6.城下町での安息
「……ミツグ」
「なんだ? エイタ君」
さて、神帝城キリスタルズハイムの城下町で。
服を買って、風呂に入り。身ぎれいにしたのちに、天使たちの街なのになぜかある酒場で、酒と飯を頼んで。
云わば俺と同期と言っていい、神軍二等兵のミツグに尋ねた。
「あんた、地球の産まれだろ? しかも日本」
「ああ。そうだが? 何か気になる事でも? エイタ君?」
このミツグ。妙にエリート臭がする。メガネは掛けていないが、もしそれがあったらひどく似合うんじゃないだろうかとか。俺は思った。
「どんな仕事やってたんだ? ブラック企業だったのか?」
「はは……。私は、ブラック企業の課長だった。新入社員を洗脳して、上層部に利益を送るために。随分壊したものだよ、部下の心をな」
「……俺はさ。介護業やってたよ。老人介護。あれって、体力使うし給料安いけど。資格持ってるからな、俺は」
「ふん……。エイタ君。君は正しいな」
「ん? 何言ってんの? ミツグ?」
「私は嫌だった。それが社会に必要だとは言っても、老人のクソを拭って一生を終えるなんて。だから、ブラック企業だとわかっていて、あの会社に入って。汚い事いっぱいやって、課長にまでなった。でもな……」
ミツグが。何かを考えてから。口を開きなおす。
「でもな。同じだった。介護ではリアルな老人のクソを拭うが。ブラック企業では、頭がイカレた上層部の垂れ流す、精神的なクソ。それを拭わされるだけだったんだ」
それから、ミツグは笑った。
「この、キリスタニア。思ったより、いい所っぽいじゃないか。頑張ろうぜ、エイタ君。これから、成り上るんだろ? 私もそのつもりだ」
そう言って、運ばれてきた貝の醤油焼きを(醤油っぽく見える調味料で貝が焼いてあった)口に運び、ウィスキーっぽい酒を飲む。
俺は、焼き魚(ホッケぽかった)の身を、どう見ても箸にしか見えない棒を使ってほぐして、口に入れる。それから、コメの酒を飲んだ。
酒場で腹ごしらえをした後。
俺とミツグは、ホテルに向かった。
ホテルのフロントで別々の部屋を取って。
この日は寝た。
* * *
「やあ、おはよう」
俺が起きて、飯を食おうとホテルの食堂に向かうと。
ミツグがいた。コイツ意外とイケメンだな。爽やかオーラが出てる。
「私は、先程。朝食を終えたが。ビュッフェの食事は結構いけたぞ」
そう言って、コーヒーを飲んでいるミツグ。
「ビュッフェなのか、ここの飯」
俺がそう聞くと、ミツグは頷いた。
「好きなものを好きなだけ。食べられるとはいい事だ。君も食事にしたらどうかね?」
ミツグにそう薦められたので、俺は抵抗する理由もないので。
大テーブルに置かれた料理を、皿を持って取り始めた。
「……うめえ……」
「ははは。スクラップビーストの肉ばかりだったからね、私たちが最近食ベて来たものは」
俺が、焼いてあるブロックベーコンを齧って、パンをガツガツと食い。
カップにとったスープを一心不乱に貪っている様子を見て、ミツグは少し笑った。
「食事が終わったら。武器を買いに行こう。ネプティエル様がくれたお金には、これから神軍兵となる私たちの武器代も含まれているそうだから」
* * *
「ジャベリンか。いい武器を選ぶな、にーちゃん」
その武器屋の主。白いひげを生やした気の難しそうなガタイのいい天使が、そう言った。
「なんとなくね、おっちゃん。これ、近中距離で戦うようにできてそうだし、遠距離に対しては投擲が出来そうだと思ったんだよ」
「ふむ。その程度には。武器の見定めが出来る客か。ならば、この鎖をオマケに付けてやる」
店の主人は、俺が選んだジャベリンというらしい槍の尻の部分に、鎖をつけて俺に渡してくれた。
「投げた後に。引き戻せなくては武器を失う。まあ、工夫というものだ」
そういって、俺の背中をポンとたたいた。
「ご主人。私にはこれを売ってくれ」
声がしたので、振り向くと。ミツグが長弓を手に取って、弦をぐいぐいと引いていた。
「ほう? 背の高いにーちゃんの方は。扱いの難しい弓か。使ったことあるのか?」
「中学高校大学と。学生時代は全国に出るほど弓道をやっていた」
「ほぉ? 要するに、学校生活の間に弓をやっていたと。しかも長い間か」
「そういう事だ。矢も所望したい」
「それはいいが……。ターニングアローにするか?」
「ノーマルとどう違う?」
「ターニングアローは、放った者の手元に戻ってくる。ノーマルに比べれば相当高いが……。まあ、消耗しない」
「ふむ。一本幾らだ?」
「赤銅貨5枚。要するに、二本で銀貨1枚」
「……高いな。だが、消耗なしというのはいい。四本くれ」
「あいよ。長弓が銀貨2枚、ターニングアローが四本で銀貨2枚。計銀貨4枚だ」
「残りの金を全部吐き出すことになるか……。まあ、いい」
俺は財布代わりの革袋に、まだ銀貨を2枚残していたが。
ミツグの奴は、全額払って武器を買ってしまった。
随分思い切りのいいやつだな、と俺は思ったんだよな。
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