で借りた分だけだとすぐに読み終わるだろうしな。


 約2時間ほど勉強をした後の休憩中、そんなことを考える。我ながら良い案だ。


 そうだ。休憩がてらに本を見よう。


 思い付いたと同時に席を立ち、小説コーナーへと向かう。


 もともと図書館にいる人は少なく、みんな席に座って本を読んだり、俺と同じように勉強したりしている。


 そんな静寂のなか、しばらく本を眺めていた。気になったものを手に取ったり、時には冒頭の数ページを読んでみたり。


「……………」


 って、いかんいかん。集中するためにわざわざ来たんだから、本の誘惑に負けていたら元も子もない。


 気付くと30分近く経っていた。


 すぐに勉強を再開しなければ。


 ほんの少しの焦燥感に駆られ、読みかけの本を棚に戻す。


 小説コーナーから離れ、席へと戻っていく。


 スリッパのカサ、カサ、という音がやけにはっきりと聞こえる。


 相変わらず人は少ないな………………ん?


 歩きながら、さっきまで俺が座っていた場所を見る。


 その隣には、誰かが座っていた。


 他に座るところはたくさんあるはずなのに、なぜかそこにいる。俺の勉強道具は置きっぱなしにしてあるから、誰かがいることは分かっていると思うんだが。


 だが、徐々に近づくにつれ、その後ろ姿の正体に気が付いた。


 これから約1ヶ月は会わないだろうと思っていた人が、そこにいた。


 そいつは、俺が隣に立つと顔を上げた。


「お隣失礼してます」


 そして、悪戯っぽい顔で、そう言った。


 一瞬、別の席に移動しようかと、そんなことが頭を過った。


 立ったまま、シャーペンを手に取る。それをペンケースの中に入れようとしたけど、直前で思い止まった。


 印象悪いか……………流石に。


 握ったシャーペンをノートの上に置き、席に座る。


「家だと集中できなかったんだよね。朝陽くんも?」


「まあ」


 できるだけ周りの人の迷惑にならないよう、小さな声で話す。


「何時までするつもり?」


 腕時計を確認する。


 3時30分をまわったところだ。


「…………6時くらいかな」


 確か、図書館の閉館時間6時30分のはずだ。


「じゃあ私もそうしよーっと」


 どういう意図でそう言ったのかは分からないが、もう話す気はないようで、勉強を再開した。



 俺もそれにならい、数学の参考書を開く。


 すぐ隣に人がいるから集中できないのではと心配していたが、それは杞憂に終わった。


 間近に頑張っている人がいると、意外にも集中できるものだ。


 ……………時々、肘が当たることを除けば。


「ふう」


 気付くと、5時をとっくに過ぎていた。


 少し休憩して、最後に手早く終わらせられるものをしよう。


 大きく伸びをしながら、横目に上村の様子を見る。


 シャーペンを持った右手で、垂れた横髪を耳にかける。


 その横顔を見るに、難儀しているようだ。


 手元に視線を移す。


 偶然にも、さっき俺が解いていた問題だった。


 だが、俺は何食わぬ顔でまた自分の勉強を始めた。


 必死に考えているだろうし、口を挟むのもどうかと思ったのだ。


「…………………」


「…………………」


「…………………」


 だけど、どうも落ち着かない。


 約10分が経過したが、耳に入ってくるのは俺が文字を書く音ばかり。隣からは何も聞こえてこない。


 それからしばらく、どうするべきか悩み、結局口を挟むことにした。


 しっかり自分で考えたなら、分からないままより分かった方がいいよな。




後書き

お久しぶりです。anvです。

まずは、『君だけが』をここまで読んでくださり、ありがとうございます(最終回じゃないですよ)。最近少し忙しくて、今回は内容が薄く、そして中途半端なところで終わったのをお詫びしたいと思って、後書きを書きました。それだけです。これからもよろしくお願いします!

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