魔女と英雄

 ガタンッゴトンッ、ガタンッゴトンッ――

 彼女と別れての帰り道、座って電車で揺られていると明らかにこの時間ではありえないほどこの車両に人が居ない


 カツッ、カツッ、カツッ......

 その音の主は僕の隣に座った。

「初めて人を斬った感触はどうだったかな」

 隣の男はズカズカと僕の心に踏み込んでいく。

「切れなかったよ......」

「でも、斬りつけたんだろ。それも斬ったに違いない」

 その言葉に沈黙で応える。

「まぁ、そんなことは些細なことだ。今日はこれをお前に渡したくて来た」

 彼の両腕の上には幅のある大きな大剣が現れた。

 まさにあのときの山室さんたちのように自分の武器を顕現させたように見えた。

「その剣は?」

「これは始まりの一の剣はじまりのいちのつるぎといって、この剣じゃないと魔女は殺せない」

 この剣じゃないと殺せない......ならなぜ、山室さんたちは彼女を斬っていたのか。

「彼らは知らないのさ、この剣でないといけないことを」

「知らずにあんなことをずっとやっているの?」

「ああ、そうさ。何十年もな」

 何十年も......それを聞いて愕然とした。

 意味のない痛みを彼女は何十年も受け続けてるいるのか。

「痛みは?」

「同然感じてるさ、感覚遮断は出来ない。あの箱の中でだけでの出来事だからな、お前も痛みを感じるような夢とか見たことあるだろ。それに近い世界」

 夢なんていう無意識な世界で感覚を切れるはずがない。

 夢を思い出せることや見たい夢くらいなら多少見れるけど、感覚操作だけは出来ない。

 それを出来る人間はおそらくいない。

 そういう世界で生きてるなんて、僕には想像できない。

「その「夢」を終わらせられるのは、「僕」しかいないってこと?」

「そうだな、だから「君」に頼むしかないんだ、君も彼女のことを気になってるだろ」

 そういうと一呼吸おいて。

 「俺も彼女が好きだった」

 その言葉にどこか嫉妬めいたものを抱いた。

「そう嫌な顔をしないでくれよ、僕はもう彼女に会うことは出来ないんだから」

 僕は自分の指を組み替える。

 組み替える指に視線を落として、自分の指先を見つめながら話を聞く。

「あと一度くらいなら君と会えると思うから、その時にまた返事聞くよ」

 僕はその言葉に無言で応えた。

「じゃあ、な」

 そう言って彼はカツッ、カツッ、カツッ......と音をさせて僕から遠ざかっていく。

 僕は軽く目を閉じる。


 次、目を開けた時には目の前にサラリーマン風のおじさんと子連れの女性が座っていた。

「次は――駅、――駅」

 車内には最寄り駅にまもなく到着するというアナウンスが流れた。

 


 

 

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